【第三章/獣人の国・邪竜と女神編】王太子に離縁されました?上等です。最強の皇帝陛下の【魔眼】と共に、世界攻略を致しますので!【R18・完結】

猫まんじゅう

文字の大きさ
14 / 56

12. リリアーナに、翳される手



 ロンファの即位式が終わると、そのまま宴へと突入する。それを境に、宴会場は一変、賑やかになった。
 新たに宰相となったルイネの号令で、一斉に会場の人々が動き出す。

 女性のもとへ我先に駆け寄る男性、仕事の話を始める人、貴婦人の輪。其々が自分の目的に沿って動き始める中、竜王になったばかりのロンファはヴィクトールとリリアーナの前にやってきた。

「竜王ロンファ。本日は真にめでたい。ルドアニア皇国を代表して、貴殿に神の加護があらんことを願っているぞ」

 ヴィクトールは洗練された美しい所作でロンファの前に立つと、祝いの言葉を述べる。
 この彼の言う、“神”とはドラファルトに伝わる火神ザォシェンの事だ。


「ルドアニア皇国皇帝ヴィクトール陛下。本日は参列頂き、ありがとうございます。明日、もし都合がよろしければ今後についての会談を執り行いたく」
「ああ、相分かった。時間を取ろう」


 それから、ロンファはヴィクトールの隣に控えてカーテシーを取っていたリリアーナの前に立った。
 そこからはまさに流れるような美しい動き。すっと片足を引きながら折り、跪くと、彼女の手に触れて甲に口づけを落とす。
 そのロンファの様子に宴会場にいた一部の貴族からは、感嘆の声が聞こえた。


「本日は参列して頂き本当にありがとう、姫」
「······っ、」

 リリアーナは目を丸くして、掴まれたままの手を見つめ身体を固くした。

「おい、なんのつもりだ。それに姫ではない。俺の妻だ」

 ロンファは少し顔を歪めながら、じっとリリアーナの手を見つめる。そして、立ち上がるとヴィクトールに向かってにっこりと微笑んだ。

「はい、分かっておりますが、私からすれば妖精姫は今も”姫”でして」
「早く手を離せ。吞まれるぞ?」

「はい。確かに凄まじい威力だ······ですが、私にも今や、竜王としての力がありまして。使い慣れていないのでまだ相殺はできずとも、軽減するくらいならば······っ、」

 誓約紋のあるリリアーナに触れているロンファは、辛そうな表情で彼女の瞳を見つめる。
 その様子に慌てて宰相のルイネが飛んでくるも、それをロンファは片手で制した。

「······やはり、”支配”されているのですか?」

「お前には関係ない。それとも──── 」

 ヴィクトールは冷めきった表情でロンファを睨みつけると、静かに口を開いた。

「 ────お前も、喧嘩を売っているのか?」


 ヴィクトールに真剣な眼差しを向けていたロンファは、不意に目を逸らすと、ふふっと笑う。
 それはいつもの優しいロンファの笑顔だった。


「いえ、ヴィクトール先輩に喧嘩など。滅相もありません。ただ、皇后陛下の着物姿があまりにも美しかったので賛辞を述べただけですよ。そうだ、先輩、少しあちらで個人的な話をしても?リリアーナ様をおひとりにするのは心苦しいのですが······」

「ちっ。ロキ、リリィの護衛を頼む」
「はっ、お心のままに」


 ロキがリリアーナの隣に立ち、彼女は胸をなでおろした。他国で一人になる事ほど心細い事はない。去り行く二人を見送って、彼女は檀上から宴会場に目を向ける。

 会場では先ほどの王族とのシェイギで選ばれなかった女性達に、相性確認の列ができていた。
 もし男性達に娶る気があれば、晩餐の後に閨で、さらに相性を確認するという流れだ。

「意思に反してなど······辛いでしょうね」

 それに、その閨を共にしたからといって確実に娶られるわけではない。娶るか娶らないかは、その後、他の候補者も併せて検討という形になるのだそうだ。
 リリアーナは彼女達を想って深いため息をつく。


 茫然とその様子を見つめていたリリアーナは、目線の先に人が立ち止まった事で上を見上げた。そして目の前の人物に、鼓動が早くなるのを感じる。
 隣にいた護衛のロキは、直ぐにリリアーナの前に立って、彼等を睨みつけ牽制した。

「へえ、すごいや。生きていたんだ? 皇国の犬は案外しぶといな」

 王弟となったバロンがニヤニヤと口角を上げながら、さも不愉快そうにロキを見る。

「ボクは王弟であり、この国の王位継承権を有するバロン・ドラファルトだぞ。不敬だ。下がれ」

 ロキがギリッと歯を食いしばるのを見て、リリアーナは彼に一度穏やかな視線を向けてから、バロンに向き直ると微笑んだ。だが、その直後バロンの手が目の前に翳され、リリアーナは息を呑む。

「バロン殿下、お久しぶりでございます。······っ、これは?」

 目の前のバロンが、いやらしい笑みを浮かべて自分を見下していることに全身が粟立つ。

「······なんの、御冗談でしょうか?私は皇国皇帝の妻で、皇后にございます」

「知っているさ。けど、今はこのドラファルトにいる身だろう?この国の挨拶には従ってもらわなくては、なあ?皆もそう思うだろう?」


 バロンは汚い笑みを零しながら、護衛達を引きつれてリリアーナへと距離を詰める。
 上から下までを舐めるように視姦され、リリアーナは吐き気がするのを必死でこらえた。


「さあ、ボクの前に膝まずいて股を開くといい、雄の言う事は絶対だぞ?」

「っそれは······」


 リリアーナが仕方なく立ち上がろうとしたその時、聞き慣れた低いテノールが響く。

「本当に、この国の雄は躾もなっていないのか?」

 バロンとの間に割り込むように入ってきたのは、リリアーナの愛する夫、ヴィクトールだった。
 彼女に翳されたバロンの腕を掴んだ彼はそれを捻り上げる。

「っうぐ、ッ」

 周りの護衛が動こうとするのを察し、ヴィクトールは彼らに鋭い視線を向けた。
 ヴィクトールの『支配の魔眼』はこの世界でも有名だ。バロンと護衛達は無暗にヴィクトールに近づくことができず、立ちすくむ。そして、それはバロンの側近である金髪の竜人ヴォルも同様だった。


「他人の、それも皇帝の妻である皇后に儀式を強要するなどと。本当に呆れる」
「ヴィクトール陛下、弟が無礼を······!」

 慌てて追ってきたロンファをヴィクトールは一瞥し、そしてバロンの腕を鬱陶しく払った。

「お前も、竜王になったのであれば、竜王宮にいる雄の躾くらいはしたらどうだ?本当に不愉快だ。行くぞ、リリアーナ」

 リリアーナはヴィクトールに手を引かれるがままにその場を立ち去る。

「ヴィクトール様······ありがとうございます······」
「貴女も、もう皇后なのだからあんな程度に屈するな。今回は間に合って良かったが」
「も、申し訳ございません······」

 まあ、もし触っていたら奴の手は無くなっていただろうし······いや、自分が斬り刻んでいたかもしれないな。とヴィクトールは込み上げる怒りを抑えながら、竜王宮の廊下を突き進んだ。
感想 3

あなたにおすすめの小説

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。