【第一章/王国離縁編】王太子に離縁されました?上等です。最強の皇帝陛下の【魔眼】と共に、世界攻略を致しますので!【R18・完結】

猫まんじゅう

文字の大きさ
50 / 58
第一章 王国、離縁篇

42. 皇国、伯爵邸客室


 食後の紅茶が運ばれて、侍女達が出ていった所でリリアーナはヴィクトールと二人きりになった。
 彼と密室に二人きりになるのは、馬車の中にいる移動中を除いては初めての事である。
 その事実に気付いたリリアーナは沈黙に耐え兼ね、それを自ら破ることにした。

「·····あ、あの······「先程は気分を害しただろう」」
「えっ?いえ、私を思い、気を遣って下さり感謝こそすれど、気分を害したなどとは······」

 ヴィクトールは紅茶を啜る手を止めてリリアーナを見つめた。黄金の美しい瞳に自分が映り、リリアーナは目を逸らす。

「そうか。俺は気分を害したんだがな、」
「っ。そう、なのですか······気が付かずに申し訳ございません」
「いや、そうか。その指輪が俺の殺気を感じないようにしているのか」
「?」

 ヴィクトールの視線を感じ、リリアーナは彼から貰った婚約指輪を見た。
 この指輪には色々と魔法付与が施されているらしいが、リリアーナにその詳細は分からない。
 ただ、いまのヴィクトールの反応を見るかぎりでは、彼の殺気を感じなくする作用があるようだ。

「そうだ、リリアーナ。重要な事だから言っておくが。俺は本当に側室を取ろうとは今は考えていない。お前を妻にできる事を嬉しいと思っているんだ」


 ヴィクトールは徐ろにリリアーナの髪を掬って耳にかけると、頬に手をあてて親指で頬を撫でた。
 その一連の動きがあまりにも自然でリリアーナは全く気付かなかったのだ······───
 ───······彼の顔が自分の目の前に迫っていたなどとは。

 そして、気付いた時にはヴィクトールの唇はリリアーナのものと重なっていた。
 ······口づけして、いるの?
 そう思うと同時に部屋にノック音が響き渡る。


 コンコンコンコンッ、
「へ~いかぁ~!」

 ノック音に続くリチャードの緊張の感じられない声に、ヴィクトールはさっと唇を離して舌打ちをした。

「ちっ、リチャード······か。入れ、」

 ヴィクトールが許可すれば、その扉が開いて、リチャード、ルーカスに続きレイアードが入ってくる。
 その面々を見てリリアーナは素早く立ち上がった。

 心臓がばくばくと音を立てて煩く鳴り響いている。顔もきっと真っ赤になっているだろう。ヴィクトールと口づけをしたなど、思い出すだけで顔から火が出そう。
 
 でも、ヴィクトール様の匂い、とてもいい匂いだった。
 ·······って何を考えているの、リリアーナ!

 百面相をしているリリアーナのところにレイアードがそっと近付き、耳元で話しかける。

「リリアーナ、大丈夫?もう皆座っているけど······?」
「っひゃあ!へ!?おっ、お兄様っ!は、ハイ!」


「陛下あ、僕たち、もしかしなくても入るタイミング間違えました~っ?」

 にこにこと楽しそうに笑うリチャードを一瞥したヴィクトールは、不敵な笑みで微笑んだ。 

「リチャード、明日からは剣術や武術、体術の鍛錬にもっと励むと良い。お前、苦手だったろう?」

 口角をあげて無理矢理作ったようなその笑顔に、リチャードはびくりと身体を震わせる。

「ひっ、······。とりあえず陛下、そうやって無闇に殺気出すのやめてくださいよ。駄々漏れですって······」
「ふむ。だが、リリアーナは指輪が俺の殺気を感じないようにしているらしい。大丈夫だ」
「いや、リリアーナ様が大丈夫なのは分かりましたけど!他の人がみんなぶっ倒れますからっ!」

