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第一章 王国、離縁篇
22.舞踏会(離縁)まで4日 - ルドアニア皇国は、優秀である -
「セドリックと繋ぐ。二人も同席せよ」
「「はっ、お心のままに」」
ヴィクトールがリリアーナの護衛を終え、レベロン王国で拠点としている宿に帰宿した後、直ぐにそう言い放った。
そして今、ルーカスとリチャードは宿のヴィクトールの個室にいる。
彼の個室は綺麗に整えられてはいるが、所詮はレベロン王国の中流階級向けの宿だ。
ルドアニア皇国では最新の魔導具や魔石を使う事により魔力が全くなくとも簡単に生活の基盤は成り立つのだが、王国にそれはまだない。そのため、灯りを点したければ、自分で火魔法を使用し火をつけなくてはならないわけだ。
皇国の皇帝であるヴィクトールが過ごしていいような場所ではないと断言できる。
これについて、ルーカスは再三リチャードに進言したのだが、色々と素性が漏れると困るという理由で却下されたのだ。
「リチャード、干渉阻害と探知、感知は忘れずに。それから防御魔法も同時展開せよ」
「はいっ、りょーかいでぇす♪」
リチャードはピンク色のふわふわした髪を片手でくるくると弄りながら多重に魔法を発動させる。
普通、何重にも異なる魔法を展開する事は高度な技である。神経をかなり集中させて行うものであり、リチャードだからこそ為せる技といったところだ。
その間にヴィクトールはセドリックと念話を繋ぎ、リチャードやルーカスにも聞こえるように魔法で拡げていく。いつも簡単に行っている、この念話も魔法としては難しく、使える人間は限られている。
何時何処でも使用できるのはヴィクトールやセドリック、リチャードのような、無属性持ちの術者同士くらいだろう。
だが、これに関しても皇国には距離の離れた者同士が話すことのできる魔導具があり、ルーカスのように魔力量が少なくても簡単に使用できる。
ただし、これに関しては貴重な魔導具なので使用できるのは現時点で、騎士団の団長、副団長など国にとって重要な者達だけだ。
「セドリック」
「はい、こちら聞こえております」
「リチャード、外からの干渉はないか?」
「はいっ!ありませ~んっ♪」
「では、今後の動きを決めるぞ」
「はい。ですが、ヴィクトール陛下。先ずは、密輸組織の件、謝罪させていただきたく。貴重な魔導具が流出している事、対処が遅れ申し訳ございませんでした。魔石は必ず、死守致します」
セドリックがすかさず先の件について謝罪をいれ、一瞬ヴィクトールの声のトーンが下がる。
しかし、今回の念話の主題はシャルロン公爵家に探りを入れる件である。
ヴィクトールは直ぐに話の軸をそちらに戻した。
「────── 魔石、自体は別に良いが。何を言いたいかは、分かるな?」
「はっ。皇剣に誓って」
「なら良い。本題に戻れ」
「はい。では、リチャードよろしくお願いします」
セドリックがリチャードに話を振ったことでヴィクトールは彼に視線を移す。今回の主題であるシャルロン公爵家を探る件は、リチャードが担当したのだろうと推測したからだ。
王国訪問の第一の目的でもあるリリアーナを妻にするという事に避けては通れないのが、彼女の父親、シャルロン公爵である。
“娘を貰う”という意味でも、“シャルロン公爵家ごと取り込む”という意味でも、だ。
故に、舞踏会(リリアーナを手にいれる)より先に、手強いであろうシャルロン公爵を陥落させておく必要があった。
「はいっ。昨夜、影の一人をシャルロン公爵家に送ったんです。そしたら、北の領土から既にレイアードが帰ってきているって。けど、あの二人が一緒に揃う機会はあまりないようでした。ただ······」
「ただ、?」
「明後日が亡き公爵夫人の命日だそうです。その日は、レイアードと公爵のどちらも、夕方には在宅の予定でいるようですっ」
