【第三章/獣人の国・邪竜と女神編】王太子に離縁されました?上等です。最強の皇帝陛下の【魔眼】と共に、世界攻略を致しますので!【R18・完結】

猫まんじゅう

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28. 邪竜と、女神



 邪竜テイロンはこの祠に長い年月封印されていた。
 そう、それはもう何百年もずっと。
 彼の心は既に邪悪な念に支配され。
 亀裂が入り過ぎた心の器は、軽く押され、奈落に落ち、粉々に砕け散った。
 もう、気づいた時には遅かったのだ。もう、元の美しい状態には戻れなかった。

◆ 

 ドラファルトはその当時も、一人の竜王が統べていた。
 そんなある日、遥か南で一つの国が誕生した。
 
 一人の人間が建国した、皇国である。

 その人間、初代皇帝の名を”レイ”。その彼が娶った三人目の妻の名を『サーシャ』といった。
 人間は脆弱。だが、皇帝レイはどんな人間とも比較できないほどに脆弱だった。
 だから、周りの国々は皇国がそう長くは持たないだろうと見ていたのだ。


 だが、彼が『サーシャ』を娶ってから、皇国の情勢は一変する。


 皇帝”レイ”は以前知られていたような強さを取り戻し、国は更に安定した。
 
 そして彼が開いた婚姻の儀にドラファルトも祝辞を述べに向かったのだ。
 当時、テイロンは竜王の二番目の息子、竜王子だった。
 隣国の事など興味のなかったテイロンは、父に連れられて訪れた皇国の婚儀にて、彼女サーシャに出会った。

 まさに、運命。
 白に近い白銀の髪に、瞳は薄紫・・・いや黄色だったか?もうそこは曖昧になってしまった。
 
 彼女を一目見た時、雷に打たれたような衝撃を受け、そして彼女を”番”だと認識した。
 ”番”は獣人にとって命と同等。生きる意味、そのものだ。

 そんな存在が自分以外の男の妻だと知って、どれだけの絶望感と失意に襲われるか。
 想像ができるだろうか?
 いや、人間如きに想像ができるはずもあるまい。


「僕が・・・分かりますか?・・・貴女の番なのですっ」

 そう告げた自分を見て、申し訳なさそうに笑った彼女の顔が今でも頭から離れない。

「申し訳ありません。私には、あまり他国の方の事は分からず・・・」


 自分を見ても、何も感じない彼女。
 皇帝の手を取って自分の目の前から。番である自分の前から去って行った彼女を見ながら、どんな気持ちでいたかなんて誰も、分からないだろう!?
 
 簡単に分かられて、堪るか!!
 
 テイロンはその時の事を思い出して、唸った。
 グォォォオオオと怒りの、哀しみの、入り混じった感情が、祠の中で雄叫びがこだまして消えていく。


 皇国の婚儀の期間で絶望に染まった自分は、精神崩壊を起こし家族に引きずられるようにしてドラファルトへ帰国。
 ずっと竜王宮の中で監禁されていた。

 そして、その後、ドラファルトで行われた兄上の即位式の為に来国した皇帝と妻『サーシャ』に再び再会。

 その時にはもう手遅れだった。精神崩壊を起こしていた自分の心はもう既に邪悪な念に支配されていた。亀裂が入り過ぎた心の器。押されて落ちたその繊細で美しかった器は、なんの抵抗もなく砕け散ったのだ。

 気付いた時には、自分は邪竜へと堕ちていた。

 そしてその邪竜へと堕ちる後押し、奈落の果へ押したのはヤツだ。
 それに加えて”記憶喰らい”という邪悪な能力を与えたのもヤツ。

 ヤツ、────火神、ザォシェン。

 そんな邪竜となった自分を、当時の竜王と皇帝”レイ”が討伐した。
 テイロンは身体を切り分けて再生できない形で祠に埋められ、封印されたのだ。
 だが、その際に皇帝の記憶を喰らった。空っぽになった器を少しでも埋めるように、皇帝の中にある『サーシャ』との記憶を全て喰らってやった。


 当時、自分を討伐し封印した竜人達が想像すらできえなかった事が二つある。
 それは、前述したとおり、テイロンの邪竜堕ちに火の神”ザォシェン”が関与していた事。
 そして、討伐直後にテイロンが魂を分離し、祠の中で生き続けていた事だ。

 魂を分離したテイロンは、何百年もの間、喰らった初代皇帝の持っていたサーシャとの記憶を大切に、それを貪るように暮らしていた。
 そんな事、誰が想像できるだろうか。

 ────否。

 封印されて、何百年が経ったある日、一人の獣人の青年が来た。
 力を欲して『神託』があったと、自分の器になるためにザォシェンにより召喚されたのだ。

 取り敢えず、と行った儀式で自分は青年の身体に憑依することに成功。
 だが、青年にはそれが限界だった。
 身体は邪竜を受け入れ、その身に宿す器としては不完全で、彼は結局命を落とした。
 たまたま青年が見つけた『サーシャ』に瓜二つのリリアーナという少女の記憶を奪ってきた。
 ただそれだけの、成果だった。

 そしてテイロンはまた、壁に囚われた。

 そんな中、来たのがバロンだったのだ。
 皮肉にも、死んだ器の青年と同じ、リリアーナという少女を”番”と認識したその可哀想な王族の竜人。

 それも、彼女リリアーナは皇帝の妻だという。
 ザォシェンが遂に完璧な器を見つけ、送ってきたのだな。とテイロンは笑ってしまう。
 
 自分も執着が酷いが、あの神も酷すぎる。
「フッ、ハハハッ!ハハハハハッ!真に僥倖よなあ!」


 今度は絶対に逃がさない。絶対にこの手で皇帝の、妻の全ての記憶をも喰らい、殺して、魂を分離し永遠に添い遂げられないようにしてやらねば。枯れることのない記憶を大切に宝物にしよう。
 リリアーナという皇帝の妻を大切に愛してやるか、記憶だけ奪って自分のためだけに生かし続けるかは、その女を見てから考えようではないか!


「小僧!早く魔力をぶつけ、我を解放せよ!!!」


 祠には竜の大きな唸り声が響き渡る。
 その日、邪竜テイロンは新しい器バロンを得て、解放された。
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