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2. ドラファルトの、竜王宮
ヴィクトールは書類を片手に馬車の外を見た。
窓の向こう、目の前には広大な森が広がっている。
「ヴィクトール様、御気分は大丈夫でいらっしゃいますか?」
「ああ、問題ない」
「良かったです。それにしても、森、しか見えませんね······」
「ああ。エルフの郷の領域だから仕方ない。そうか、リリィは初めて見るのだったな」
『はい、』と頷いてリリアーナは窓の外を興味深そうに見た。
ドラファルトに行く経路は二つある。一つは中立国を介して行く道。もう一つが皇国の隣国、エルフの郷を横切って行く道だ。
そしてヴィクトールは今回、日程短縮のためエルフの郷を横断する形でドラファルトに向かっていた。
「エルフの郷の王には既に知らせている。問題になることはないだろう」
「そうなのですね。友好的な方々のようで安心致しました」
「まあ、そうだな。友好的というか、まあ変わった奴なんだ」
「皆様、各国の王族の方々は魔法学園で交流があるとか。羨ましいです」
「交流も必要だからな。それにしても、今回のロンファの即位式には、他の国から来国する者はいないらしい」
ヴィクトールが文に目を落として呟いた言葉に、リリアーナは目を丸くする。
「え?そうなのですか?」
「ああ。最近、ドラファルトはキナ臭いんだ。
加えて、海と砂漠に囲まれた楽園ともいわれる魅惑の国の動きもかなり過激になってきているようだ。エルフの郷の長からも直々に同盟を組みたいと言われている」
ふう、と重々しいため息をついたヴィクトールの顔をリリアーナはちらりと見た。
あまり他国の細かな情勢や裏事情を聞く事はなかったけれど、少しは頼ってくださるようになったのだろうか?と嬉しい気持ちになる。
そんな時、目の前の景色が開け、広大な草原が広がった。
どうやらエルフの郷の森を越えたらしいそこは、王国や皇国と違って高い建物は全くない。
山々や川など雄大な自然に溢れており、そこを獣の形態をとった獣人達が駆け抜けていく。
道の舗装などはあまりされておらず、時折ガタガタと馬車が揺れるが、それも異国に来たという感じがしてとても風情がある。
リリアーナはじっと、その景色を見つめた。
「ドラファルトは、面白い文化を持っていてな。
一定の間隔でどうやら異世界人が転生してくるらしい。大抵は竜王の王子として転生してきて、その彼らの知識や文化を使って国の繁栄に繋げているんだ」
「まあ、そんな事が?」
「ああ。だから、この国の建物の建築様式や、外観などは他国にはない独自のものだな。建物だけじゃない。衣服、食べ物、殆どの物がドラファルトでしか見ないようなものだ」
そのヴィクトールの言葉通り、皇国一行の馬車がドラファルトの中心に到着すれば、景観ががらりと変わる。
木造建築と言うらしい手法で作られた店や家屋は、温かみがあり見ていて飽きる事はない。統一されたように低めの家屋が並び、前で重ね合わせる様な作りの羽織を着た獣人の少年少女が、大通りをバタバタと元気に走り回っている。
外に出された屋台で食べ物を売ったりする文化はどこも一緒なのだろうか、とリリアーナが興味深く活気に溢れたその通りを眺めていると、突如目の前に高い塀が立ちはだかった。
低い建築物しかないとばかり思っていたリリアーナには少し衝撃的で、反射的にヴィクトールを見上げれば、彼が直ぐに口を開いた。
「ここが、竜王の住まう宮、竜王宮だ」
その時、馬車の窓がコンコンッと叩かれて、馬に乗った青年が会釈する。濃い灰色の髪に狼の耳がひょこひょこと動いており一見可愛い見た目をしているが、灰色の瞳に感情は見られない。
ヴィクトールは窓を開けると、彼に無表情で問いかけた。
「ロキ、どうした?」
「竜王宮につきましたが、この後、門が三つございます。暫くお時間かかるかもしれませんが、ロンファ様が直々にお迎えにあがるとの報告も入ってきておりますので、そのおつもりでご準備下さい」
「わかった」
ヴィクトールは窓を閉めて、気怠そうに足を組み直す。
「ロキ様はもう素性を明らかにされたのですか?」
「いや、俺の影としか知られていないが。あれはあまり目立つ事を好まないんだ」
今まで隠されていたが、ロキはヴィクトールの、唯一血の繋がった弟である。だが、ロキ自身に皇帝の座への興味はなかったため、ヴィクトールの影として裏で活躍していたのだ。
リリアーナ自身も、つい先日その事実を知ったばかりだった。
少し経ち、馬車が動きだす。ロキの言葉通り、時間をかけてその大きな門を三つくぐった先に、美しい宮が広がった。
「まあ!とっても美しいですね!」
ドラファルト特有の木造様式でできた立派な竜王宮が見え、リリアーナは息を呑んだ。
広大な土地だが、今みえているのはただその一角でしかないのだろうと容易に推測できる。
ロキが馬車の扉を叩き、ゆっくりと開ければ、ロンファがそれを出迎えた。
ヴィクトールが地面に降り立つのを待って、ロンファは両手を胸元で組むと軽くお辞儀をする。
「遠路はるばるお越しくださり感謝します、ヴィクトール陛下」
「ああ、」
次いで、隣に立ったリリアーナを見てにっこりと微笑んだ。
「リリアーナ様も、お越し下さりありがとうございます。さあ、長旅でお疲れでしょう?直ぐにお部屋までご案内いたしますね」
********************************
第三章では異世界人については設定使用のみです。
彼のストーリーは今後ノクターンにて男性向けR18として執筆予定です。
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2023.9.3 投稿分の改稿終了。
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