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第一章 王国、離縁篇
45. 皇城での、初会合
「陛下、なにをなさったんですか」
「なに、とは?」
「リリアーナ様から貴方様の魔力を感じました」
「ああ、徐々に慣らしておこうかと思ってな、」
「はぁ。あまりにも貴方様の色が滲み出ていたので『俺色に染めたい』とか仰るのかと思いました。しかし陛下、行き過ぎると神殿に注意されますよ」
”神殿”という言葉を聞いたヴィクトールは、あからさまに嫌そうな顔をした。
「口付けくらいで神殿に注意されたら、俺は次こそはあれを跡形もなく消し去るだろうな」
「冗談はおやめください。初代の皇帝陛下との間の起源誓約魔法がある以上、いくら貴方様でも無事では居られないでしょう」
「ああ」
「口移しで陛下の魔力を摂取させた、といった所でしょうか?」
「ああ」
「今後は何か食前酒に混ぜるか、直接血管に流し入れるかといった方法に変えましょう。明日にはマダム・ジゼッタとドリファン医師に訪問に行かせますので。これからは医師に処置をさせましょう」
「ドリファンは男だぞ。女医を用意しろ」
この方には独占欲があったのか。とセドリックは心の中で盛大にため息をこぼした。リリアーナ様もこれでは大変だろうに、と思うがそれを言葉には出さない。
「はっ、直ぐに知らせを出します」
「時に、今日の予定は」
「はい、執務室の隣の会議室に主要な者が集まっております。レイアード卿の紹介が主です。その後は晩餐にてリリアーナ様をご紹介しようかと。流石にレイアード卿のまえで五夜の人選はおやめくださいね」
そう言ってセドリックは会議室の扉を開けた。
ヴィクトールが足を踏み入れれば、雑談していた声がしんと静まり返り、皆揃って膝を折る。
「皆、楽に。始めよう」
その言葉に、皆が着席しセドリックが口火を切る。
「此度はレベロン王国からシャルロン公爵令嬢のリリアーナ様を皇国皇后として迎えいれる準備が整いました。今は婚約者として、後宮にて生活し、婚儀が終わり次第皇城内のヴィクトール陛下の続き部屋に移ることになります。
それに併せて、兄君であられるシャルロン公爵子息嫡男のレイアード卿にも留学という名目でルドアニアに来ていただきました」
セドリックの視線が自分を捉えたのが分かり、レイアードは椅子から立ち上がると銀色の美しい髪を揺らしながら丁寧に挨拶をした。
「レイアード・シャルロンと言います。レベロン王国シャルロン公爵家の嫡男で王国では軍事指揮を担当していました。皆様よろしくお願いします」
そして、セドリックは彼に続くように今後の方針について言葉を付け加える。
「シャルロン公爵は王国でも軍を束ねていて統率力もあります。それに此度の王国の件、王国騎士団にはなりたくないと進言したシャルロン公爵軍の約半数以上はルドアニア皇国騎士団に流れる予定です。それを踏まえて、これからレイアード卿には白騎士団、黒騎士団の両方で経験を積んで貰います」
その言葉を皮切りに、騎士服を来た団員から立ち上がり一人ずつ自己紹介をしていく。
「白騎士団団長のリチャード・ランブルグですっ」
「同じく、白騎士団副団長のシャルロッテ・トンプソンよ、よろしくお願いしますね」
「黒騎士団団長ジョシュアだ。よろしく頼む、」
「黒騎士団副団長、ルーカス・ローゼンです。今後はリリアーナ様の専属護衛も兼任します。」
「次は私かな?オリリアス・ヴァルツナーです。昨年公爵を引き継ぎましたので、よろしくお願いしますね。財政関係を担当していますので、賃金などで何かありましたら是非頼ってください?」
「マルクス・ベントナー。ベントナー公爵家嫡男だ」
「ちなみにマルクスは、こうみえて外交関係を担当しているのです。とても寡黙なのですが。リドゥレラ中立国を担当している伯爵家は彼の家の分家です」
一瞬で終わったベントナー公爵の自己紹介にセドリックが補足する。如何にも堅ぶつそうな彼を一目見てレイアードは頷いた。
「では、僕が最後かな?スチュワート・ランブルグといいます。そこのリチャードの兄です。弟が学園ではお世話になったようですねっ。僕は来年には公爵位を継ぐ予定でいまして、我が家は内政担当です。今後とも是非よろしくお願いします」