「なるほど。では、明後日に公爵家を訪問した方が良さそうですね。リチャード、報告ありがとうございます」
「そうだな。この訪問、同行者はリチャードと影一人を考えている」
「······えっ、」
ヴィクトールの思わぬ発言にルーカスは堪らず声をあげた。
「ルーカス、お前の気持ちは分かる。だが、今回はあまり目立ちたくはない。それに、お前には今後リリアーナの護衛を頼みたいと思っている」
「リリアーナ様の、護衛、ですか?」
「あぁ。王城に潜入し、彼女の護衛を頼みたい。今後も継続してもらおうとも考えている。なにより、この間まで潜入していたんだ、お前が適任だろう」
「······承知致しました。護衛の任、謹んで引受けさせて頂きます。 しかし陛下·····今後も継続、とはどういう意味でしょうか?」
「そりゃあ、そのままの意味じゃんっ? リリアーナ様が皇后となったら、その専属護衛になるってことでしょ」
痺れを切らしたリチャードが横から口を挟む。彼はルーカスを見ることもなく適当にあしらって、ポケットから魔導具を取り出し、弄り始めた。そんな彼を視界に捉え、ルーカスは昨夜の会話を思い出した。
昨夜、リチャードから聞いた重大な ─────
“陛下がリリアーナ様に真名を名乗った”
───── という事実。
そしてルーカスはヴィクトールをまっすぐ見据え、深く頷いて肯定の意を示した。
ルドアニア皇国で自分の本名より尊く他人に呼ぶことを許さない真名は皇族しか持たない、所謂ミドルネームである。
国として公式な場では、“ヴィクトール・レイ・ルドアニア”と名乗りはするが、他では滅多にその長い名前を出すことはない。
ヴィクトールの真名は"レイ"。そしてそれを呼ぶことができるのは現在親類のいないヴィクトールにとっては実質、皇后になる者のみだ。
ヴィクトールが本気で、リリアーナがもし皇后になれば、その彼女の専属護衛となる事は願ってもない出世である。
「さて、ではリチャード。そろそろ魔導具を配って頂けますか?」
「はあーい。とりあえず、今はヴィクトール様だけ魔力量を隠す魔導具つけてもらってます。で、今から渡すのは転位の指輪。なんかあった時には、これを発動させれば皇国の皇城内の闘技場に飛びますからっ」
この日のために用意した魔導具をリチャードが手渡していく間に、『ちなみに、』とセドリックは情報を付け足した。
「その指輪はリチャードが魔力を入れて、きちんと位置を固定し魔法が発動する用に作製してくれましたので、失敗することは先ずありません。
しかし、少しでも魔力を持っている者が使用する際、自分の魔力も少し持っていかれます。転移は元々膨大な魔力量をつかう魔法ですから、特にルーカスは気を付けてくださいね。
陛下とリチャードは本来必要ないかと思いますが、魔法が使用できなくなった等、緊急時にはそちらをご使用ください」
「ああ」
「りょーかいですっ♪」
「では、皆さん、ご武運をお祈りしています。」
セドリックとの念話が切れた後、リチャードから受け取った指輪をゆっくりと眺めていたヴィクトールは、それを指に付けてからリチャードに目を向ける。
そして一言だけ、言葉を発した。
「よくやった、上手く出来ている」
「────────!」
この時、リチャードは昇天する寸前であった。
ヴィクトールが、ほんの少し表情を緩め、微笑んでいたからだ。
『あぁ、なんという僥倖······!僕の、魔力の入った指輪を、陛下が······身に付けて······ッ!』
指輪が羨ましい。今すぐに指輪に転生してヴィクトール様に身につけてもらいたい······。
内から湧き上がる感情を胸の奥にしまい込み、リチャードは笑顔を作る。
「ありがとうございますっ!!」
そしていつものように、明るい声で返事をするのだ。蓋をしなくていけないから。この劣情に。
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