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第一章 王国、離縁篇
46. 皇国、晩餐会
リリアーナは後宮の部屋でラナーにより晩餐会に出席するための支度を施されていた。
「リリアーナ様、こちらが陛下より届いた物です。
是非今晩はこちらを着てください。」
メイド長のアイシャとラナーが持ってきたドレスは、濃い紫色に銀の刺繍の入った美しい物だった。
そして支度が整った事を知っていたかのような完璧なタイミングで部屋の扉が叩かれ、アイシャが再度顔を出す。
「リリアーナ様、ルーカス様とシャルロッテ様がいらっしゃいました」
「そう、では入って頂いて」
「リリアーナ様、失礼ながら、ここは後宮ですので。男性は陛下以外、入室できません」
「な、なるほど······。では直ぐに向かいます」
「後宮入口にこじんまりとした来客用のガゼボがありますのでそちらで待たれているかと思います」
部屋の手前でアイシャがそう言ったのでリリアーナは急いで後宮を出た。
後宮入口すぐ右手にドーム状のガゼボがあり、そこに騎士服に身を包んだ二人の男女の姿が見える。
こんなに綺麗な場所があったなんて、入った時はぐったりしていて気が付かなかったわ·······。
そう考えながら、リリアーナは二人に近づけば、それを察知した二人がすぐに跪いた。
「「リリアーナ様の御前失礼致します」」
「待たせてしまったかしら。ごめんなさい」
ルーカスと共に、隣にいた蒼色の美しい髪を一つに束ねた騎士服の女性が立ち上がって敬礼する。
「私、シャルロッテ・トンプソンと申します。白騎士団副団長を務めており、これからリリアーナ様の専属護衛も兼任致します。よろしくお願い致します」
「まあ、こんなに綺麗な方が騎士団にはいらっしゃるのね。素敵ね」
「ルドアニア皇国でも女性で騎士団に所属できるのは凄く稀なんですよ。シャルロッテ様はとても優秀なのです。それに、魔法学園の卒業生なのですよ」
ルーカスが彼女の補足情報をくれて、リリアーナはシャルロッテを見て目を輝かせた。
確かにレベロン王国でもそうだったけれどあまり国の重臣や騎士団に女性がいた印象はない。とはいっても記憶が戻ってから少しの間の印象だけど·······。
「まあ、では、お兄様とも知り合いなのですね」
三人で和やかに話しながら、後宮から皇城の中心へと歩いて行く。
皇城に来る道中にも思ったが、皇国は真っ白なドーム型の建物がいくつも並び、幻想的で美しい景観をしている。それはこの皇城の一部にも採用されているらしく、後宮もとても美しい作りだ。
だが、やはり皇城本体は冷たく厳かな雰囲気を醸し出していた。
「ご気分はもう大丈夫なのですか?」
「はい、薬を頂きまして。大分落ち着きました。ただ、食欲はあまり······」
「晩餐会とはいっても皆が集まって自己紹介するだけです。お食事はお気になさらず大丈夫ですよ?今いる面々は、陛下も心を許している側近達しかおりませんから」
「お気遣いありがとうございます」
「本当に美しいですね、」
「え?えぇ、とても美しいです」
リリアーナは城の内部を見渡す。無駄な装飾がない、どこか寂しげで儚さを感じさせるような、それでいて美しい城だ。少し灰色がかったような白色も落ち着いていて、緊張から解きほぐしてくれる様な。
「こちらです」
シャルロッテは固く閉ざされた重そうな扉をいとも簡単に片手で押し開けた。
目の前に先程とは全く違う、白を基調に金の装飾が施された豪華な内装の部屋が広がり、リリアーナは息をのむ。
そして中央におかれた大きな長机には既に八人の男性が座っており、壁沿いには十人以上のメイド達が直立不動で立っているのが見えた。
シャルロッテに促されるままに部屋の中に足を踏み入れると、直ぐに着席していた八人が立ち上がる。
