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3万記念閑話:シスコンの兄、レイアード
シャルロッテは第三章のドラファルト遠征班なのですが、全く物語に登場しません。そのため第三章一発目はシャルとなりました。
今後レイアードとシャルロッテの物語は別で書こうと考えていますので、シャルはあまり本編では登場しない様な設定になっております。次からはドラファルトへ向かいます。
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「ああっ、リリアが足りないっ、しぬっ、生きれないッ!!」
レイアードの声が白騎士団の訓練場に響き、団員達は身体を震わせる。
最初は “王国から突然やってきて、侯爵位を与えられた、皇后の兄” としか思っていなかった団員達も、こうも二ヶ月以上共に訓練に励めば彼の優秀な才能を目の当たりにした。
「っ、まずい、シスコンの詠唱がでて負傷者がでなかったことなどないぞ」
「本当だ、それも今日の詠唱は長めだ」
ひそひそと話す団員達をギロリと睨むレイアードに、一切乱れていない隊列を再び組みなおす彼等。
そんな緊張感のある状況下に、華のある美しい声が響く。レイアードの隣へ歩いてやってきたのはシャルロッテだった。
「レイアード卿、あまり怖い顔をされますと白騎士団が委縮します。それは黒騎士団にでも行ってやってきてください」
「······僕はただ、リリアに会いたいだけだよ。最近は魔力も制御できないんだ。完全にリリア不足さ」
「ですが、白騎士団に何を教えているのですか?
防御魔法の貼り方ですか? それとも、殺気に対する耐性?」
「いや、そういうわけじゃ······」
少し気まずそうに目を逸したレイアードを無視し、シャルロッテは団員達に目を向けた。
「今日は皆、一旦解散していいわ。この後はリチャード団長から話があるようだから、半刻後に再集合よ」
完璧なタイミングで現れたシャルロッテに団員達は歓喜し、すぐに各々散らばっていく。二人になったレイアードは、城内へと歩き始めたシャルロッテを追いかける。
「リリアの護衛、なんだろう?最近リリアーナはどう? 僕なんて、婚儀の前に一度と、婚儀で少し会っただけでさ······」
「まあ、リリアーナ様も “慣らし五夜” などでお忙しかったですしね。もうすぐ、ドラファルトへ······、」
言葉を続けようとしていたシャルロッテの隣で、レイアードは足を止め、立ち止まる。
「慣らし······ごや? なんだいそれ、」
その瞬間、殺気が放たれたわけでもないのにシャルロッテの背中から汗が吹き出した。
レイアードはまだ『慣らし五夜』を知らない?誰も伝えていなかったというの······?
心臓がバクバクと鳴り、彼女は咄嗟に口を開く。
「皇国の結婚をする女性の行う······その、伝統の······」
「うん。詳しく教えてくれる?僕もこの国で結婚するんだろうし、マナーがあるなら学んでおきたいんだ」
「皇国の伝統儀式で······その······」
「どんな伝統儀式? 僕もできれば早くこの国に馴染みたい、とは思ってるんだ」
真面目な表情で呟く彼を見て、シャルロッテは内心焦っていた。
このシスコン男は妹が『慣らし五夜』を知ったら怒り狂うのでは、と。たが、黙っていても後々バレる事にはなるだろう。
シャルロッテは意を決して、それについて話す事にした。
「ええと、初夜の前に······何人かの方に身体を慣らして頂く、女性のための儀式でして······」
「へえ、初夜に備えて身体を慣らす、ねぇ······?
······は、?」
うんうん、と神妙な面持ちで頷いていたレイアードは、内容を復唱した後に顔を向けた。眉間に皺が寄った彼をみてシャルロッテは矢継ぎ早に言葉を続ける。
「で、ですから、五夜にわたりっ「リリアーナの身体も······?」
レイアードの周りを殺気が舞い、シャルロッテは二人の周りを囲むように瞬時に防御魔法を展開した。城の内部を破壊するのだけは避けなければ、宰相に何を言われるか分かったものではない。
「レイアード卿、皇城内で魔法を乱用し破壊するのはおやめください!
私もあの儀式には反対なのですが、この国の神殿の決め事で王族や貴族には仕方がない事。決まりなのですっ!」
「······っくそ、分かっていて教えなかったな?
あの······義愚弟」
「それは不敬ですよ」
「ふん、僕が義兄になったんだから、なんとでも言ってやるさ。それにしても、趣味の悪い文化があるものだ」
顔を歪めながら魔力をしまい、肩まである銀髪の髪を掻き分けたレイアードを見て、シャルロッテは目が釘づけになる。
レイアードはとても中性的な見た目をしている。それに加えてリリアーナの兄というべきか、似ている点も多く、美しい。とても魅力的な男性······、と一瞬考えて、その思考を振り切るように話を続ける。
「どなたが担当だったかはお聞きにならないのですね?」
「聞いても仕方ないだろう、終わってしまったのだし。過去の事は変えられないからね」
「確かに······。そうですね。シスコンの貴方ならもっと怒るかと思いましたが。
あの儀式は、平民では緩和されているのですが、王族や貴族は必須ですので、ヴィクトール陛下はどうすることも出来なかったのだと思います」
「まあ、先に聞いてたら結婚には反対してたかもね。 なるほど······、じゃあ君も結婚するなら、それをしなきゃいけないってわけか」
「私は結婚する気がありませんから。女神を崇拝し、女性を孕み袋の様にしか考えていない男性達となど、吐き気がします。“慣らし五夜”も神殿の決めた事ですしね」
「ふーん、だから君は女性が好き、なんて言うんだね? ま、僕はその儀式には関係ないけど?」
「はい?」
「だって僕はさ、聞いてもいなかったんだよ?なら知らなかったの一点張りができるって事だよ。それに僕は元々は王国の人間だし、自分の妻を他人に慣らしてもらう必要はないね」
「······」
「なに?」
「それは······羨ましいな、と思っただけです」
「ふふっ、じゃ、僕の妻になる?そうすれば、君の好きなリリアーナと義姉妹になれるよ?」
笑いながら歩いていくレイアードの背中をぼぅっと見つめていたシャルロッテは、すぐに意識を戻すと彼を追いかけた。
「っ、ちょっと!どういう事ですか?!お待ち下さい!」
「え?どういう事もなにも······今言った通りだよ。ほら、シャル、二度は言わないっていつも団員に言っているだろう?」
「っ!······良いですよッ!私はもうすぐドラファルトの旅でリリアーナ様の護衛なんですから!!」
「は?僕、その情報も知らないんだけど?!本当、義兄として何か言った方がいいかな?可愛い妹を振り回しすぎるなってさ」
「私は陛下の味方につきます。共に、貴方の見られない様な獣人形態のリリアーナ様を堪能してきますので!」
「はあ?そんなの僕が許すわけないだろう!」
二人は小言を言い争いながら皇城の廊下を進んでいく。こんな調子のレイアードが、愛しの妹リリアーナにゆっくり会える事が叶うのはもっとずっと先の話。
そして、シャルロッテはこの一週間後にリリアーナの護衛としてドラファルトへと旅立った。
リリアーナの近況を報告する、魔法を介した文通を毎日行うという約束をして。
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