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第一章 王国、離縁篇
34. 最初で最後の、公爵家
舞踏会での王太子との離縁を達成したリリアーナがレイアードと共に会場の外に出ると、既に馬車が用意されていた。
本当に、どこまでも用意周到である。何故か周りを固められている気がするのは気の所為だろうか······。
その馬車に乗り込んだリリアーナはレイアードの顔をじっと見つめ、口火を切った。
「レイアードお兄様。どこまで知っていたのですか?」
「ん? それより僕のリリアーナ、寒くないかい?風邪をひいたら大変だ。僕のコートを、」
「はぐらかさないでください」
ピシャリと言うリリアーナにレイアードは困ったような表情を浮かべた。
「うーん、どこまで、とは?」
「こうなること、ご存知だったのですね?」
「ヴィクトール陛下が僕の可愛いリリアーナに求婚するつもりだというのは、二日前には知ってたね。
今日も朝から『婚姻証明書をもってこい』とか、無理難題をおしつけられて扱き使われてさぁ、」
なるほど、先程神殿長が机上の書類に驚いていたのは王太子との婚姻に関する証明書だったからなのね。と、リリアーナは納得する。
確かに、皇帝陛下があの会場にそれを持ってきているとは、誰も思わないだろう·····。
「婚姻証明書は公爵家にある物だったのですね?」
「正しくは “複製” なんだけどね。
王家、公爵家には複製が、そして本物は神殿が持ってるんだ。離縁にはどれか一枚に神殿長の印があれば成立するんだって。認めたくはないけど、ルドアニア皇国の人達は有能でね」
「まあ。あまり知られていないことなんですね?」
「んー、僕や父上だけでは分からなかったかな」
「·····それで、公爵家は大丈夫なのですか? 魔法師団も取られてしまったし、あの王太子の様子だと公爵家を潰す勢いのようでしたよね。私の所為で·····」
「それも気にすることはないよ。 “あの方” が全部どうにかしてくれるからさ」
「ヴィクトール陛下、が?」
レイアードは会場を出る直前、ヴィクトールが国王陛下に声高らかに発言した内容を思い出す。
『あぁ、話は変わるが俺には親がいなくてな。久しぶりに出来る家族だ。家族は大切にしなくてはいけないだろう? 未来の妻の大切なものは、夫の俺が代わりに守るのは当然だ』
ヴィクトールはシャルロン公爵とレイアードを振り返ってその言葉を放ったのだ。あれで暗に、公爵家に不利益な待遇は認めないと言っているのだと、会場中の誰もが理解しただろう。
とはいえ······自分の大切な肉親は自分で葬ったんじゃないか。そんな奴が家族愛を語るなど、どうかしている。とレイアードは、苦笑する。
一瞬、遠い目をしたレイアードは直ぐにリリアーナに向き直って微笑みを作った。
「まあ、あまり詳しくは言えないんだけどね。あの方がいれば大抵はどうにかなるから」
「お兄様、皇帝陛下とお知り合いなのですか?」
「んー、まあ。学園時代の同期でね。僕は確かに魔法に関してはこの国で最も優秀だったけどね、皇国の奴らはそんなの比ではなくて。ヴィクトール陛下はいつも首席。魔法だけじゃなくて魔法なしでも強いなんてさぁ」
“人間じゃないよ、あの人”とレイアードは笑う。
丁度その時、コンコンとノック音がして馬車の扉が開いた。レイアードは跳ぶように馬車から降りると、誰もがうっとりするような満面の笑みで微笑んで、リリアーナに手を伸ばす。
「とりあえず、可愛いリリアーナ、おかえり!」
記憶を失い、何も知らないリリアーナでもここが公爵家だということはなんとなく分かった。
「「「リリアーナ様、おかえりなさいませ!」」」
数人の執事や侍女たちに出迎えられ挨拶をされると、記憶がなくとも実家なのだ、という気になるのだから不思議なものだ。
リリアーナは彼らに軽く微笑んで、公爵家へと足を踏み入れた。
玄関を入ると、先導するように歩いていたレイアードがリリアーナを振り返る。
「リリアーナ、きっとすぐに皇帝陛下や父上が来るだろうからサロンで待っていようか? ラナー、リリアーナの荷物をまとめておいてくれるかい?」
リリアーナはラナーの姿を見つけ、ほっと胸を撫で下ろした。と同時に、その隣に此処にいるべきではない人物を捉える。
「良かった!ラナーもここに戻ってきたのね!
······って、あれ? ルカ、どうしているの?貴方、王宮勤めの護衛騎士でしょう?」
ラナーの隣にいたのは、王太子妃専属護衛として雇われたはずのルカ。王宮勤めの彼が、離縁されたリリアーナと共に此処にいるのは彼にとっても良くないのではと、彼女は心配になる。
そんな心配を知ってか知らずか、彼は、直ぐにリリアーナの目の前まで走ってきて跪くと、彼女の予期していなかった衝撃的な言葉を発した。
「騙すような形になり、申し訳ございませんでした。リリアーナ様、私、本名をルーカス・ローゼンと申します。ルドアニア皇国、黒騎士団の副団長であります」
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