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第一章 王国、離縁篇
23.舞踏会(離縁)まで3日 -アレクセイは、今日も奔走する-
アレクセイは昨日、伝書鳩で送られてきた手紙にてルドアニア皇国皇帝の舞踏会参加を知った。
それからは皇国御一行用のための客室の手配や護衛、侍女の選別等に追われていたのだ。
勿論、一睡もできていない。
あの手紙は皇国からの公式の手紙としてレベロン王国宛に出されたものだった。一先ずは国王が見ることを望んだのだろう。
しかし、今回の舞踏会は結婚後初となる王太子妃のお披露目を兼ねている。そのため、準備は全てクリストファーとアレクセイに任されているのだ。言い換えれば、ほぼアレクセイが行っているということである。
本来であれば、リリアーナも手伝ってくれるはずなのだが······今やもう、頼めるはずもない。
なんとか準備の目処がついた所で、アレクセイは昨日夕方にマルコがもってきた資料に目を通す。
そしてその内容に目を見張った。
"リリアーナ王太子妃殿下、城下町視察中に賊に絡まれ乱闘へ。相手は魔導具を所持"
「なんだってまぁリリアーナ様も色んな事に巻き込まれるんだ。レイアードに脅されたから許可したけど、こんな事になるのなら出さなければ良かったじゃないか」
ほらみたことか。どうせ今頃、レイアードは大好きな妹が危ない目にあったと知って、動転しているに違いない。護衛として付き添っていたマルコもとんだ災難だ。
アレクセイは、不運続きのマルコに同情した。
「で······侍女が魔法で防御壁を張り応戦したが、相手はその魔導具で魔法を無効化した、だって?」
魔導具、なんていう高度な技術産物はレベロン王国にはない。それを可能とする国はルドアニア皇国くらいしかない筈だ。
それに無効化ができるなんて大層なもの、普通は軍事用として所持する魔導具とかじゃないのか?
何故そんな物が王国に······?
『密輸』という単語が瞬時に頭の中に浮かび、一気に血の気がひいていく感覚がして、アレクセイは報告書の先を急いだ。
"賊はルドアニアから少女を何人も誘拐し王国や他国で売るという人身売買を行っているようだ"
ここまで読んで、アレクセイは脳内で鳴り止まない警笛と一度きちんと向き合うことにした。
このタイミングで、ルドアニア皇国皇帝陛下が来国するというのは少し問題すぎないだろうか。
─────是、大問題である。
現時点ではまだ、どちらに非があるかも分かってはいないので急に皇国に攻め滅ぼされる、なんていう心配はないだろうが·······。
アレクセイは魔法学園で勉学を共にした、皇帝皇帝ヴィクトールを思い出した。
実は、アレクセイもレイアードらと王国代表としてリドゥレラ中立国の国立魔法学園を卒業した一人。
そこで目の当たりにしたのはあの皇帝だった。人間が到底到達できない域に達しているような、化け物だ。
それに、皇帝だけに留まらず周りの人間も優秀だった。王国でも天才と名高いレイアードですら皇国の誰にも歯が立たなかったのだから。
ふと、気になった項目がありアレクセイはもう一度、報告書を読み返す。
「 "六人もの賊が泡を吹いて気絶"、"リドゥレラ中立国の冒険者証をもった剣士"、 名前は······ルドルフ?」
“リドゥレラ中立国”に、そんな奴いただろうか?と少し考えて、すぐにそれを放棄した。時間の無駄だ。
リドゥレラ中立国にはありとあらゆる国から新しい人が集まってくる。いくらSランクでも最近頭角を現した冒険者かもしれないし、チームの脇役かもしれないのだから。これ以上考えても、答えはでないだろう。
今はルドアニア皇国について余計な推定はやめよう。と、一旦思考を優先度の高い方に切り替える。
直近で最も問題なのは、レイアードの溺愛する妹、リリアーナだ。
王太子であるクリストファーはいまだルリナを妃にと渇望し、リリアーナとの離縁を望んでいる。それだけに留まらず、ルリナとリリアーナの一件はやはり漏れていて、『王太子妃に罰を』という声もちらほら上がってきているのだ。
来たる舞踏会でリリアーナへの離縁、奪爵、国外追放などの罰を課したとして、シャルロン公爵家が黙っているはずがないだろう。だが、シャルロン公爵家自体を廃するのは王国にはかなりの痛手だ。
王家直轄で王城や城下町の警護をする騎士団と“公爵軍”の合同指揮権を持つ、国の英雄のような人が居なくなるのだから。それは避けたい。
事実、聡明なリリアーナを失いたくなかったアレクセイは、クリストファーと離縁させないように立ち回っていた。しかし、ここ最近になりレーボック子爵自身が水面下で動いており、クリストファーがそれを黙認していたのだ。
そして、気付いた時には完全に周りを固められていた。
今回の舞踏会で大きな変化が起こることは必至。
周りの全てに目を配り、細心の注意を払わなければ、とアレクセイは椅子に腰をおろして一息つく。
だが、この時アレクセイは目先の問題に気を取られて気付かなかったのだ。
皇帝陛下は王太子妃を奪うためにやって来る、という事に。
もとよりヴィクトールとリリアーナに面識があるなど、誰が考えられただろう。彼女は北の領地の引きこもり、“雪の妖精姫”だったのだから。
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