「それより用があったから来たんだろう?早く魔法展開でもしたらどうだ?」
「っ、陛下ぁ!僕に雑すぎっ!」

 リチャードは不平不満を垂らしながらも、的確に魔法を展開していく。リリアーナは初めて目にする薄い桃色の魔法陣が幾つも部屋を囲んでいくのをじっと見つめた。

 その時突然、頭の中にふと声が響き渡り、驚いて周りを見渡す。
 そんなリリアーナの肩を落ち着かせるように擦りながら、レイアードは念話について彼女に伝えた。

「リリアーナ、大丈夫だよ、これは念話という魔法なんだ。皆も聞こえているから怖い事はないよ?」

「陛下、セドリック参上致しました」
「セドリック」
「はい。まず、リリアーナ様。初めまして、私は宰相ならび雑用補佐しておりますセドリックと申します。ご挨拶はまた皇城でさせて頂ければ幸いです。レイアード卿もようこそお越し下さいました。

 さて、ヴィクトール様。ご気分害されたとのこと、当然かと思います。大変申し訳ありませんでした。以前処理しなかった古参の貴族から多少不平不満が上がっておりまして。ただ、三公爵、わたくし宰相、白騎士団、黒騎士団共に合意しておりますのでリリアーナ様が皇后となることは既に皇都では周知されています。ですが、その······申し上げにくいのですが·········」

 ここでセドリックは少し口をどもらせた。淡々と事実を述べるいつもの彼からすると、かなり珍しい事である。そして、理由を察したヴィクトールは躊躇いもなく口を開いた。

「なんだ。父帝か?」
「······はい。前例がありますので······、皆今後は前皇帝が作った後宮を開放する準備をし、何人か皇妃をそこに入れるものと考えているようです」

「なるほど?まあ、そうか。たが、伯爵にも言った通り俺は現時点では側室については考えていない。後宮を準備するのは勝手だが、“皇妃候補実習”等という馬鹿げたものを開催するのはなしだ。わかるな?」

「はい。直ぐ様そのように周知させます。古参については······「古参たちをお前が御せぬのならばこう言え、俺の“瞳”が変わらぬうちに成果を出せ、と。まあ、あれらは俺が処分しそこねた在庫品だ。もう消費期限切れだろう、早々に処分しよう」

「はっ。お心のままに。その後宮ですが、今はリリアーナ様に使って頂くのはどうでしょうか?」

「そうだな、そうしよう。後宮に関する権限はリリアーナに与える。なにか準備する際には彼女に許可をとらせるように。あと、リリアーナの話し相手にはスチュワートの婚約者のシルフィア嬢を登城させるように手配してくれ。皇后のための教養などは、シゼッタ夫人が適任だろうな」

「はい、リリアーナ様の周りのサポートはお二方を招集致します。準備を万全に整えて、皆様のご帰還をお待ちしております」

「さて、リリアーナ。セドリックに挨拶もした。あとの詳細についてはまた皇城で話すといい」

 ヴィクトールはリリアーナを立たせると足早に部屋を退出した。隣にある彼女の部屋の前まで送り届けると、部屋の扉の前で彼女の白銀の髪を撫でる。
 そして、一言だけ言葉を発した。

「おやすみ、リリィ」 

 彼女が部屋の中に入り鍵をかけたことを確認してから、ヴィクトールは再び自分の部屋へと伯爵邸の廊下を歩く。長年の想い人リリアーナと初めて口づけを交わした事への未だ収まらない胸の高鳴りを抑えるように、ゆっくりと。

 それから、男達四人の集まるむさ苦しい部屋へと、扉を開けた。

感想 0

あなたにおすすめの小説

あっ、追放されちゃった…。

satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。 母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。 ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。 そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。 精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
 第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。  言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。  喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。    12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。 ==== ●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。  前作では、二人との出会い~同居を描いています。  順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。  ※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中