【第三章/獣人の国・邪竜と女神編】王太子に離縁されました?上等です。最強の皇帝陛下の【魔眼】と共に、世界攻略を致しますので!【R18・完結】

猫まんじゅう

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20万記念閑話: ロキの秘密、美しい記憶


 今回はロキの小さいころとリリアーナの小さいころのエピソードを見たいとご提案をいただきまして、R15を書いたことがなかったのでその練習も兼ねて記念閑話としました。
 エロがなくなったとたん、そのエネルギーが切なさに全振りされてしまいました。
 長いので1話完結短編だと思って、お時間ある際にどうぞ。

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 ロキには幼い頃の記憶がある。
 とても甘酸っぱくほろ苦い、忘れたくても忘れられないような美しくも儚い記憶。

 その日、十二歳になったばかりの少年ロキは実の兄であるヴィクトールの護衛見習いとして宰相の息子、セドリックの領地へと遊びに来ていた。

 この時のロキは未だ誰にも素性はバラしてはいなかった。自分でさえもついこの間知ったようなものなのだ。だから、自分の父親が皇帝であるなど、誰も想像していなかっただろう。
 幼い時から将来皇帝の影として活躍するため、影見習いをしていたロキ。ヴィクトールとセドリックの二人は、ロキを将来の影見習いとして付いてきた子供程度にしか認識していなかったのだ。

 そんな、誰にも認知される事の無く、皇国では珍しい半獣人として蔑まれていたロキはこのラズベル侯爵家の庭園で人生で初めて、運命と思う女性にあった。
 朝の鍛錬を終え、一旦休憩という指示がでたのでふらっと庭園を散策していたロキは、庭園のガゼボの椅子に腰かけていた少女に目を奪われた。
 
 遠目からでもわかる、輝くようなオーラ。少し近づけば、白銀の美しい髪を靡かせて、自分より少し幼さのある少女が分厚い本を読んでいて。ラベンダー色の瞳をキラキラと輝かせながら一生懸命頁をめくるその少女に、一目見た瞬間から胸を鷲掴みにされた。

「······妖精?」

 ロキは思わず出ていた声を押し戻すように手を口にあてる。
 その言葉が聞こえたのか、ふわりと髪が靡き、彼女が振り返って、ロキの心臓が止まった。
 いや、止まったかのような気がした。

「あら?そんなところでどうしたの?まいご?」

 驚いた表情の彼女の目は大きく見開かれて、そのラベンダー色の宝石のような瞳が零れ落ちそうでロキは心配になる。

「······」
「あなたも本を、読みたいの?いいわよ、一緒に読みましょう?」

 ”本当は知らない人と話したり、友達になっちゃだめってお兄さまから言われているんだけど······ね?”
 そう言って、人差し指を唇に当ててふふふと微笑んだ彼女に、ロキは絶句した。

 こんなに美しい存在を自分は知らない。ずっと中途半端な半獣人と蔑まれ生きてきた自分はこんなに純粋で周りを浄化させてくれるような存在は······無縁だったから。

······?」

 他人とのヒミツなど、父である現皇帝に知られたら怒られて殺されはしないだろうか?
 これは今後、自分の主となる皇太子ヴィクトールにも言ってはいけないものなんだろうか?

 そんなどうでもいい内容が頭の中をぐるぐると周り、答えをなかなか出せずにいたロキはじっと地面を見つめた。

「ほら、早くして?ねこの男の子」
「······はぁっ?オレ、猫なんかじゃねえ!」

 猫、と言われロキは咄嗟に顔をあげる。

『なんだ、こいつ!オレは狼なのに、よりによってあんな、動くモノを追ってばかりいる”猫”だなんて!』

「ねこちゃんじゃないの?かわいいなあと思ったのに······ね、はやく座って?わたしお友達が欲しかったのよね」
「か、かわっ······・?!まあ、そこまでいうなら······仕方ないな」

 ロキは赤くなった顔を隠すようにして彼女の前に腰掛ける。ちらりと彼女を見れば、その美しさは明らかだった。
 真っ白に透き通るような肌、笑った顔は花が綻んだように可憐で、ロキの荒んだ心を清らかにしていくようだ。

「で、お名前は?」
「······は?」

「わたしのお名前は、リリアーナ。あ~なたの、、は?」

 無邪気に笑いながら、口ずさむように発せられる言葉にロキは頭を悩ませる。
 本名を名乗っていいのか?知らない相手に?これがもし罠だったら?いや、でも······敵国にいるわけではないから······。

「ほら、また難しい顔しているわ。あなた、まだ子供なのに!お兄さまはいつも、『リリアーナは子供なんだからずっと笑っていればいいんだよ』って言っていたわ?」

「······(それは少し違う意味な気もするけど)」


「難しくないでしょう?お名前は?」
「オレは······ロキ······」
「ロキ!すてきな名前ねっ!はやく言ってくれればよかった······「おい、護衛見習い!ヴィクトール殿下がお出かけになるぞ、早く来い!オマエごときに皇太子を待たせることになったらどうするんだ!」

