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第一章 王国、離縁篇
PV5万記念閑話: オリリアスの、魅了魔法
「っくしゅん、」
「大丈夫?オリィ風邪でも引いたかい?」
「いやぁ、そうゆう訳ではないとは思うんだけどなぁ」
その美しい紫色の長い髪を束ねながら、ヴァルツナー公爵家の嫡男として生まれ、既に公爵位を受け継いだオリリアスが困ったように笑う。
「誰かに噂でもされているんじゃないかい?」
「そうかもしれないねぇ」
ランブルグ公爵家嫡男のスチュワートは優雅に酒を飲んだ。
今はランブルグ公爵家にて二人で『慣らし五夜』に関する打ち合わせをしている。
もとい、ただ仲のいい男同士で酒を酌み交わしているだけであるのだが。
「大変だよね、君も。そんな特殊能力じゃ恨まれもするだろう?」
「まぁね、でも仕方のない事さ。私にはこれがあるから陛下の役に立てるようなものなんだからねぇ」
「この間も他国の姫かなんかを篭絡していなかったかい?」
「いいや?あれは、そういうのではないよ。ただの諜報活動の一貫でさ?色仕掛っていうのは、私が適任でしょう?」
不敵に微笑んだ彼をみてスチュワートは溜め息をつく。
「君は本当に基本能力も高いからね。お父上が財政関係だからそれを継いでいるけれど、語学にも富んでいるだろう?」
「まぁねぇ、様々な人を篭絡するのには語学は必須なことだからねぇ。うーん、それで皆が私を欲して止まないのかなぁ?」
スチュワートは彼を見る。
胸元を大きく開けた上着から見える、少し焼けた肌が健康的な色気をだしている。
その琥珀色の瞳も女性を捉えて離さないんだろう。
それにしても、彼の持つ魅了魔法はおかしいくらいに強い。特に異性に発揮されるそれは、娼館の女性達が持つような魔法よりも数倍も強力なのだから。家系特殊能力の可能性が高いが、きっとそれは彼のことだ、そうだとしても教えないだろう。
スチュワートは酒を一口飲むと、今夜の目的でもある“頼み事”を切り出した。
「あ、そうだ。シルフィアの『慣らし五夜』だけれど、一夜目を君に任せてもいいかな?」
「勿論さ。しかし、私はいつも誰かの『慣らし五夜』に入っている気がするなぁ。働きすぎだと思うんだよね。あれって別途お金が支給されてもいいものだよねぇ?」
財政の管轄だし改善案を少し考えてみようかなぁ、とオリリアスは呟きながらグラスに新しい酒を注ぐ。
「ハハッ。そうだね。それがいいんじゃない?だって君、陛下にも頼まれるんじゃないかい?」
「まあ、陛下の頼みであれば積極的になんでもやるさ。それにリリアーナ様はかなりの美しさみたいだしねぇ?楽しみだなぁ。どうやって乱れ咲くんだろう」
心から楽しみな様子を隠さずに笑うオリリアスにスチュワートは非難の目をむける。
「君、やっぱりそうゆう風に見ているのかい?」
「いやぁ、寧ろそれくらいはこちらにも愉しませて欲しいのだけれどねぇ?大体私の役割は純粋無垢な少女に快楽を教えて女にすることなんだからさぁ、」
カランと音を立ててオリリアスのグラスの中の氷が揺れ、彼は思い出したようにスチュワートに向かって言葉を発した。
「あぁ、それで、シルフィア嬢の『慣らし五夜』の誓約はどうしたいの?」
うーん。とスチュワートは考え込む。
そんなスチュワートを見てオリリアスはソファに凭れかかった。
「では、キスはしても良いの?」
「キス?口づけのことかい?んー、僕は正直そこまで拘りはないんだけどね」
「あぁ、なんだ、君たちも政略結婚だったのかぁ」
「んー。本当はね、僕はシルフィが好きなんだ。でも彼女はヴィクトール様なんじゃないかって思うんだよねー」
「そんなもの、陛下と比べたら駄目だよ。何と比べたってあの人に勝てはしないんだからさぁ。意外とシルフィア嬢も君を好きだったりするのだから、ゆっくり愛し合って夫婦になればいいのだよ」
「··········そうだね、」
じゃあ、とスチュワートは簡易的な、巻物になっている誓約魔法を発動させる。
「彼女のこと、シルフィ、とは呼ばないで。これは僕だけにしたいからさ。口づけは別にしてもいいや。あと、君の魅了魔法は絶対に使わないで、」
「御意に、承りましたよ」
オリリアスはにっこりと微笑む。そして二人はその巻物に名前を書き込んだ。
そして、それは光を放って消えてなくなる。
その光の残渣を見つめながらオリリアスは呟いた。
「本当に、陛下は面白い物を作るよねぇ?」
「そうだね、これも『慣らし五夜』での夫になる者からの要求を担当者にしっかりと守らせるため、なんだって。前は誓約魔法が使える人か、術者くらいしか出来なかったんだってさ。確かに、口約束なら、破られるかも知れないんだもんね」
「なるほどねぇ。まあ、私は誓約魔法がなかった時も『慣らし五夜』では魅了魔法は使った事は一度もないけどねぇ」
「そうなんだ。理由、あるのかい?」
「別に。他人の伴侶を奪ってまで得るものはないだろう?他国の物なら兎も角さぁ。自国で火種は極力生みたくないんだよねぇ。私は平和主義だからさ」
「そっか。そういえば、御父上は息災?」
「えぇ、元気すぎて困るくらいさ。あの人はよくもまぁ、飽きずに女ばかり囲めるものだよねぇ」
スチュワートは笑った。
そしてオリリアスを見る。
彼ももう二十八にもなるのに結婚の目処すら立たないなんて。
まあ彼にはその魅了魔法があるから、それが足枷になっているのかもしれないけれど。
「僕はヴィクトール様がどうなるのかも凄く気になるなー。前皇帝は凄まじかったようだよね」
「金、酒、女に溺れる、絶倫の巨根、だったんでしょう?離宮が女性達で溢れるはずだよねぇ」
「ハハハッ。じゃあヴィクトール様が同じ様な感じで、リリアーナ様だけ、なんて事を言い出したら、彼女、寝台で死んでしまうんじゃないかい?」
スチュワートは堪えきれず笑う。
そんな彼を見てから、オリリアスは窓の外に目を向けた。
「まぁでも、あの方は、死して尚、彼女を逃さないでしょうねぇ。きっと」
彼のその一言は独り言のように部屋に消えていった。
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