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25. バロンの、神頼み
四阿でのヴィクトールに見せつけられた後、のバロン君です。
********************************
バロンは自室に戻ると、部屋の壁に手を叩きつけた。
「くそっ、くそォッ!!」
なんであんな光景を見せられなければならないのか。
バロンは先ほど見た光景を思い出した。竜王宮の四阿で交わう、皇国皇帝と、ボクの番······。
自分の番を犯されるボクの気持ちは無視かよ!
リリアーナも、なんであんなことを、番のボクの目の前で!!
けれど、何もできなかった。
あの皇帝を目の前に、手が出せなかった。
バロンは拳を握りしめて俯く。
「ボクに力があれば······」
獣は火に弱い。これは昔からの言い伝えだ。
獣人がまだこの世におらず、火を扱う事のできる人間と違い、全ての獣が火を扱うのに長けてはいなかった太古の時代。
突然生まれた火竜と、人間の間に子が出来た。
それがこのドラファルトという国の起源と言われている。
今では王族の竜人の大半は火竜で、人の形態に角を持ち、火魔法を剣に付与し戦う事もできるのだ。だから、この国の獣人族達は”火の神”を崇めている。
「火神の、力を分けてもらえれば······」
ヴォルはそのバロンの言葉に耳をぴくりと動かした。
「神殿に、行かれるのデ?」
「神に祈りを乞うというのも馬鹿らしいけど······背に腹は代えられないから」
ヴォルが静かに頷いたのを肯定と捉え、バロンはすぐに神殿へと向かう準備を始めたのだ。
◆
バロンは神殿の扉を意気揚々と開けた。
神殿にて神に祈りを捧げる為に並ぶ列は、王族の自分には関係がない。
自分は前竜王の息子。現竜王の弟、王弟なのだから。
「神に祈りを捧げに来た」
神官たちが慌ててバロンの側に駆け寄り、手でゴマをするような様子を見せた。
「おおっ、王弟殿下!よくぞこんな所までお越し下さいました。我らが火神、ザォシェン様もお喜びになるでしょう!」
「ああ。こんな下賤な所では、ボクは祈りなど捧げられない。どこか神聖な場所に連れていけ」
「はっ、勿論の事でございます。御身は崇高な竜人の王族でありますれば」
『ささ、こちらに、』と神官に誘導されるがまま、バロンはヴォルを伴って神殿の奥にある王族や高額の寄付を行う貴族達のための祈禱場に通された。
「では、こちらで」
「ああ。ヴォル、部屋の前で護衛を頼む」
「······主、ですが······」
「大丈夫だ、神殿で何かしようとする者はいないさ。罰当たりだろ」
「はい······」
ヴォルは少し考えてから諦めたように頷いた。
そしてバロンは一人個室に入り、その扉を閉める。個室の中央に祭られた祭壇の前に立ち、跪くと両腕を重ね合わせ顔を伏せた。
「火神”ザォシェン”様、ドラファルトが王族、王弟バロン・ドラファルトが参上致しました。
私は火剣フランベルジュに選ばれなかった。それは十分に承知しております」
”しかし”とバロンは静かに呟き、言葉を続ける。
「どうしても欲しいものがある。これだけは、譲れないのですッ······!番を黙って他の雄に取られて黙っているだけは······もう······嫌なんだ。
私に、ボクに、力を······その一端を······!」
リリアーナの事を考えれば、番の事を考えると、こんなにも苦しくて、せつなくて。
先程だって、目の前で番を犯されても、自分には何もできないなんて。
『ガ······ホシイ······カ』
唐突に聞こえた声のようなものに、バロンは顔を顰める。
「······え?」
周りを見渡すがそこには誰もいない。バロンは混乱した。
いやでも、今確かに声のような音がした······はず。
『ワレハ、カシン‥‥‥‥‥ザォ、シェン‥‥‥』
「っ!······火神······ザォ?」
バロンは続く言葉に気づき、直ぐに頭を床につけた。竜人族、それも王族が床にひれ伏すなど、絶対にありえない事である。
だが、本当にザォシェン······であれば、相手は神。
この世の上に成り立つとされる神々の一人、火の神だ。
「神よ!私に言葉を授けて下さるのですか?!」
『チカラガ、ホシイカ』
「っ、ほしい!欲しいっ!!」
『シンザン‥‥‥ホコラ‥‥二、イケ』
「神山······祠?」
『······』
「ッ、待って!待ってくれ!!俺の力は?強さは、どうやって」
ぷつりと切れたその言葉にバロンは焦って声を荒げた。そしてすぐにハッとして、顎に手を当てる。
「神山の祠に行けば、何かあるのか?」
バロンは祭壇に向かって深くお辞儀をすると、祈祷室の扉を勢いよく開けた。
外で待っていた神官が突然現れたバロンをギョッとしたような表情で見つめ、隣のヴォルは何事もないようにしっかりと主を見つめて起立する。
「神官、とても有意義な時間であった。礼を言う」
「い、いえ、それであれば、良かったです」
「ほら、これは謝礼だ」
無造作に袋を渡せば、神官が中身を確認してニンマリと笑みを零した。
「いつもありがとうございます」
「では、我々はこれで失礼する」
「はい。あ、フランベルジュの剣はいかがで?」
「ボクは選ばれていないから知らない。でも健在なんじゃないか?切れ味も劣らない、意思を持つ特別な聖剣······神の造りし、神剣だったか?」
「はい、······ですが、実は、もうあれは神の剣ではないのです」
苦笑いをした神官を、バロンは訝し気な表情で見つめる。
「どういうことだ?」
「ええ、火神、ザォシェンが創った剣で初代竜王に贈られたものである事は間違いないようです。
ですが、今となっては剣に意思がある。そして、今、”神”と”剣”はお互いに別々の道を進んでおられるようだ」
「なんだって?」
「はい。ですので、”剣”に選ばれ王となったのは、確かにロンファ様ですが。バロン様は”神”に愛されているのではないでしょうか?と、」
「······なんで、そう思う?」
「いえ、祈禱室から神聖な神の波動が伝わってきたもので······」
「なるほど、」
「戯言がすぎましたね。神の御加護があらんことを」
バロンは神官に返事はせず、無言で神殿を出た。
そしてヴォルにドラファルトで言い伝えられている神山、に向かうことを告げる。
斯うして、二人はすぐにその神の山として言い伝えのある神山へと向かったのである。
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