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第一章 王国、離縁篇
25.舞踏会(離縁)まで3日 -皇帝陛下は、色恋に疎い-
「かんぱーいっ!」
「「・・・」」
リチャードによりレベロン王国の大衆酒場に連れ出され、ルーカスはヴィクトールと初めてのテーブルに着いた。
「っはぁ! うっまーい! ルド先輩っ、この肉も美味しいですよっ!」
「······お前は煩いな、静かにできないのか」
「えー? でもルド先輩、ここ酒場ですしっ♪ ね?」
陛下、ヴィクトール様、等とは呼べないので、リドゥレラ中立国の冒険者の時に名乗っていた名前 “ルドルフ” と呼ぶリチャードは、心なしか嬉しそうだ。
だが、ルーカスはそれ以上に緊張していた。自分の尊敬してやまない、ヴィクトールと同じ円卓に座って食事をしているのだから。食べ物も飲み物も、喉を通るはずもない。
「陛下····· 「おーい、ルーカスっ?ルド先輩、ね」
「ル、ルドさ·····ん、」
リチャードの大きな瞳から放たれた、鋭い眼光にルーカスは怖気づく。
もう諦めて”ルドさん”と呼ぼう。
そう心の中で決意していると、彼は酒を一気に飲み干して嫣然と笑った。酒のせいか、女性のような見た目の彼自身のせいか、とても艷やかに笑うその姿にルーカスは目を見張る。
「さぁ! 祝勝会といこう♪ 祝杯を~♪ 我が君に♪」
「しゅくしょう、かい、ですか?」
「我が国、とか言うな。こんなところで」
ヴィクトールの戒めもどこ吹く風で、リチャードは言葉を続ける。
「だってぇ、ルド先輩がもうすぐ奥様を迎えられるんですよ? 安泰だなあー、皇国も。安泰♪ 安泰♪」
「リチャード。あまり早まるなよ」
足元を掬われるぞ、とヴィクトールは呆れたように溜め息をついて、傍の皿にあった串に刺さった肉を口に入れた。
「でも先輩? 早まるっていうか······本当のことですよね? だってルド先輩の、その新しいネックレス、どーしたんですかっ? 僕見たことないなぁ!」
それはルーカスも気になっていたネックレスだ。
この国の王都で最近流行りだという店の装飾品で、昨日までは身につけていなかった気がする。
そして、机に頬杖をついてヴィクトールをじっと見つめていたリチャードがそれに触れようとして片手を伸ばした。
「おい。触るな。これは先程貰ったものだ、」
伸びてきた手を避けて、ふん、とそっぽを向いたヴィクトールとその首につけられたネックレスを、リチャードはしつこくも凝然として見る。
それから、この場にいる誰もが(※影も含む)気になる事を、勢いにまかせて矢継ぎ早に聞き始めた。
「······へぇ。彼女の髪色の鎖に、瞳の色の石、ねぇ·······。その色は彼女が選んだので? それにルド先輩だけ一方的に貰ったんですかぁ?」
「いや、俺が決めた。それに此方からも耳飾りを贈ったが。というかお前、影に色々情報貰っているのだろう?」
俺から聞くことは何もないだろう、とヴィクトールは賑わう店内を一瞬見渡す。
定期的に自分の周囲を確認するのは、平和な暮らしをしてこなかった彼の癖だ、とルーカスは思った。
「·····まあ? ぼく、ルド先輩のこと、すごく気になりますし♪ でもそっかぁ、ルド先輩も、自分の色で染めたい人なんだ····。意外と束縛が激しい系かあ。ほんと、意外だなぁ (陛下の束縛、すっごくイイけどっ····!!)」
「いや、防御魔法の付与も施したが?」
「っ! ちがうっ!! そーゆーことを聞いてるんじゃないんだよなーっ!」
空になった木樽のジョッキを片手に机へ突っ伏したリチャードを横目に、ここで漸くルーカスは気になっていた点をヴィクトールに直接聞くことにした。
「どうしてネックレスと耳飾りにされたのですか? この国の庶民の間では、ルドさんの買ったお店で作られるオリジナルの指輪が一番人気であると聞きましたが」
「ああ。確かに最初は指輪を、と言われたのだが」
「「······?」」
「彼女は俺の手を見て 『剣を持つのに指輪は邪魔だから』と言ってな。その後は提案してこなかった」
ヴィクトールは “どうにも解せない、”と自分の両手をまじまじと見つめる。
「ちょ、ちょ、ちょぉっっと、まった!
ルド先輩。それ、彼女、大丈夫だったんです?」
「どういう事だ? 確かに具合は悪そうだったが。
魔導具の指輪(これら)から彼女に何か影響が及んだか?」
リチャードは両手で顔を覆うと『はぁぁっ、本当にこーゆーのは鈍感なんだよね』と小さく呟いた。
そして再度机に突っ伏す。取り残されたルーカスは、ヴィクトールに向かって選ぶように言葉を絞り出した。
「ルドさ、ん。畏れながら。各国で婚儀をする際に、よく男女が贈り合うものはお分かりですよね?」
「、? 指輪、か」
「はい。皇国では婚約と婚儀の際に渡す、二つの指輪があります。そしてそれは其々右手と左手の薬指に付けます」
「あぁ。それが?」
「この国でも同じような習慣なのかと思います」
我慢の限界に達したのか、机に突っ伏したリチャードは顔だけヴィクトールの方に向けると声を荒げた。
「ルド先輩! どーして魔導具の指輪を両方とも薬指に付けてるんです?! そりゃあ、姫さまもそんなの見せられればショックでしょう!?」
「薬指なのは、いざという時に魔力の伝導率が他の指に比べて多少良いからで 「んなの、知りませんよっ! いや、確かに? その指ごとの伝導率の違いは気になるけどッ!! でもそれ、お姫さま絶対に勘違いしてますよ?」
「······そういうものなの、か」
「えぇ、セドリックさん風に言うなら?
『まあ、しかし貴方に指輪を贈ろうとしたり、貴方の執着心丸出しの耳飾りを受け取って頂ける時点で、可能性は在るということなのでしょうけど』
って感じですけど。でも姫さま案外相当傷ついて眠れなかったりして······」
リチャードはセドリックに声色を似せて真似をしてみせた後、店員に向かって手を高く上げ声を張り上げた。
「おねーさんっ! もう一杯、おかわり~!」
「可能性は在る、か。それであれば、まさに明日は確実に外堀を固めないといけないな。しかし、そうか。彼女を傷つけてしまったのであれば、それは不徳の致すところだな。以後参考にしよう」
こうして男三人で行われた、リチャードのいうところの“祝勝会”は恙なく終わった。
明日から王城に潜入し、リリアーナの護衛を任されたルーカス。そしてシャルロン公爵家へ交渉にいくリチャードとヴィクトールは、各々の思いと決意を胸に眠りについた。
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