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第一章 王国、離縁篇
28. 舞踏会(離縁)まで2日 -リリアーナ、決意を新たに-
「リリアーナ様、まだ気にされているのですか」
「ラナー、」
「ルドルフ様も贈り物をして下さったのです。懇意にしていなければ贈り物などしないでしょう?」
まあ、確かにそうかもしれないけれど·····。
昨日、城下町散策の帰り際にリリアーナは計画通りルドルフに買ったばかりの装飾品を渡した。
そして、実は彼からも貰ったのだ。
"新しい人生の始まりが素敵なものであるように"
と願いを込めて『新たな人生の始まりの日に付けてくれ』と渡された紙袋。
彼が“アクセサリーショップ”から持って出てきた紙袋は、リリアーナのための物であったらしい。
けれども······。店内で見た彼の指輪が気に掛かり、貰った紙袋を未だ開けられていないでいる。
「だって、ね。きっと彼には奥様か婚約者様がいらっしゃるのよ。私、見たの。彼の両手の薬指に指輪が·······、」
あの時の光景が頭から離れない。気を紛らわせても、ふとした瞬間に鮮明に思い出されて、胸が張り裂けそうになるのだ。
「ですが、ただの装飾品っていう事もありますでしょう?」
「·········」
彼とはつい三日前に初めて知り合ったばかりだというのに······。リリアーナは自覚してしまった“恋”という形ないモノに翻弄されていた。
「とりあえず、頂き物を見ませんか?」
ルドルフから貰った紙袋をラナーから差し出され、リリアーナは意を決して袋を開ける。
「まあ!素敵ですね!」
袋から出てきたのは金色の雫型の耳飾りだ。
真ん中には大きな黒曜石が埋め込まれている。
リリアーナはその艷やかな黒に、一瞬で心奪われた。
「なんて綺麗、なの」
「舞踏会に着る予定のドレスにピッタリですね?」
リリアーナの今回の舞踏会用ドレスは、黒と紫を基調にしたものを用意している。ルドアニア皇国皇帝が舞踏会に参加すると聞いて、アレクセイと相談し急遽作製したものだ。
この配色には、一応、王太子妃お披露目である舞踏会参加への感謝と、国同士の友好という意味も込められている。
ルドアニア皇国はその皇帝の力から“闇”と考えられているらしく、黒が皇国の色であるそうなので取り入れてみたのだが······。
「そうね、でもどうして黒と金なのかしら? 私のドレスの色は絶対に知らない筈よね?」
「確かに、どうしてでしょうね? でも本当に美しい漆黒ですね。そういえば、ルドルフ様にはネックレスをお渡ししましたよね?
確か、色は······、白銀に薄紫ではなかったですか?」
「えぇ、そうだったわね。彼が自分で選んでいたからあまり気にしなかったわ」
彼の指輪がショックすぎてそれどころではなかったし。とリリアーナは心の中で苦笑する。
「·······そう、ですよね」
ラナーは手を顎に当てて、何かを考え込んでいるようだ。
「どうしたの?」
「いえ、リリアーナ様のお色、そのままだなぁと思いまして······」
「まあ。でもそんなの有り得ないわ。私の本当の見た目は知らない筈だもの、」
リリアーナは変幻魔法のようやく解けた、白銀の美しい髪に手櫛を通した。
「この耳飾り、リリアーナ様の美しい白銀の髪にとても合いそうですね。当日ドレスと合わせるのが本当に楽しみです!
ルドルフ様が見たら、とても喜ばれると思います」
「でも、もう会えないわ······」
リリアーナは窓から外を見つめて、静かに呟いた。
窓の外、空には高く飛び立つ一羽の鳥が見える。
(一人飛び立つ鳥はとても勇気があるのね·····。
·······私なんて、一度失恋した、というだけでもう何もできる気がしないのに······。
これから一人立ちなんて、出来るのかしら·····)
一人感傷に浸る彼女に、ラナーは向き合った。
「こんな素敵なピアスを送ってくださったのです。 あの方が、リリアーナ様の新しい門出を祝わずに王国を立ち去るとは、私には思えません」
「でも······また会えたとしても。私が彼と話す事は何もないもの····」
概ね廃爵され追放された身では話せることなどない、と言っているのだろう。ラナーは彼女を心中をじっくりと読み取りながら、的確かつ優しく心に寄り添う。
「自分の思っていることを正直に伝えればいいのですよ。伝えたいこと、聞きたいことは沢山ある筈です」
“疑問に思うなら、それをはっきりと直接あの方に聞いてみればいいのです。”と。
「でも、それで嫌われたら? 面倒な女だって、思われたら······」
「それでリリアーナ様を嫌ったりするような方なら、ルドルフ様とてその程度の殿方であったと言う事です!」
ラナーのあまりに力強い発言に、リリアーナは吹き出した。いつもの控えめなラナーからは到底想像も出来ない程の気迫だ。
「ふふっ、ラナーったら!
────·······私、きっと彼が好きなのだわ」
「知っております」
「昨日から心のどこかで分かっていたのよ」
「はい、分かっておりますよ」
「でも、身分も釣り合わないし、お相手がいるなら失恋したも同然なのだわ······」
「それはご本人に確認して、そのときにまた考えましょう?」
「ふふっ。そうよね······。ラナーって、やっぱり頼りになるわね、大好きよ」
二人は顔を見合わせて笑う。
そして、ラナーはリリアーナの美しい薄紫色の瞳をしっかりと見据えて言った。
「私が何年リリアーナ様に仕えているとおもっていらっしゃるのですか? 私は、何時でもリリアーナ様の味方です。これからも、ずっと」
リリアーナの瞳には先程までの憂色はみられなかった。見えるのは強い決意。
当初の計画通り王太子と離縁し、爵位の返上をして国外に移住する。
でももし、もしも国外に出る前に一つ望みが叶うなら、もう一度だけ彼に会って伝えたい。
変幻魔法も使っていないまっさらな本当の自分で、この気持ちをしっかりと嘘偽りなく。
そうすれば、この失恋を乗り越えて新しい自分として新たな人生を歩める気がするから。
リリアーナは手に握りしめた耳飾りと共に、誓いをたてるように、すっと立ち上がると呟いた。
「絶対に、離縁を成立させましょう」
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