「これで、主要な人材は全員ですね。先程もルーカスが言ったように、彼には今後リリアーナ様専属護衛を兼任して頂きます。というわけで、シャルロッテ。君も同様に兼任してもらえるかな?」
「はい、それが陛下の采配であれば」
ヴィクトールは黙ってそれに首肯する。
「では、本日はこの後、晩餐会にてリリアーナ様をお迎えしご紹介します。シャルロッテとルーカスはリリアーナ様のお迎えに行って下さい」
その言葉で、ルーカスとシャルロッテ、二人は席を立ち会議室を退出した。
二人が退出した後、レイアードはヴィクトールに新しく得られた王国の情報を告げる。
「ヴィクトール陛下、媚薬の件ですが。王国ではかなりの速さで広まっているようです。最近、娼館ではあれらを持ち込む騎士団員も増えているとか。あとは、あれらと違った、毒物のような危険な薬物もあると······」
「なるほどな。皇国の黒幕は古参の貴族達であろうな、そちらはレーボック子爵か」
「これに関しては、もう少し情報が集まり次第、逐一共有します」
レイアードは少しでも皇国の騎士団や貴族からの信頼を得ようと決意する。そしてそんな彼を見て、机に肘をつき頬杖をついたヴィクトールがそれとは別の、重要な決定事項を言い放った。
「あぁ、忘れていたが。私と貴殿の妹の婚儀は今から二ヶ月ほどで行う。皇国の伝統的なやり方で進めるから、一ヶ月半頃には既に私の妻になっているはずだ。その後、他国に知らせ、来たい者はその婚儀に招き入れよう。そうすれば鼠も混じるかもしれないしな」
「に、二ヶ月ですか?!」
レイアードの心の中の驚きが口から零れ出て、彼は慌てて口を塞ぐ。
「お心のままに。直ぐに準備に取り掛かります」
セドリックが頷き立ち上がると、周りの面々も特に驚くことなく席を立ち上った。
衝撃そのままに、レイアードも早速、重い腰をあげる。
「レイアード君っ、明日から一ヶ月は僕のとこでよろしくね~!その後はジョシュアんとこに行ってね?」
リチャードに後ろから肩を叩かれ、晩餐会の会場へと連れられていく。明日から目にも止まらぬ忙しさになることは容易に想像ができて溜め息がもれた。
「はぁ、」
「どうしたのっ?忙しくなるなぁって思ってる?」
隣を鼻歌交じりに軽やかな足取りで歩くリチャードを一瞥し、レイアードは悪態をつく。
「ちっ、気に食わないなぁ。何故あいつは俺と同じ見た目をしているんだろう」
「あいつ?あぁ、宰相さんのことかぁ」
レイアードは記憶力がいい。彼が魔法学園では全く違う容姿だったことを鮮明に覚えている。
ヴィクトール陛下の隣にいる、平凡な見た目の、普通に強い少年。というのが彼のイメージである。
「確かに、二人はそっくりだよね。僕も学園でレイアード君を見た時、双子かと思っちゃった。セドリックさんは学園では変幻魔法で変えていたから。本当の姿をみるのはレイアード君は初めてなんだねぇ?」
「あぁ。あの銀髪に、紫の瞳、それに術者となると、確実に同じ血を感じる」
「レイアード君の親類かなにかなのかな?」
そしてレイアードは思い出した。父親から昔聞いていた他国で暮らす親類の存在を。
『あいつ、なのか』
そしてバラバラだったピースが全て繋がった。
祖母がルドアニア皇国の男性と結婚し、そこで家庭を築いたという話。セドリックはきっとその子孫なのだろう。
そして、それを奴は分かっていた。だから、変幻魔法を使って学園にいたのだ。レイアードにその存在を隠すために。
頭のキレそうなあのしゃべり方も。何も感情がないようでヴィクトールのみを捕えているあの瞳も。
自分と同じ銀色の髪も。嫌な奴。
自分の愛してやまない妹が王国で王太子と離縁し平民になりたいと言ったときは本当に焦ったし、それならば遠い親族の元へ嫁がせるのも吝かではないとあの時は思ったが。
それが彼奴だったとは。
レイアードは心の底からリリアーナと彼の縁を繋げなくてよかったと、そう思った。
あんな、何かが欠落しているような性格破綻者のもとには、僕の可愛い妹は絶対に渡せない、と。
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