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第一章 王国、離縁篇
32. 断罪中に訪れるのは、いつだって······
『レベロン王国、王太子妃、リリアーナ・レベロン様ご入場っ!!!!』
彼女の入場と共に会場が騒騒とざわめく。
聞こえる声はどれも『誰にもエスコートされないなんて』『黒のドレスなんて』『ルリナ嬢に手を上げた女よ』等の、リリアーナを非難するものだ。
既に、王太子とルリナの色恋の噂やリリアーナとの間に起きた揉め事について話す者も少なくない。
雑音を全く気にしていないかのように、優雅に歩を進めたリリアーナは、ルカを後ろに控えさせたまま会場の少し上に位置する王族専用、王太子妃の席に腰掛ける。
その後すぐに、王太子、国王陛下と順に続いて入場。舞踏会は恙無く始まった。
それから数刻が経った頃、隣に無表情でしかめっ面を決めこんでいる王太子を横目で盗み見る。そこで初めて、リリアーナはアレクセイがいない事に気がついた。
さらに隣、王座に座る国王陛下も少し神妙な面持ちをしているし、王妃様も欠席している。ざっと会場を見渡せば、兄であるレイアードも未だ到着していないようだった。
それに、今回の主役であるルリナもいない。
今更ながら、流石に何かがおかしい。と、リリアーナは今、分かり得る情報を頭の中で整理しておくことにした。
リリアーナとしては、離縁が出来さえすれば良いのだが、未だ何事も起きない事に焦り、煩く鳴り続ける心臓を戒めて、必死で平常心を保つ。
そんな彼女の心配をよそに舞踏会は滞りなく進み、終盤に差し掛かった所で王城内に通じる扉の外が急に騒がしくなった。
ガタンガタン、バタバタバタ━━━━━━、
あまりに騒がしい音に会場の視線は必然的にそこに集まる。それはリリアーナも例外ではなかった。
『来たわ!!! 遂に、来たのね!!!! 』
リリアーナは心の底から歓喜した。
そして、そんな彼女の期待を裏切らない形で、本日の主役が登場したのだ。
乱暴に開けられた扉から雪崩のように入ってきたのは、眩しいくらいの碧地に金刺繍がキラキラと輝く露出度の高いドレスに見を包んだ、
ルリナ、その人である。
「 ─────クリスさまぁ!!!」
良く響き渡る猫撫で声で会場の中心に走って駆け寄るルリナは一瞬で会場の注目の的となった。クリストファーの色を纏った彼女に、会場中からは感嘆と驚愕の両方が入り混じる。
リリアーナが再度会場内を確認すれば、先程までいなかった兄レイアード、その隣には彼によく似たお父様(記憶がないので分からないが、そうだろう)。そして、ルリナを追いかけながら走って入場してきたアレクセイもいた。
これで役者は揃った、ということだろう。
リリアーナの胸は最高潮に高鳴った。
“あぁ、これで離縁ができる!”と。
会場に現れたルリナをみて、クリストファーは直ぐに席を立ち、会場へと足早に降りていく。
「 ──────ルリナッ!!!」
そこからはまるで情熱的な恋物語の舞台劇でもみているかのような熱い展開である。
二人はお互いの名前を呼びながら駆け寄る。
まるで、長年引き離されていた愛し合う二人が、漸く再会の時を迎えたかのような光景だ。
そして、王太子はルリナの隣に並び立つと声を上げた。
「国王陛下! 王太子として報告したき儀が御座います。何卒、発言をお許し下さい! 」
会場中央で声を張り上げたクリストファーの隣には、彼の愛してやまないルリナ、そして心底不愉快そうな表情をした次期宰相アレクセイがいる。
「許可しよう」
国王陛下の許可が下りて、クリストファーが話した内容は、つい半月前に起こったリリアーナのルリナへの暴力事件についてだった。
完全に彼の主観の入った内容で、起こった事が本当にそうだったかは別物である。だが、この国の王太子が『そう』といえば『そう』なのだ。悲しい事に。
「────以上の事から、私はリリアーナには王太子妃は相応しくないと考えます。此度の罰として、彼女には私と離縁し王太子妃の座を剥奪。また、貴族という立場においても相応しくない。よって爵位の返上そして国外追放を望みます」
あまりに衝撃的な内容とそれに対する処罰に会場はどよめき、リリアーナには非難の声が飛び交った。
ずっと黙ったままだった国王陛下は「静粛に、」と言い、大きく頷く。
そしてリリアーナを見て口を開いた。
「王太子妃リリアーナ。務めを放棄した挙句、王太子の寵愛を得たルリナ嬢に私情から斬りかかるなど、到底許されることではない。依って今回は我も首を縦に振るしかあるまい。この場を以てクリストファーの望み通りに離縁、とする」
“離縁”と聞き、会場が再び騒がしくなるが、国王陛下は言葉を続けた。
「リリアーナ、我は失望したぞ。また、ルリナ嬢が先の一件で恐怖心が拭えぬという件に関しては、国外追放で十分に罰となろう。だが、今後一切、レベロン王国の公爵令嬢は名乗れぬものと思え」
「承知いたしました。国王陛下のお心のままに従わせて頂きます」
リリアーナの声は震えているが、決して悲しくて泣いているからではない。あまりの嬉しさに感嘆の声をあげないようにするのに必死だからだ。
だが、これで終わらなかったのだ。国王陛下は、続いてリリアーナの父と兄を見ると、こう言い放つ。
「シャルロン公爵。我はリリアーナを信じていた。非常に遺憾に思うぞ。此度の貴殿の娘への采配、許せ。そして公爵家には罰として、今後公爵が所有している魔法師団を王家で統括することとする」
ここで彼女は焦って声をあげた。
家族にまで罰が課せられるのは、あまりにも、だ。
「!っ、ちょ、ちょっと待って下さいませ!父上や兄上は関係な······」
関係ない、そう言おうとしたリリアーナの言葉は、地を這うような低いテノールの声に掻き消された。
「レベロン王国国王、その言葉に二言はないだろうな?」
リリアーナの言葉を遮って、現れた一人の男に、会場は水を打ったように静まり返ったのだ。
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