その中に兄のレイアードをみつけて、リリアーナは顔を綻ばせた。他国に嫁いできても、身内が一緒にいるというのは本当に心強い事だ。
その近く、部屋の最奥にはヴィクトールがいて、彼がゆっくりと歩いてくるのを見てリリアーナもそちらへ歩を進めた。
彼女の前まできたヴィクトールは自分の腕を差し出し、そこに彼女の手が添えられた事を確認すると耳打ちをする。
「ドレス、とても似合っている。体調は大丈夫か?」
ヴィクトールの吐息が耳にかかり、ぞくぞくとした感覚がリリアーナの全身を駆け抜けた。
「───っあ·······ありがとうございます。お薬が効いたようです。ご心配おかけして申し訳ございませんでした」
用意された二人の席まで辿り着くと、ヴィクトールは部屋を見渡してから声を張り上げた。
「皆、此度の件既に耳にしていると思う。彼女がレベロン王国から連れ帰った私の婚約者リリアーナ・シャルロン公爵令嬢だ。この場にいる者に告ぐ、今後彼女に仕える際は相応の対応をするように」
「「「はっ、陛下のお心のままに」」」
部屋にいる全ての人が声を出すのは壮観だ、と呑気に考えていたリリアーナはヴィクトールからの視線を感じ、慌てて姿勢を正す。
「ご紹介に預かりました。リリアーナ・シャルロンです。分からない事も多くご迷惑おかけしてしまうかもしれませんが、どうぞよろしくお願い致します」
顔を上げて初めて部屋にいる面々の顔を見てリリアーナは唖然とした。
全員、系統は確かに異なるが、皆が美形揃いだ。
レベロン王国のクリストファーやアレクセイを美男子だと感じたのが馬鹿馬鹿しい程には。
そして壁沿いに立つメイドも同様に美女揃いで目を見張る。
ヴィクトールの着席の合図で皆が着席すると、一人ずつ自己紹介が始まった。そしてその間にも食事の用意が行われ、自己紹介が終わる頃には机の上は色とりどりの料理で埋め尽くされる。
食事が始まると斜め前に座っていたセドリックがリリアーナに今後の話を切り出した。
「リリアーナ様、到着して直ぐで大変心苦しいのですが。明日からはルドアニア皇国についても少し知って頂きたく、マダム・ジゼッタを教育係として準備整えました。また、こちらは相談役として、ですが、スチュワートの婚約者であるシルフィア嬢を登城させようと考えております。シルフィア嬢については時期は検討中ですので、またお知らせ致します。」
「セドリック様、お忙しい中、私の勉強そして教育係まで準備していただきありがとうございます。ルドアニア皇国についての勉強、慎んで取り組ませて頂きます。
スチュワート様、シルフィア様にお会いできること心より楽しみに待っておりますね。よろしくお伝えくださいませ。」
リリアーナがスチュワートに顔をむけて微笑むと、彼は一瞬の間をおいて、ハッとしたように感謝の言葉を紡いだ。
「·······っ、身に余る光栄にございます。シルフィアにも私の口から必ず伝えさせて頂きますね」
「あともう一点。明日は身体検査もさせて頂きたく、皇国の皇族専属医師を向かわせますのでお気に留めて置いて頂けますでしょうか。
また、今後はお互いに忙しくなりますゆえヴィクトール様やレイアード卿と会う機会も減ってしまうかと思います。もし何かございましたら直ぐにメイド長や、ルーカス、シャルロッテにお知らせ下さい」
「······はい」
リリアーナはその時、セドリックの気迫に押され与えられる情報を理解するのに必死だった。
だから、彼に色々と質問をしなかった事を後々幾度も後悔する事になるなどとは、この時は思いもしなかったのだ。
此の後、兄であるレイアードとは婚儀まで会う事は無いのだと、この時もし知っていたのなら。もっと兄との会話を楽しんでいたかもしれないのに。
だが、もう全ては計画通りに進められていたのだ。
彼の手によって。
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