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29. 邪竜を前に、二人は
ロキとジョシュアは、ヴォルとバロンが小さな祠の中に入っていくのを確認した。
「ジョシュア、奴等入っていった。時間を計ってくれるか?長く留まる様なら、多分あそこが目的地に違いない」
「ハイ!」
「とりあえず、少し近づこう」
二人は山を登り、少し近くまで行くと、草木の生い茂る大きな岩の影に身を潜める。
「ロキさんっ、もうかなり時間が経過してます。あの祠の中に何かがあるか。それとも、何処かに繋がっているかじゃないっすか?」
「うん、そうだな。ちょっと近づこう。ここからだと見えないな」
ロキはジョシュアと共に祠の入り口に少しだけ近づく。
隣で動こうとしたジョシュアを片手で制すると、耳をピクピクと動かした。
少し風魔法を使用してやれば、人間より遥かに敏感な狼の耳を持つロキの元に、祠の中の音が届けられる。
「あれは、洞窟のようになっているんだな?」
「中に抜け道があるとか、ではないんすか?」
「ああ。違うみたいだ。それに·····おかしいな。三人·····いるのか?」
「三人、っすか?」
「·····神?邪竜?·····何の話を、しているんだ?」
ロキはジョシュアに向き直ると、徐に手を差し出す。
「ジョシュア、念話のための魔道具を貸してくれ」
ジョシュアの魔道具を奪うと、ロキは慣れた手つきで魔力調整をしていった。
ジョシュアには魔法の適性がない。そのために皇帝ヴィクトールから与えられている念話の通じる魔道具を携帯しているのだ。ロキは、自分の魔力波長との親和性を最大限まで高め、ジョシュアに返した。
「嫌な予感がする。俺が近くまで行って中の様子を探るから。情報は俺の聞こえるものはお前にも聞こえるようになっている筈だ。中にはあの金髪もいるから、作戦通りに。もしバレたら、俺は奴と対峙する。その時は·····バロンを任せたぞ」
「分かりました!」
「最悪の場合は撤退を優先だぞ、死ぬなら情報を持ってヴィクトール様に渡すのが優先だ」
「ハイっ!」
ロキはジョシュアをそこに一人残し、祠の入り口まで近付いた。
そして闇魔法を使い壁に溶け込む。
中の様子を伺って·····あまりの異様な光景にロキは息を呑んだ。
『ッ·····!』
その祠の真ん中にある祭壇の前には跪いたバロン。隣にはヴォルが立っている。
二人の目線の先、壁の中には、描かれた大きな竜がまるで生きているかのように蠢いていた。
『なんだ、あれは·····壁の絵が動いて·····いる、だと?』
そしてバロンとその動く壁画が会話を始める。ロキは集中してその情報を漏らさない様に聞き取る事に集中した。
「その祭壇の下の魔法陣に手を翳し、魔力を通すと良い」
「それを飲むのだ。そして感情を高ぶらせ、魔力をこの壁にぶつけるのだ。後はワレに任せよ」
『それ·····?バロンが持っているのは·····水晶(クリスタル)?』
「約束して欲しい、これで力を得れば、皇帝を倒しリリアーナを奪い返す事ができると。ボクとボクの番。リリアーナの二人、永遠に共にできるんだな?」
『水晶を飲んで、力を得る·····?兄上を倒して、リリアを奪う、だと?』
バロンの言葉を聞き、ロキの脳は早速、警笛を鳴らしていた。
『不味いな。何か良くない事が起きる気がする』
「ああ、小僧の番、リリアーナは永遠にお前と共に生き続ける」
その邪竜の言葉に、バロンが躊躇することなく水晶を飲み込み、ロキは目を見張る。そしてそのまま床に倒れ込んだバロンの様子を注意深く観察した。
「ッ·····うう!っぐ·····アア!熱いッ」
『これは·····!何が起きているっていうんだ!?』
ロキは、胸を押さえながら床を転げ回るバロンを見て背筋が凍った。バロンの身体がビクビクと痙攣し、明らかに普通ではなかったからだ。
「ああっ·····リリアーナの·····ボクの美しいリリアーナが、·····アイツもか、アイツも·····殺してやる、みんな·····」
バロンがふらふらと立ち上がりながら妄想を呟くような声が聞こえ、ロキは異様な状況に、これ以上の静観は危険、と判断を下す。そして、ここから撤退する準備を整えた。
だが、直後、壁画の中の竜の地を這うような怒りの声が上がり、ロキは咄嗟に身体を動かし祠から飛び出した。
それは半獣人族として、動物の持つ、本能だったのかもしれない。
一刻も早くこの状況を止めなければいけないと·····最悪、逃げなければいけないと、そう思ったのだ。
「小僧ォ!それはお前の見るものではない。勘違いをするな、ワレは小僧に力を授けるだけ!早くこちらに来て魔力を注げ。壁からワレを解放せよ!!」
竜の唸り声が轟き、祠の内部の空気が振動する。
そんな中、飛ぶように祠から出ていくロキをヴォルが振り返った。そして彼がその表情を歪め叫ぶ前に、ロキは直ぐにジョシュアに指示を出す。
今までの内容は一方的に聞こえている筈だが、要点を端的に伝え、獣人形態が自由に取れるようになるポーションの瓶を開けると一気に飲み干した。
出来るだけ遠くまでヴォルを引き付けなければ·····。
今度こそこの手であの金髪の竜人を仕留めてみせる!
その一心でロキは山を滑るように駆け降りた。
一方、ジョシュアはロキが祠から飛び出して来たのを目で捉え、その後を金髪の竜人が追っていくのを見届ける。
二人が山を下りきった事を目視で確認してから、祠の入り口に降り立って中を覗き込み·····唖然とした。何かの勘違いか、あるいは夢でも見ているのではないだろうか、と目を何度も擦る。
なにせ、そこには壁に手を翳すバロンと、壁から顔だけ突き出した巨大な禍々しい赤紫色の竜がいたのだから。
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