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19. 竜姫リューイの、願い
ロンファは本殿の来賓用の間でヴィクトールを待っていた。
「遅いね。何かあったかな?」
その言葉にルイネは首を傾げる。
「何か?あの宮からここまでの間で何かあるとは思えませんが」
その時、部屋の扉が叩かれて二人が振り返った。
「ロンファ、俺だ。入るぞ」
ヴィクトールの声が聞こえ、ロンファは直ぐに席を立つ。いつもの癖で『先輩~!』と扉に走り寄りたい気持ちを堪えて、ルイネがその扉をあけるのを見つめた。
「お待ちしておりました。ッ!······ハァ、······」
「ルイネ、お前!」
「······いえ、私はそういうつもりでは······。ただあまりにも強烈で······ッ」
ロンファとルイネが揉めだし、ヴィクトールは怪訝そうにその様子を見た。
隣には護衛としてジョシュアとシャルロッテを控えさせているが、彼らも何が起きているかは分からないようだ。
「んんっ、ヴィクトール先輩。なんでこんなに遅れたか、一応お聞きしても?」
「なんだっていいだろう、というかお前。その言い方、どうせ分かっていて言っているのだろう?」
「っ、そりゃあ!そんな、彼女の匂いをプンプンと匂わせてきたら分かるでしょう!我々は獣人なのですよ?ほら、この真面目しか取り柄のないルイネもこんなにアてられて「私はアてられてなど······おりませんッ!!」
「まあ、良いだろう。匂いくらいは嗅がせてやる。それで、なんだ?こんなに畏まった所で話とは」
「はあ······、ではとりあえず、座って下さい」
ロンファはヴィクトールと口論する事を諦めると、彼を席に誘導し研究用資料を差し出した。
「昔、学園でも先輩には話していた通り、僕は番や発情期の抑制剤を作製したいのです。今は、あまりにも······酷い」
「なるほど?」
「僕は、皇国と友好国となり、同盟を組みたいと思っております」
「······我が国と貴国は昔から揉めている。反対も多いだろう。そんな中でも友好国になると?それに私にはメリットはない」
ロンファは知っている。ヴィクトールが”私”という時は大抵一国の王として話をする時だけだ、と。だから、もっとしっかりと彼にメリットを提示しなければ。
「確かに揉めた理由も我が国の竜人が、一方的に“番”を認識したことにあります。だから勝手にしろ。そう仰る気持ちは分かります。
でも、僕は女性にも人生を選ぶ権利はある、そう思います。我々で手を取り合い、研究をし、品質の高い避妊薬や避妊具なども開発できれば······うまくすれば世界を取り巻く環境も変えられるかもしれません」
「······まあ、な」
「だから、魔道具の最先端である皇国と共同研究を行いたい。それに今後何かあれば全面的に協力をします。先輩はエルフの国とは仲が良かったですよね?
あそこはわが国とはあまり友好的ではありませんが······最近は魅惑の国アクアビアンと揉めていると聞きました。皇国には応援要請が来ているのではないですか?」
「······、それで?」
「もし、何か有事の際には我が国は全面的に皇国に付きます。それが敵国であるエルフの為になったとしても。アクアビアンは手強いですよ?暗殺集団と洗脳に特化した者もいると聞きます」
「······なるほど、そこは前向きに検討しよう。それに関してはセドリックにも聞かせなければいけない案件だからな」
「はい。あと······」
ロンファがもごもごと口を吃らせて、ヴィクトールは怪訝そうに彼を一瞥する。
「なんだ?」
「ええと······これは、頼まれての事なのですが······”リューイ”」
彼が”リューイ”と大きな声で名を呼ぶと、別の扉の奥から赤い髪の着物姿の女性が現れる。
真紅の美しい角は竜人であることの象徴であり、それに加えて長い耳が生えていた。
彼女は美しい舞をするかのような動きで着物を翻すとヴィクトールの前に跪いた。
「皇国皇帝陛下、お初にお目にかかります。ドラファルト前竜王タオリャンの長女がリューイと申します」
「リューイ姫か、竜王ロンファの妹でもある貴女が、何か私に話でもあるのか?」
じっと鋭い目線を向けるヴィクトールに怖気づく事なく、リューイはじっと彼の瞳を見つめ返すと口を開いた。
「はい。では僭越ながら。今後、竜王国と友好関係を結び、同盟を組む上での皇国のメリットとして、私の身はそぐわないでしょうか?」
「は?」
「私を、皇帝陛下の側室に「いや。それは必要ない」
「っへ?」
完全に即答で”拒絶”されてリューイは混乱した。
あまりに素っ頓狂な声が漏れ出て、直ぐに着物の袖で口元を隠す。
「俺は側室は娶らないと決めている。貴女は見目も麗しく、聡明な女性であるとは聞いてはいるが、私は皇后以外に興味はない」
きっぱりと言い切ったヴィクトールを見て、リューイは少し焦った。
確かに兄であるロンファからは現皇帝陛下が皇后にご執心で溺愛しているという話は聞いていたが、こんなに即答されてはリューイの計画が水の泡だ。
「あ、あの······それは、例えば。捕虜として、竜王国が裏切らないかを監視するための貢物のような形でも······駄目でしょうか?」
「リューイ、ほらね?僕は言ったでしょう、ヴィクトール先輩はリリア―ナ様一筋だから。それに、捕虜としてなんて······僕はそんな事を大事な妹にはさせられないよ?」
これは非常に不味い、とリューイは拳を握りしめた。
ここで諦めたら、またこの竜王宮という籠の中で、狂愛の鎖に繋がれた不幸な未来しか待っていないのだ。絶対にこの国から逃げなくてはいけない彼女には、もう後には引けなかった。
そんな悲壮感と焦燥感を漂わせたリューイをヴィクトールはじっと観察する。
そして姿勢を崩し椅子に凭れ掛かる。ゆっくりと脚を組むと深い溜息をついた。
「はぁ······どうして最近は面倒なことばかり。
······リューイ姫、正確には俺の側室に入りたいというわけではないのだろう?私は本当の理由が知りたい」
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