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15. ドラファルトでの、閨①※
「こうごーさま、こちら本日の御着物でございます。お手伝い致しますねっ」
ここまで頼んだかしら?とリリアーナはその幼い獣人の少女を見つめた。
ヴィクトールとリリアーナのために宛がわれた美しい宮の衣裳部屋で、自身の倍以上ある大きさの着物を持っているその幼女は、豹獣人のユイだ。
即位式の宴の後、羊獣人の男に襲われそうになっていた兎獣人の女性を身を挺して守ろうとした勇敢なその幼女は、竜王宮の女官見習いだった。
美しいブロンドの髪に、ひょこりと揺れる小さな丸い耳がとても可愛らしいユイは、色々あってリリアーナの専属女官を買ってでてくれたのだ。
くれたのだが······、ここまで頼んだだろうか?とリリアーナは内心焦りを覚える。沢山の疑問が浮かび、リリアーナは慌てて口を開いた。
「えぇと······」
「私のことはユイとお呼びください。こうごー様」
「皇后様って······。ユイ?私付きの女官になってくれたのならば、リリアーナと呼んでくれる?」
先程、出会ってからこの子に何故か懐つかれてしまった。専属の女官になりたい、と懇願され、あまりにも可愛いその姿に、後先考えず首を縦に振ってしまったのだ。
「ユイ、貴女がここまでしてくれる必要はないのよ?着替えは他の女官に······」
「いえっ!私が専属女官ですからっ。それに、着付けは得意なのですっ」
ユイが胸を張ってそう自信たっぷりに言うので、リリアーナはその気迫に押され、黙って頷いた。
「そう······。あ、そういえば、ユイ。先ほどの兎の女の子は大丈夫かしら?」
あくせくと着物の準備をしているユイに問いかければ、彼女は振り返って笑顔を向ける。
「リリアーナ様は優しいですねっ。この国でそんな事を気にする者は多くありませんっ。
でも、皇国の護衛の方がお連れくださったので、悪い様にはされないかと思いますよっ。ただ······」
彼女の表情が儚げなものに変わり、瞳の奥に若干の絶望が見えて、リリアーナは息を呑む。こんな幼い少女が見せるべき表情ではなかったからだ。
「······ただ?」
「例えば、家族から勘当され、娼館や奴隷商など、どこかに売られてしまう。といった可能性はありますねっ」
あどけなさしかない幼女から発せられた、とは到底思えないその発言に、リリアーナは耳を疑う。
「家族に、売られる······?」
その直後、バタバタと宮の中が騒がしくなってリリアーナとユイは衣裳部屋の戸を少し開け、様子を伺った。
獣人の女官達数人が列を成しながら椅子に座るヴィクトールの前に屈む。そして順番にナニカを彼の目の前に置いていった。
それらをヴィクトールが興味深そうに眺め、手に取ってじっくりと観察しているのが見えてリリアーナは首を傾げた。
「なに、かしら?」
「あれは、きっと、今夜、閨でお使いになるオモチャをお選びになっているのかと思いますっ!」
「······おも、ちゃ?」
「はいっ、様々な形の男性器を模した張形や、ビヤクの入ったスライムなど······「ユ、ユイっ?!そ、そんなの言わなくていいのよ?!むしろそんな事をどこで覚えたの!」
「も、申し訳ございません······。ですが、ドラファルトでは必修科目に組み込まれていて、一般的で」
リリアーナは頭を抱えた。誰が、こんなあどけなさが残る幼女から”閨の玩具”についての説明を聞きたいと思うのか。
「リリアーナ様はとても愛されておられるのですねっ。お二人は番のようでとても羨ましいですっ」
ユイはそう言って、リリアーナの着付けを始める。リリアーナの着物がパサリと床に落ち、背骨に沿って真っ直ぐに入った、美しい黒い紋にユイは息を呑んだ。
「っ。リリアーナさま、こちらは······?」
「ああ、それはね、ヴィクトール様との間にある二人の誓約紋なのよ」
「凄い······番の印よりも濃い匂いがしますっ。皇帝陛下の強い匂いはここから来ていたのですね?」
白く透き通るような美しいリリアーナの身体のあちこちには赤い鬱血根が散らばっている。だが、それよりも圧倒的存在感を出す、その誓約紋に目が釘付けになった。
「······ジロジロと、すみませんっ。素晴らしくて、見惚れてしまいっ。今、すぐにお召替えを」
「ありがとう」
リリアーナが濃紺の夜用の着物に着替えると同時に、ヴィクトールの声が聞こえる。リリアーナは、直ぐに崩れがないか鏡で確かめると返事を返した。
「リリィ、大丈夫か?」
「はい、いま終わりましたので。すぐに向かいます」
リリアーナは急いで部屋を出ると、ユイにエスコートされ、ヴィクトールの前で立ち止まる。
「リリアーナさま、わたくしはこれにて。また明日まいりますねっ」
ユイは直ぐに一歩下がると、深くお辞儀をして、宮から退出した。ユイを見送って、リリアーナは再度ヴィクトールを真っ直ぐに見つめ、腰を折る。
「ヴィクトール様、大変お待たせ致しました」
「いや、大丈夫だ。夜はこれからだろう?長くなりそうだからな」
ふふっと妖艶に笑った彼をみて、リリアーナの全身が粟立った。肉食獣に虎視眈々と狙われているような、捕食される前のような、そんな感覚。もしかしたら、それは、これから起こることを察知した、獣としての本能だったのかもしれない。
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