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13. 逃げる先は、何処へ※
シズクは心の中で落胆していた。
翳手儀では竜王から新竜王ロンファへと勧めては頂けたのだが、やはり彼は噂に聞いていた通り硬派らしい。
成人を迎えた獣人女性の誰にも触れる事をせず、終始ニコニコと笑顔。優しい雰囲気を纏っていたが、あの触り方は······と、シズクはつい先ほどの出来事を思い出す。
ロンファに直接、獣蕾(ジュウレ)を触れられた時、電気が走りピリピリと痺れ、指でない、何か別の生き物に触られているようで総毛立った。
あまりの快感に、身体が篭絡され、考えすらも纏まらなくなった瞬間、彼はその手を引いたのだ。
「きっと慣れていらっしゃるのよね······、」
あの見目の麗しさ、それにドラファルトを担う竜王であり、地位も名声も、全てを手にしている御方。
自分が彼の側室の兎の枠に選ばれ、後宮に入れるなどという夢を見る事すら、不敬なのだろう。
「はぁ······、」
シズクが父の元に戻れば、同時に一人の中年の男性が駆け寄ってきた。
「ああ!お久しぶりでございます。ゴーロット様!」
駆け寄ってきたその男をみて、父は顔を輝かせると頭を下げる。
ゴーロットと父が名前を呼んだその男は、羊獣人のドラファルトでは有名な大商人であった。
獣人の間で人気な、性的な玩具を主に取り扱う彼は、かなりの財力がある。ほぼ毎年新しい妻を娶っているという事でも有名な好色だ。
「ああ、やはり、見目麗しい!シズクさん、と言ったかな?」
「はい、本日翳手儀を迎えました。娘になにか御用で?」
父の顔は見えなかったが、声色からしてとても嬉しそうだ。手のひらを重ね合わせ、胡麻をする様に微笑みかけている父から視線をシズクに向けた羊男は、丸眼鏡越しにその目を細めてじっくりと観察を始める。
「凄く私の好みの女性なのです。少し相性を見ても?」
「えぇ、えぇ、ゴーロット様。勿論でございます!」
羊男はシズクの目の前に手を翳す、それに従って彼女はすぐに膝をついてスリットを開いた。
男は楽しみでたまらないといった様子で彼女の秘所に触れる。
ハァハァと汚い吐息を耳元に感じ、シズクは顔を歪めた。こんな男に、ロンファの上書きをされた挙げ句、父の横でこんな風に触られるなど、本当に不快である。だが、シズクには逆らう事はできない。
そう、ここは男尊女卑の激しいドラファルトなのだから。
「ああ!素晴らしい、やはり獣蕾も素敵だ!後で更に相性を確認しても?」
羊獣人の男は、父に向き直ると満足気に微笑む。
父も大商人に自分の娘が見初められたと、とても嬉しそうに頷いた。
「も、勿論でございます!もし選んで頂ければこの上ない幸せにございます」
シズクは今日このゴーロットという男に処女を奪われるのだと、そう確信して絶望に染まる表情を隠す様に俯いた。
◆
「っ、ちょっと······待ってください······イヤっ······!」
不意に聞こえた女性の小さな叫び声に、リリアーナは辺りを見回す。ヴィクトールに手を引かれ、廊下を歩いていたリリアーナは急に雰囲気が変わった事にも首を傾げた。
何か具体的なものが見えるわけではない。だが、妖艶でねっとりとした空気が辺りを包んでいるように思えて、その叫び声の聞こえた廊下の角を覗き込む。
そこは行き止まりではなく、片廊下が続いており、襖のついた個室が並んでいた。
その内の一つの部屋の襖が僅かに開いているのを見つけ、リリアーナはその部屋をじっと見つめる。
「リリィ、ここはあまり立ち止まるには場所が良くない。我々の部屋に戻ろう」
一瞬辺りを見回して、少し罰の悪そうな顔をしたヴィクトールは、急に立ち止まったリリアーナを気遣うように、顔を覗き込んでから彼女の手を引っ張った。
だが、リリアーナは部屋を食い入るように見つめたまま、動かない。それから、口を開いた。
「あちらはどういった部屋なのですか?」
「うん······そうだな、相性確認の部屋だと聞いている。まあ要するに、翳手儀の後に気に入った女性と入る短時間の閨事のための部屋だ」
渋々そう発したそのヴィクトールの言葉に、リリアーナは驚愕する。あの部屋の中で、身体の相性を確かめられ、最悪、あそこで処女を····。
だが、それと同時にこの妖艶な雰囲気の理由が分かりリリアーナは納得した。
それであれば、ヴィクトールの言う通りあまり此処にいるべきではない。そう判断し、ヴィクトールに手を引かれたまま、部屋へ戻るために足を踏み出す。
その時、背後から大きな叫び声が聞こえて、リリアーナはびくりと身体を震わせた。
「イヤあ、やめてッ、いやなの、イヤ!!助けて!!」
ヴィクトールが咄嗟にリリアーナを庇うように後ろに隠す。直後、少し開いていた襖の部屋の中から一人の兎獣人の女性が走ってきて、足を縺れさせて転げた。
反射的に助けようとしたリリアーナはヴィクトールに止められて、彼を見上げる。
「あまり国の問題に足をつっこみたくはない」
「······黙って見ていろと······言うのですか?」
そんな中、彼女の後を追って襖から出てきた羊獣人の男が彼女を見ながら悪態をついた。
揉め事を回避するため、咄嗟に死角へと身を隠したヴィクトールとリリアーナには全く気づいていないようだ。
「私に処女を奪ってもらえる光栄を、なんたる無礼!本当に、躾が全くなっていない雌だな」
処女、ときいてリリアーナは記憶を呼び起こす。
あの兎獣人の女性は即位式にてデビュタントを迎え、先ほどの儀式、最後にいた······そう思い出して、もう一度彼女を見た。
ゆっくりとだが威圧的に歩いてきた羊獣人の男は、床に倒れ込んだ彼女の耳を乱暴に掴むと、強く引っ張る。
「オイ。分かっているのか!!」
「っ、やめて······痛いッ······やめて下さい······!」
「お前は私の商売の道具になれば良いのだ!それを逆らうなど、身分を分からせてやらねば」
「ッ、イヤ······」
男は彼女をずるずると引き摺りながら個室へと戻る、涙を流しながら為す術もない彼女を見て、リリアーナは思わず声を上げた。
「ッ!ヴィクトールさまっ······!」
その状況を見ながらも、全く微動だにしないヴィクトールに痺れを切らしたリリアーナがその手を振り払おうとした時。
小さなヒョウ柄の耳を持つ幼女が、ヴィクトールとリリアーナの横を走って通りすぎる。幼女はその動きにくそうな女官服を容易く御しながら、羊獣人の男と兎獣人の女性の間に入ると、声を張り上げた。
「だんなさま!!獣人のめすへの過度な乱暴は、この竜王宮では認められておりません!なにとぞ、お手をお放しくださいませ!」
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