58 / 58
第一章 王国、離縁篇
48. レベロン王国王太子、心新たに
いつもは感じないクリストファーの強い魔力を感じてアレクセイは執務室に走る。
執務室の扉をあけると突如魔法陣が浮かび上がり、そこにクリストファーが出てきた。
ふらふらと蹌踉めく彼をアレクセイは受けとめる。
「おい!クリス、大丈夫か?!!」
「あ、アレク···········ぅうっ、」
「こんな急に瞬間転移魔法なんて使うからだろ!?魔力切れ寸前じゃないか!!ファルスをッ「········いや、いい·····」
アレクセイの言葉を遮り、クリストファーは未だぐらぐらと揺れる頭を抱える。
それもそうだ、風魔法で情事を盗み聞きした挙げ句、逃げるために瞬間転移したのだから普段魔法を使わないクリストファーにしては相当な魔力を使った。
「おい、クリス。お前、真っ青だぞ?何があった?」
「なにって·······、」
クリストファーを長椅子に横たえて、アレクセイは執務室に常備してある緊急用の魔力ポーションを取りだし、彼に手渡す。
「とりあえず、これを」
クリストファーはそれを受け取ると、一気に飲み干してからアレクセイをじっと見つめた。
そしてその重い口を開く。
「·······アレクセイ、いつから知っていた?」
アレクセイは息を呑んだ。彼の瞳が今まで見たことのないくらいに強い眼差しだったからだ。
夢見がちな少年の物ではなく、完全に大人の自覚をもったそれにアレクセイは佇まいを直した。
「どちらの事です?」
「勿体ぶるなよ。全部、話してくれ。もう僕は、後戻りはできないんだ。進むしかない」
「········はい。ではまず、ルリナ嬢のことですが、殿下が一線を越える前から性に奔放だという噂は沢山聞いていました。既に不特定多数の騎士達とも、逢瀬を繰り返していると。
殿下も、気付かれたと···········もしかして、何か見たのですか?───·······塔か!!!!?」
「ああ、もう良いんだ。ロメルとかいう騎士とお楽しみ中だったよ。それは、もう」
自虐的に微笑みながらも、クリストファーは自分の声がまだ少し震えている事に気づき押し黙った。
そんな彼を見て、アレクセイはいままで言うことができなかったが提案をしてみる。
「殿下、今からでも間に合います「いや、無理だろう。僕はリリアーナとの離縁で目立ちすぎた。父上や母上も、この期に及んでまた婚約破棄等。許すはずもないだろう、」
そしてクリストファーは言葉を続ける。
「ましてや父上は僕を信じて舞踏会の際にリリアーナを糾弾してくれたんだ。こんな馬鹿息子のために、さ。これ以上迷惑はかけられないよ」
あぁ、そうだ。こういう人だった。昔から彼は素直で、良い奴だったんだよな。とアレクセイは思う。
「では何か策があるので?それとも本当に王太子妃にするのですか?」
「いや、もうそれはないな。とりあえず結婚はして王奥宮に放り込むかな。必ず、尻尾を掴んで引きずり落とすよ」
「えぇ、それが良いかと思います。王奥宮(あそこ)ならば他の男と致すことはないでしょうしね。彼女にとっては生地獄かと」
「それに、あの薬も何か裏があるに違いないし」
「薬、ですか?」
クリストファーに紅茶を用意していたアレクセイはその言葉に動きを止めた。そして言葉を選び直す。
「······媚薬、ですか?」
「いや、何なんだろうな?先程、塔でその男との行為中に金庫のような所から出して二人で摂取していたぞ。瓶に入った、白い錠剤だったような気がしたが「なっ······!彼女から押収していたのは、“闇夜の蝶”という液体の媚薬のみです。調査させていた者たちによると、それと薬草のような物を舞踏会の日に持っていたと。彼女はそれを持って、ヴィクトール陛下に接触したようでした」」
「───·······ヴィクトール陛下にも使ったのか?」
「いえ、使ってはいないようです。ヴィクトール陛下は直ぐに立ち去ったと。もとより、あの皇帝陛下にはきっと何も効かないでしょうが、ね」
「そうか」
「でも、その後すぐに押収しようとしたのですが既に無くなっていた、と」
「ふーん、それは変な話だな」
「ルドアニア皇国に先を越された可能性が高いと考えた方が良いでしょう。で、殿下が今日みたのは白い錠剤だったのですね?直ぐに押収します」
アレクセイは立ち上がって直ぐに押収のための支度を始めた。そんな彼を見上げながらクリストファーは言葉を続ける。
「けどロメルという騎士も彼女からくすねていたから。残っているかは分からないな」
「なるほど···最近騎士団で変な行動を取ったりする者が多いらしくファルス医師も何かの中毒症状だとみて調べていたようです。それでしょうね」
アレクセイは支度をしながらもざっと今まで調べていた件についてクリストファーに話していった。レーボック子爵が危険な媚薬を取り扱い、国中に蔓延させているらしいこと。そしてそれは国内に留まらず、皇国にも手を伸ばしているようだということも全て。
「子爵は危険な中毒性のある薬物を皇国に渡し、その対価として、皇国性の優れた魔導具を仕入れている。私はそう考えています」
アレクセイは机に置いてある書類を見つめた。
「殿下。先日、城下町であった事件をご存知ですか?捕まった男達は人身売買をしていたそうで、皇国の魔導具も所持していたとか。それに、被害にあった少女は皇国出身の少女だったようです」
これがレーボック子爵と関係があるとみています。と言い切ったアレクセイを見てクリストファーは頭を抱える。
人身売買はレベロン王国でもルドアニア皇国でも認められてはいない。皇国に人身売買が行われていることが露見するのは時間の問題だが、そうなればただでは済まないだろう。
「皇国との戦争だけは避けなくてはなりません」
「だけど、謝って許されないだろう、」
「まだ過程の話で証拠も十分に抑えられていないのです。今回のその白い錠剤が証拠になってくれるといいのですが······」
「リリアーナと皇帝の婚儀には皇国に訪問しに行くんだろ?」
「幸運な事に、皇国では婚儀は初夜の後に行うのが通例のようです。初夜のあと神殿側が許可すればすぐ結婚となり、婚儀を行う者はその後に日程を改めて行うとか。皇帝陛下とリリアーナ様がどのような日程かは分かりませんが、祝いの席に呼ばれるその時までに情報を集めましょう」
アレクセイとクリストファーは王国の行く末を想って大きなため息をついた。
事実、皇帝とリリアーナの婚儀までに対処しなくてはいけないことは山積みだ。
そしてそれがこの国の未来を大きく変える事になるのだと、この時既に二人は確信していたのだ。
─── 第一章、完 ───
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
あっ、追放されちゃった…。
satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。
母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。
ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。
そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。
精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。
ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。
言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。
喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。
12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。
====
●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。
前作では、二人との出会い~同居を描いています。
順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。
※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中