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第一章 王国、離縁篇
7. 離縁の為の、悪役令嬢
「リリアーナ様、色々とお考えになっているところ申し訳ないのですが······そろそろお戻りになったほうがいいのでは、と······」
リリアーナはラナーの声で現実に引き戻された。
「あら、私としたことがかなり考え込んでしまっていたようね。ここはどこかしら?」
「ここは王宮内の庭園ですが、王族専用の庭ではありませんので······この道をそのまま真っすぐ行けば一周する形で王族専用庭園へと繋がるはずなのですが······。申し訳ございません······」
かなり遠くまで出て来てしまったようだ。外の庭園なので空気も良いし陽射しも心地よい。けれど自分がどこにいるかは記憶がないので全く分からない。
そしてラナーが萎縮し、申し訳なさそうな顔で謝罪をしている。ということは······。
ラナーの向ける視線を辿れば、やっぱりいた。
リリアーナ達の場所からはまだ遠くではあるが太い道から少し外れた薔薇園の中に騎士服の男性達を侍らせて一輪の花となっている令嬢。記憶はないが、確信できる······あのご令嬢こそが、ルリナ嬢だ、と。
この状況は傍から見れば最悪だろう。しかし、彼女を使って離縁を進めるための好機にできないだろうか?と、最後のピースを嵌め込むように考える。
彼女に便乗して離縁しよう、と決意したのだから、今更怖気づいてどうするのか······。
そこまで考えて、一つの答えに辿り着き、顔を上げる。
そう、便乗すればいいのだ。
『彼女を利用することはできないかしら?』
ルリナは胸元まである濃紺のウェーブした髪をハーフアップにしており、ドレスは赤。
それもリリアーナのような深みのあるワインレッドではなく、情熱的な赤だ。大きくあいた胸元からは豊満な胸がこれでもかと強調されている。
まだ距離のあるリリアーナからでもわかるくらいに大きな瞳やプルンとした唇もとても可愛らしく笑った顔も花が綻ぶようで魅力的である。
彼女はこの庭園内にある薔薇園で薔薇を摘んでいたのだろう、その手には園芸用のハサミと白い薔薇が握られていた。
白薔薇の花言葉は、純潔、強い尊敬、それから······「"私は貴方に相応しい"だったかしら······?」
記憶を失ってもこういう細かい雑学を憶えているなんて本当に不思議だ。漠然とそんなことを考えながら歩みを進めると騎士達とルリナの会話が聞こえるまでには距離が近づく。
『ルリナ嬢、今日もお美しいですね』
『ありがとうございます。お世辞でも嬉しいですわ』
『薔薇を摘むのをお手伝いしましょうか?綺麗な手が汚れてしまいますし、棘が刺さったら大変です』
『良いのです、自分で摘むことに意味があるのですわ』
『ルリナ嬢は貴族令嬢の鏡ですっ!』
『殿下が羨ましいっ!』
『ルリナ嬢の護衛騎士なんかになれたらいいなぁ』
と、まぁ、騎士様方はルリナに夢中のようですぐ横を通るリリアーナには全く気づいていない。気付かれないならばそれはそれでいいか、とリリアーナはラナーを連れてそのまま歩みを進めた。
だが、彼らの横を通り過ぎようとしたまさにその時、騎士達に囲まれていたルリナが徐ろにこちらを見てあからさまに声を張り上げる。それも、手を大きく振りながら。
「ああっ、リリアーナ様ではないですかっ!?ご機嫌麗しゅうっ!」
「······あら、レーボック子爵令嬢。お元気そうでなによりですわ」
あからさま過ぎる大声と共に馴れ馴れしく手を振ってきたルリナ嬢ににっこりと微笑む。本当であればきっと貴族社会のこの国で格下のルリナ嬢から王太子妃である自分に話しかけるのはご法度なのだろう。ラナーから色々と情報を得ておいて良かった、とリリアーナは心からラナーに感謝した。
でもとりあえず、離縁の鍵となる主要人物なのだから少し丁寧に接した方がいいだろうか?もしここで仲良くなれたならもっと離縁が円満にいくかもしれない。とリリアーナは考える。
ルリナ嬢の大きな声で、彼女の周りを囲んでいた騎士服の男達はリリアーナに気付き慌てて跪いた。
「「「お、王太子妃殿下にご挨拶申し上げます!」」」
「あれぇ? リリアーナ様、今日はとても機嫌が良いようですね? 安心しましたぁ。いつも私に言っているお小言『子爵令嬢のあなたが公爵令嬢の私に話しかけるなんて無礼よ』って今日は言わないなんて!!
ねぇっ、皆様もそう思わない? あ、あぁ、もう王太子妃、なんでしたっけぇ?」
騎士服の男達は『僕たちは訓練に行かねばなりませんので~』とかなんとか無理矢理理由をつけて足早に去っていく。リリアーナとルリナ嬢の遭遇を修羅場と見たのだろう。本当に逃げ足が早いものだ。
まず大体、騎士がこんな所で女に油を売っているなんてこの国、やっぱり大丈夫なのだろうか?
それに、やはり前言撤回しよう。このご令嬢、凄く性格の悪いご令嬢だ。喋り方といい、煽り方といい凄く気に障る。
これは私の方も少し煽っても良さそうだわ。と、早々に戦略を"仲良くなって円満離縁作戦"から"離縁強行突破"に立て直したリリアーナはルリナ嬢を見て美しい笑顔で微笑んだ。
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