【第一章/王国離縁編】王太子に離縁されました?上等です。最強の皇帝陛下の【魔眼】と共に、世界攻略を致しますので!【R18・完結】

猫まんじゅう

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第一章 王国、離縁篇

38. リドゥレラ中立国、入国



 早朝、リリアーナはレベロン王国を出立した。

 王国から他国へと出ることは自分で決めた事ではあったが、こんなに大勢で、それもルドアニア皇国皇帝と同じ馬車に乗ることになるとは全く思っていなかった。国外追放される身だったのだ、誰がこんな事になると想像できるだろうか。

「では、出立しよう」
「お父様、お元気で。結婚式には必ず、来てくださいね」

 リリアーナは目の前に止められた、一際大きな馬車に乗り込んだ。
 黒く艶やかな外観に金模様が美しく、ルドアニア皇国の紋章が彫られている。内装も深みのある赤で纏まっていてとても落ち着いた雰囲気だ。

 椅子も柔らかくて、長旅でも疲れることはなさそう。ただ一つ、問題があるとすれば、超美形の黒髪陛下と二人同じ空間にいるということだろうか。
 リリアーナは窓側に座って頬杖をついているヴィクトールを盗み見る。

「······失礼いたします」

 リリアーナはヴィクトールと対面の座席の真ん中に腰掛けた。ここなら迷惑にならないだろう、とできる限り彼の邪魔にならないように。

「俺は仕事をしていくが、リリアーナはゆっくり寛いでくれ。今日はレベロン王国国境を出てリドゥレラ中立国に入って一泊する予定だ」
「承知致しました、ヴィクトール陛下」

「あぁ、前も言ったが。俺と二人のときは"レイ"と呼んでくれて構わない。ただ、周りに人がいるときはヴィクトールかヴィクターと呼んでくれ」
「はい。ではまだ慣れておりませんので、今は、ヴィクトール様とお呼びしてもいいでしょうか?私のことは、リリアでもリリアーナでも好きなようにお呼び下さい」

「では、リリィとよんでも?」

「えっ? えぇ、勿論構いませんが、(リリィなんて呼ばれたことないから新鮮ね)······──ちなみに、その······何故周りに人がいると"レイ"様とお呼びできないのか理由をお伺いしても?」

「あぁ。俺は本名をヴィクトール・レイ・ルドアニアというのだが、真ん中の名前を持っているのは皇国では王族だけでな。レイは真名(マナ)といって他人には呼ばせないんだ。家族だけが呼べる特別な名だ。
リリィは俺の妻になるのだから何も問題はないだろう」

 ヴィクトール曰く、真名(マナ)は時として彼の魂に共鳴し呼びかけるのだとか。
 たとえば、魔力が暴走しても真名(マナ)を呼ぶことで落ち着かせるという例も過去にはあったらしい。
 ただ、その真名(マナ)を呼ぶ事ができるのも妻や親族のみという誓約があるようだ。

「なるほど。心に留めておきますね。もし御身になにかあった際にお力になれるといいのですが」
「まあ、そうだな」

 リリアーナはもう一つ気になっていた本日の行程について聞く事にする。

「ヴィクトール様、本日はリドゥレラ中立国で一泊との事ですが。皇帝陛下として国王にご挨拶に行かれるのですか?」

「いや、それは必要ない。リドゥレラ中立国は現在六つの国に囲まれていて、国ではあるが国王はいないんだ。各国から代表者が各々いて、中立国を皆で管理している、といったほうが正しいな。
若者の教育機関や冒険者を戦争介入させないように守っているというのもある。だからあまり一国の王が訪れる事はないし、良くは思われない。今回は皇国に帰る帰路として申請してあるから大丈夫だ」

「まあ······そうなのですね。では、ルドアニア皇国からもどなたかが代表を務められているのですか?」

「あぁ、ベルリアーノ伯爵家が代々中立国の代表をつとめている。皇国で最も外交に秀でていて外政を担っているベントナー公爵家の分家に当たる家だ。中立国には皇国の邸もあってその管理も伯爵がしている」
「では今日はその邸に?」
「そうだ。学園の生徒や伯爵家の使用人達が暮らしていると思うが棟は別れている。問題はない」