 リリアーナの言葉は後ろから来た、ずかずかと歩いて来た護衛の男の言葉でかき消された。

「······はい」

 ロキは表情を消して直ぐに立ち上がると、目の前に座るリリアーナにぺこりと頭を下げる。中途半端な自分ごときが友人を作るなんてそんな馬鹿なことがあっていいわけがなかったんだ。オレはどうせ誰にも必要とされないのだから。
 そう思った瞬間、後ろから彼女の美しい声が響いた。

「ロキ!明日も明後日もここにいるから!また遊びましょう?わたしのねこのお友達さん!」

 ロキは振り返らなかった。歯を強く噛みしめて、ギリッと音を立てたロキは走って先輩護衛を追いかける。

「お前、そんな年でナンパしてんじゃねーよ!半獣人ごときで調子のんな、クソが」

 いつものような辛辣な言葉を浴びせられて、ロキは黙る。そうだ、これが普通なんだ。
 あんなに可愛い友達ができたなんて舞い上がってはいけない。調子に乗らないように。そう言い聞かせてロキは男の後ろを無言で追った。


 翌日、ロキが庭園にくると既に彼女がいるのが見えた。花を摘みながら、ふんふーんと鼻歌を歌う彼女の背後に近寄り、意を決して声をかける。

「リリアーナッ!」
「っひゃああ、ろ、ロキ!びっくりさせないで?そんな大きな声でなくても聞こえるわ!」

 ロキはしまった、とポリポリと顎を掻く。
 いつもの癖だ。気配を消して近づいてしまうのも、先輩に答えるように大きな声で話しかけてしまったのも。

「ご、ごめん」
「まあ、いいわ。次から気をつけてね、ねこさん?」
「っだ、だからオレは猫なんかじゃねえ。オレは狼だって」

「そうなの?あ、確かに、お兄さまが、男の子はみんなオオカミだって······確かに言っていた気がするわ」

「それは違う意味なんじゃ······それに昨日の事といいオマエの兄さんは······シスコン野郎かなんかなのか?」
「しすこん?それは分からないけど、わたしが大好きなのよ」
「そりゃあ、そうだろうな」

 ロキとリリアーナは話をしながら、花を摘んでいく。
 今までまったく興味の無かった花に触れ、その儚い存在のありがたみを知るなんて。
 本当は、友達にはなれないと。ごめん。と謝ろうとしただけなのに、今日もまた彼女と話して、楽しいと思っている自分がいた。
 彼女と話しているだけで、前向きになれる。こんな自分でも幸せな将来もあるかもしれないと、そう思えるような。

 そう思わせてくれる “友達” だ······。

「······リリアーナ」

 ロキは、自室で目を閉じた。かつて自分にこんな存在がいただろうか?
 母親からも見捨てられ、誰も、いなかった自分を、一人の人間として見て、友達と言ってくれる人が。

 それからラズベル侯爵家に滞在中、毎日ロキはリリアーナと過ごす少しの時間を楽しみにしていた。
 
 それから数日経ち、ヴィクトールの護衛として彼とセドリックの後ろにぴったりと付いていたロキは、庭園に建てられた大きな温室の中で年配の女性と座って読書をしているリリアーナを遠目に見つけた。
 ピタリ、と急に立ち止まった皇太子ヴィクトールに、リリアーナに目を奪われていたロキがぶつかりそうになり寸での所でそれを回避する。
 護衛が気を逸らしていたため、護衛対象にぶつかるなど、失態だ。
 ロキが気を引き締めなおしたその時、温室の方に目を向けたヴィクトールが口を開いた。

「セドリック、あれは誰だ」
「あれ······とは?」

「温室の中、お前の祖母の隣に座っている女だ」

 ”あれ”、とヴィクトールがリリアーナのを指さしたのを見てロキの心臓が跳ねる。
 お願いだから······お願いだから。俺の女にするとか、言わないでくれ······。
 俺の友達を······取らないでくれ······。

 そんな思いでいっぱいのロキの目の前で、皮肉にもセドリックとヴィクトールは会話を続ける。

「彼女は、確か王国の、妖精姫、では?名前は確か、リリアーナ・シャルロン。私の祖母は王国の公爵家出身ですから、従姉妹ではないでしょうか?」
「何故疑問系なんだ」
「それは······私も実際に会った事はありませんので」
「なるほど」
「娶りたい、とか言わないで下さいよ。まだ彼女、十歳とかですからね?」

 ロキの心情をも代弁したセドリックのその言葉に、ヴィクトールはゆっくり頷いた。
 そして彼はロキが最も聞きたくなかった言葉を発したのだ。

「分かっている。今は、な。······だが、今は十歳でも、時期は来る。彼女がデビュタントの時には俺はまだ十分若いだろう。跡継ぎだって心配ないはずだ」


 あれから時が経ち─────


 ロキは呉服屋の個室に入っていった兄、皇帝ヴィクトールと、その妻となったリリアーナをじっと見つめた。

「””、も俺の名前も······忘れてしまっているんだろう?······リリアーナ······」

 ロキの呟いた言葉はあまりに小さく誰にも聞かれる事はない。
 だってそれは、誰にも聞かれてはいけない、ロキの大切な、リリアーナとのなのだから。

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※本小説はR18という事でリリィの設定年齢を18に引き上げました。その関係でキャラすべての年齢が引き上がっています。あまり変化はないと思いますがご承知おき下さい。
感想 3

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