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27. 邪竜と、火神
「私はバロン。この国の王弟、バロン・ドラファルトだ。神殿で火の神ザォシェンより神託がありここにきた!」
「ほう?アレが、な。アレも焦っているのよのぉ」
ザォシェンという名前を聞くや否や、壁画の竜はそう呟く。
ギロリと視線を向けられ、バロンは背筋を正した。いくら壁画の中で、外には出てこないと分かっているとはいえ、かなりのオーラを孕んでおり、威圧感と迫力がある。
今にも壁を突き破って出てきそうだ。
火神を”アレ”と呼ぶ当たり、どうなのか?とは思うがバロンは口を噤んだ。
「それで小僧、概ね力が欲しいだなんだと騒ぎ立てここに参ったのだろう?」
「はい。私は力が欲しいのです······」
「ふむ。力を授ける事は我にとっては難しい事ではない。だが、なんの為の力か?我の要求と一致せねば渡すものも渡せぬ」
「私は······ボクは!愛する番を奪い返す力が欲しい!あの皇帝から奪い返す力がッ······」
その瞬間、祠の中がぐらりと揺れる。
いや、幻覚だ。それは邪竜の魔力が揺らぎ、そう錯覚しただけの事。
「小僧、いま、なんと?」
壁の中の邪竜から伺えるのは、興奮、喜び、激昂、苦悶その全てが入り混じったような感情。
「ツガイ?皇帝······だ、と?」
「はい。現ルドアニア皇国皇帝の妻リリアーナ様は、ボクの番なんだ。なのに、取られたんだ······。だから、彼女を奴から取り返すには。ボクには力が必要で「ハッハッハッ!!そうか!遂に、アレが我に最適な器を用意したか!!僥倖、僥倖!」
壁の中の邪竜はぐるりと部屋の回りを回り出す。喜びを表した舞の様で、バロンとヴォルはその邪竜の様子に畏怖感を覚えた。
目はその竜から一瞬たりとも離さず、バロンは彼に向かって口を開く。
「その······”アレ”というのは······神の事だよ、な?」
「ああ、ザォシェンだ。お前らが”神”と言って崇めるものだな。アレも大変な事よなあ。もう火剣にも裏切られ、あの剣は今や意思をもっているのだろう?」
クツクツと笑う邪竜を見て、バロンは頷く。
「火剣フランベルジュは······やはりもう神のものではないのか?」
「お前たちは神の世界の事を何も知らぬのだな。まあ、良い。そうだな、あの剣は持ち主であった神を見捨て、今や自分で使い手を選んでいるではないか。そう言う事だ、小僧」
バロンはハッとした。確かに、歴代の竜王は剣によって選ばれ、強大な力を手にする。
「そうか······あれは神の剣だから······だったから、神と同等の、引けを取らない力を得られるのか······」
「それはそうと、小僧。気に入った。番を取り返したいオマエの心、よく理解しておる。協力しようぞ」
「ほ、本当かっ?!」
目を輝かせたバロンの隣で、ヴォルはバロンに耳打ちをした。
「バロン様、危険でス。強い力には必ず代償が伴いまス!」
「オイ、そこの金色の。聞こえているぞ」
「ですガ······「いや、ヴォル分かっている。けど、リリアーナを手に入れられるなら良いんだ。なんだって、差し出す。番なんだ······」
それを聞いて、ニヤリと邪竜が不敵に笑う。そして、祭壇を指さした。
「良い決意だ!小僧、気に入ったぞ。その祭壇の下の魔法陣に手を翳し、魔力を通すと良い」
バロンは祭壇を横にズラす。すると下から小さな丸い蓋が出てきた。
そこに手を翳せば、赤い魔法陣が浮かび上がる。魔力を通せば直ぐにその蓋の鍵が開いた。
「水晶?」
出てきたのは白と黒の美しい二つの水晶。それを手にとって、バロンはまじまじと見つめる。
「それを飲むのだ。そして感情を高ぶらせ、魔力をこの壁にぶつけるのだ。後はワレに任せよ」
バロンは何かを考えこむように、それらをじっと見つめたまま、邪竜に向き直る。そして、静かに口を開いた。
「約束して欲しい。これで力を得れば、皇帝を倒しリリアーナを奪い返す事ができると······」
「ん?ああ、そうだ」
「ボクとボクの番。リリアーナと二人、永遠に共にできるんだな?」
「ああ、小僧の番は永遠にお前と共に生き続ける」
それを聞いて、バロンは水晶を握りしめた。『分かった』と呟き、ヴォルの制止も聞かずに口に含むと、その二つの水晶を勢いよく飲み込む。
その瞬間腹部から燃えるように熱くなり、それが体内を駆け巡る。
あまりの強烈な熱さにバロンは床に倒れ込んだ。
「ッ······うう!っぐ······アア!熱いッ」
「主ヨ!オイ、邪竜とやラ!主に何をしタ!」
「心配いるまい、直ぐに落ち着く。以前の小僧は直ぐに死んだが、コヤツは器が大きそうだ」
ハッハッハッと高らかに笑う邪竜を睨みつけ、ヴォルはバロンの横に座り込んだ。
「っ、なんだッ······これは、記憶?!リリアーナが······幼いリリアーナ。······ボクのッ」
「ああ、それは前の小僧が取ってきたものだな?どうでも良い記憶ばかり取ってきおって······アレは役立たずであったな」
「ああっ!ボクのリリアーナが、······王国の······王太子······?アイツもか、アイツも······殺してやる、ボクの番に触れたヤツはみんな······」
バロンはふらふらと立ち上がって蟀谷を抑える。
そして続いてぽつりとつぶやいたバロンの言葉に、邪竜は地を這うような怒りの声を上げた。
「あれ······この······美女は······だれ?リリアーナの、未来?「小僧ォ!ソレはお前の見るものではない。勘違いをするな、ワレは小僧に力を授けるだけ!早くこちらに来て魔力を注げ。壁からワレを解放せよ!!!」
バロンは言われた通りに壁に近づくと、手を付けた。
それとほぼ同時に、ヴォルは自分の背後、祠の入口で動いた人物の姿を捉え、声を張り上げる。
「クソッ、あの犬カ!主ヨ!皇国のイヌが追ってきているようでス。私はあの狼を仕留めてまいりまス!主は此処にてお待ち下さイ」
バロンがコクリと頷いたのを見て、ヴォルはロキを追いかけて、その祠から飛び出していった。
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