 それから、リリアーナは執務をするヴィクトールを横目に自分もルドアニア皇国に関して学ぼうと貴族名簿を彼から貰い、馬車の中で目を通していた。

 とりあえず、ベルリアーノ伯爵とベントナー公爵は今日中に覚えるべきだろうか───


──······ ◆ ······──


「──ィ、リィ·······リリィ、起きろ」
「·······! 、、っ!!! えっ、」

 目を開ければ、超美形の黒髪陛下が自分を上から見下ろしていて、心臓が飛び跳ねる。
 そして一瞬停止していたリリアーナの脳は直ぐに活動を再開した。

 こ、この状況は······?! 

 そう、リリアーナはヴィクトールの膝を枕代わりに横になって熟睡していたのだ。

「っ、もうしわけありませんっ!!!」

 飛び跳ねるように身体を起こし、ヴィクトールから距離を取って椅子に腰掛ける。

「大丈夫だ。むしろ大丈夫か?よく寝ていたから、侍女を入れなかったんだ。もう、着いたぞ」
「えっ?!」

 外を確認しようと窓に目を向けると、窓は重厚なカーテンに覆われていた。
 熟睡していたリリアーナへの配慮だろう。
 申し訳なさと恥ずかしさが入り混じり、リリアーナは頭を下げた。

「っ、もうしわけありませんでした! 勉強しながら寝落ちするなど······、それもヴィクトール様の膝を枕にするなど(穴があったら入りたいわ)!!」

「いや、謝る必要はない。(寝顔も見れたし、な)
疲れていたのだろう。気にするな。それより、出られるだろうか?」

 ヴィクトールにそう言われリリアーナはドレスをさっと直し、カーテンに手をかける。
 隙間から外の様子を伺い見れば、先程ヴィクトールが言っていた皇国の邸があった。邸宅というよりも、大きな建物といった方がしっくりくる外観だ。
 そして、その入り口に使用人達が列をなして出迎えの体制をとっているのが見える。

「·······っ。本当に申し訳ありませんでした。かなりお待たせしましたでしょうか?」

 出迎えの中には使用人だけでなく、ラナーやルーカス、建物内にいたルドアニア皇国の方々もいてリリアーナは居た堪れない気持ちになった。

「いや。では行こう、」

 ヴィクトールは馬車の重厚な扉に手をかけると、それを押し開ける。その瞬間、出迎えの者達が一斉に、一糸乱れぬ動きでお辞儀をした。

「皇帝陛下、並びに婚約者リリアーナ様。ご到着を心よりお待ちしておりました!」
「「「おかえりなさいませ」」」

 あまりの仰々しさにリリアーナは怖気づく。
 そんなリリアーナに、先に降りたヴィクトールは下から手を差し伸べた。

 ───────そして、優しく微笑みかけたのだ。

 その瞬間、緊張や不安は一気に吹っ飛ぶ。
 だって、あまりにもその笑顔が優しくて、温かくて、美しかったから。
 誰がこの人を『悪魔の落とし子』などと呼ぶのだろう。どうして”闇”などと呼び畏怖するのだろう。
 少なくとも、リリアーナにとって彼は自分が初めて恋をした一人の男性なのだ。

 ───────そして、その手を取ったリリアーナはヴィクトールに向かってにっこりと微笑み返し、体を預けながら馬車を降りた。


 この瞬間ときの二人を見た者は多くはなかっただろう。だが、それはそれは仲睦まじく幸せそうな雰囲気で好一対の夫婦のようであったという。

 リリアーナとヴィクトール。全く正反対のような二人ではあるが、まるでピースの型が嵌るようにお互いに惹かれあっていたのかもしれない。

 この時の二人の様子は、後にこのルドアニア皇国邸の使用人では知らない者はいないほど有名な話となったそうな。
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