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第一章 王国、離縁篇
PV3万記念閑話:ヴィクトールとの、繋がり※
舞踏会参加当日。
ヴィクトールはリチャードと貴族街の宝石店にいた。昨日この宝石店で購入した婚約指輪を受け取りに来たのだ。
「もうできているだろうか」
扉を押し開けると、店主はヴィクトールを見てお辞儀をする。目にはくまができており、寝ずに作業していたのだろう事が伺えた。
昨日の今日で婚約指輪の作製を頼まれているのだから、当然であるのだが。
その元凶ともいえるヴィクトール、その人は全く気にも留めない様子で店主を見つめる。
「少し、お時間頂けますでしょうか? もう少しです、ので、、 ────こちらで少々お待ちいただけますか·······?」
そういって店主は店の奥にある個室の扉を開けた。
「ふむ。あと一時間以内にはできるか?遅れてしまうと困る」
“ああ、あと、”とヴィクトールは言葉を続ける。
「どちらか片方は出来上がっているのだろうか?」
店主はヴィクトールを見て大きく頷いた。
「はい。石を入れた方の指輪は完成しておりますので。本当にもうすぐ、なのですが········」
「分かった。ではそれを先に貰えるか?」
店主は店の裏へと小走りに駆けていく。
そしてすぐに小箱を持って部屋に戻ってきた。
「こちらになります·····いかがでしょうか、、?」
ヴィクトールとリチャードは個室に用意されたソファに腰掛けながら、小箱を開けてその出来上がったばかりの指輪を見た。綺羅びやかな金に、花冠模様が彫られ女性らしさが引き立っている。そしてそこに光るホワイトトパーズ。
「わあ!綺麗ですねっ。すごいすごいっ♪」
「ああ、良いな」
店主はあからさまにホッとした様子で胸を撫でおろしている。ヴィクトールはその指輪を箱に戻して机の上に置いた。
「これは今頂こう。あと一つはこちらで待っている。良いか?」
「はい! もちろんでございます!直ぐに作って持って参ります。お待ち下さい」
店主は汗を拭って足早に消えていった。
それを確認してヴィクトールはリチャードを見る。
そして衝撃の言葉を発したのだ。
「───────リチャード。これから俺は魔法付与をする。店主が来ないように外の様子に気を配っていてくれ」
「·····えっ?! は、はい······、」
目の前でヴィクトールが突然魔法付与を行うとは思ってもいなかったリチャードは驚愕した。
そして彼の魔法を見れる僥倖に胸を高鳴らせる。
指輪に嵌め込まれた、ホワイトトパーズに指で軽く触れるとヴィクトールは目を閉じた。
その瞬間その石を中心に部屋に美しい黄金の魔法陣が現れる。
「······っ、ふ········」
リチャードはズボンの中で昂る己を制した。
集中して······外に集中して。そう言い聞かせるように自分の意識を部屋の外に持っていく。
そんな中、ヴィクトールは突然目を開けて首を鳴らした。
「っ。やはり少し大変そうだな、」
「付与ができないのですか? 何を付与するつもりなのです?」
「転移魔法だ。最終的には俺の指輪と連結させて転移できるようにしたい」
なるほど。確かに、転移魔法をそれも他の指輪と連結させて同時に発動するようにさせるのは難しいだろう。リチャードでさえも、転移の指輪の製作には多大な魔力と時間を要した。
でも······、とリチャードは思う。
あのヴィクトール陛下が大変そうだ、というほどではないのではないか。と。
そして一つ心当たりがあったため、それを尋ねることにした。
「ヴィクトール様、どこに転移させるのですか?」
そしてリチャードはその答えに絶句する事になる。
「俺の私室だ」
「それは·······、」
かなりの魔力を使うだろう。ヴィクトールの私室は彼自身の魔力によって防御魔法等が幾重にもかけられている。あれを破るなど、······到底不可能だ。
それに転移魔法の転移場所にその内部を設定するなど、正気の沙汰ではない。
いくらヴィクトール自身の魔法だとしても、転移阻害なども組み込まれているであろう彼の部屋に設定することは至難の業だろう。
「かなり魔力を使うだろうな。少しお前の助けをかりるかもしれん。いけるか?」
「はっ。お心のままに。頑張らせて頂きます!」
ヴィクトールの魔法を感じられるなら、という邪な心は奥底にしまっておく。
そしてヴィクトールは再度石に触れた。
今までのものとは比べ物にならないくらいの眩い光に辺りが包まれリチャードは目を細める。
どれくらいの時間が経ったのだろうか。
隣に座るヴィクトールの美しい顔は苦しそうに歪み、呼吸も浅くなってきている。
「、······くっ·········、」
「ヴィクトール様、大丈夫ですか?! これ以上は、·······御身が危険ですっ!」
「····っ、俺に、魔力を入れられる、か?」
リチャードは机に置かれたヴィクトールの手の甲に、自分の手を重ねる。魔力供給の仕方は学園で習ったが、実践は初めてである。まあ、それも術者同士でしかできない特別なものだ。緊張しながらも、慎重に自分の魔力を彼に流し入れた。
「っふぁ····(はなぢ、でそう····。僕の、僕の魔力が·····ヴィクトールさまの中に)、っあ」
魔力をヴィクトールの身体に流し入れた途端に全身の血が沸騰したように熱くなる。初めての感覚にリチャードは身体を捩らせた。
「大丈夫か。初めて、だろう? 無理は、するな」
「い、いえ(ぜんぜん、だいじょうぶれす。むしろきもちよすぎて······)どうにかなりそう、」
未だ少し苦しそうなヴィクトールの掠れたテノールの声も相まって、リチャードの興奮は最高潮に達していた。リチャードは片手で張り詰めた己をズボンの上から押さえつける。
「っふぅ·····ぼくは、なにをすれば······」
「大丈夫だ。俺に任せろ、」
そのヴィクトールの言葉に、“あぁ”と陶酔したのも束の間、次の瞬間、ズズッと魔力が身体から引き抜かれていく。
「─────ッ、ああ!!!」
「一気に行くぞ。ここを抜ければ楽になる」
「·····はいっ、はやく、ぬければ·····いいッ····」
「急かすな。もうすぐだ。良い、上手いぞ」
─────「いったか、?」
─────「イけ、た···っ」
ヴィクトールは目を開けて指輪を確認し始める。
その反応からは上手く転移の魔法付与が出来た事に上機嫌な様子が伺えた。
反対に、リチャードはその隣でソファからずり落ちた。力が抜けて床にぺたりと座り込む。
「っ、、、はあッ·······」
事実、リチャードは恍惚とした表情で床を見つめていた。上気した顔や身体からは汗が噴き出して止まる様子はない。
「リチャード、大丈夫か? 初めてなのに、無茶をさせたな」
「い、いえ······。陛下のお力になったのであれば、、天にも昇る気持ちでございます」
ヴィクトールは床に座り込んだリチャードを上から見おろしていたため、彼の表情は見えなかった。
いや、むしろ見えなくて良かったのかもしれない。
依って、彼の言葉の裏の意味など全く持って知る由もなかったのである。
彼が本当に、”天にも昇る気持ちでいた”などとは。
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