【第三章/獣人の国・邪竜と女神編】王太子に離縁されました?上等です。最強の皇帝陛下の【魔眼】と共に、世界攻略を致しますので!【R18・完結】

猫まんじゅう

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32. 転移した、その先で



 ヴィクトールは転移の気配を感じて席を立った。
 今までずっとロンファと談笑していた彼が、いきなり険しい表情をしたのを見て、リリアーナとロンファは言葉を噤む。

 その直後、部屋の中に魔法陣が浮かび上がり、ヴィクトールは足早に近づく。
 そこから、血塗れのジョシュアが現れて三人は息を呑んだ。

「ジョシュア!」

 ヴィクトールが直ぐにしゃがみ込んで、血だらけの身体に触れる。びくりと身体を震わせたジョシュアは、痛みに顔を歪めながら言葉を紡いだ。

「っ、ヴィクトール様······すみません······」
「少し黙れ。見せろ、」

 手早くジョシュアの防具を外し始めたヴィクトールに、ロンファも近づいて手伝っていく。
 リリアーナはその隣であまりの惨状に目を見張った。 
 ジョシュアの鍛え抜かれたその上半身には大きな爪痕が五本くっきりと付いており、それは身体の奥深くまで肉を抉り取っていたからだ。

「······っ!」
「心臓まで達していなかったのが救いだな」
「これは······竜の爪痕か······?」

 心配そうに覗き込む三人を目の前に、ジョシュアは苦し気な表情でヴィクトールを見つめた。
 そしてゆっくりと口を開く。

「へいか······これくらいは大丈夫です······。ですが、まず情報······をっ」
「ジョシュア。傷は時間をかけて治るとしても、今は出血が酷い。止血を優先にせねば「ルイネ!リューイを呼んで?」

 ロンファがヴィクトールの声を遮るように部屋の外にいるルイネにそう呼びかければ、室内の慌ただしさに気付いていたらしいルイネの返事がすぐに聞こえる。直ぐに走り去っていく気配がして、ジョシュアは再度口を開くとゆっくりと情報の共有を始めた。

「へいか······情報を早く伝えたい······。ここから北東の方向に山が······。その中腹、祠を確認。······そこにバロンとヴォルが入っていき······」

「バロンとヴォル?!あの馬鹿ッ、何をやってるんだ!」
「ロンファ。時間が惜しい。ジョシュア、続けよ」

「はい······ロキ様の情報によれば、彼らは中の壁画の巨大な邪竜と会話し、それを解放したのだとか」
「壁画の······邪竜?」
「はい······俺が見た時は、もうソイツは外に出ていて······」

「待って!まさか、封印されし邪竜の話をしているのか?!!」
「ロンファ!時間が惜しいと言っているだろう!」

 ロンファが再び声を張り上げ、ヴィクトールがそれを制した所で、扉が開く。
 そこに現れたのはリューイだった。

「ロンファお兄様、お呼びでしょうか······ッ、こ、······この状況は······?」

「リューイ!それはまたあとで詳しく話すよ。とにかく、今は彼の血を止めたいんだ。頼めるかな?皇国に行くなら、君の能力を見せておいた方が良いと思うんだけど?」
「······はい。勿論です」

 リューイがジョシュアの隣に膝まづき胸に手を当てると、彼女の周りが赤く煌めいた。
 途端、ジョシュアから流れ出ていた血が体内に押し戻されていく。流血が完全に止まって、ヴィクトールは手を離した彼女をじっと見つめた。

「血操魔法か。有能だな」
「お褒めに預かり光栄でございます。ですが、私の力ではここまでで······治癒などは出来ず、申し訳ございません」

 リューイは今だ痛々しい、抉られた傷の残るジョシュアを見て頭を下げる。

「······いえ。止血して頂けただけでも······助かりました。オレは身体だけが取り柄なんで。······血さえ止まれば、大丈夫ッす」

 ヴィクトールがその言葉に頷いて、ジョシュアに肉体治癒のポーションを渡し、先を促した。

「話を続けろ」
「はっ。その場にいたヴォルはロキ様が引き付けました。オレは祠に入って、バロンと対峙しました。バロンはその邪竜と一体化していっている様子だったのですが······もう既に手遅れでした」

「それでこの傷、か。ロンファ。邪竜とは、お前も先程言っていたが、逸話の邪竜であっているか?」
「そうでしょうね······あの邪竜は討伐されて、その祠に封印されたと聞いていました。祭るために壁画が描かれた、という話は知っていますが、それが動くなどとは······聞いたことがないです」
「魂を分離し、生き延びていたか。器になる肉体を探していたのかもしれないな」
「な······。バロンが、そんな邪悪なものにまで手を出すなんて······馬鹿なことをッ!!」

 その瞬間部屋に再び魔法陣が浮かび上がり、部屋にいる面々はそこを見つめる。
 直ぐに、ヴォルの亡骸を抱えたロキが姿を現して、ヴィクトールは胸を撫でおろした。

「ロキ······」
「陛下の御前、失礼致します。ヴォルは仕留めました······」

 ヴィクトールの前まで駆け寄り膝まづきそう告げたロキは、隣に横たわったジョシュアに視線を向けた。

「ジョシュア······やっぱり止められなかったか。陛下、聞いているかもしれないけれど、バロンは邪竜と何かを交渉している様でした。その後、”水晶”を摂取して、壁を破壊し、邪竜が解放された」
「ああ、ジョシュアにも一通りは聞いたが。そうか······バロンは一体化したのち、邪竜に堕ちたと考えているが?」
「はい、オレも残念ながら······兄上と同意見です」

 少し間があいて、ヴィクトールは徐に立ち上がる。

「分かった。俺が討伐に行こう」
「あ、兄上ッ!!危険です!であればオレも行く!!」

 ロキが大声で叫ぶのをヴィクトールは片手で制した。

「いや、お前は此処にいろ。お前に手の負える相手ではないし、足手纏いは不要だ。それよりも······リリアーナを頼む。何かあれば、彼女は必ずお前が守れ」
「······は、?」

 ロキはその言葉に唖然とする。
 自分の最も大切にしているリリアーナをそんな簡単に······!その湧き上がる不満を零しかけたロキを、ロンファの言葉が遮った。

「ヴィクトール先輩、僕も行きます!あれでも······僕の弟なのです。もう僕も竜王······これは僕の責任だ。本当は先輩に頼む事自体が間違っているのですが······まだ力を使いこなせず。ヴィクトール先輩、お力を貸して頂けますか?」

「ああ。ではすぐに支度を始めよう。話を聞く限りでは奴は俺を狙っている様だしな。早く行かなければこの宮にまで被害がでそうだ」

 立ち上がったヴィクトールに、リリアーナは思わず駆け寄る。

「ッ、ヴィクトールさま······」
「リリィ、大丈夫だ。だが、もし何かあればロキを頼れ。こう見えてもコイツはとても信頼のおける優しい奴だ。それに俺とよく似ている」

 頭を撫でながら優しく微笑んで、直ぐにロンファと部屋から出ていったヴィクトール。彼の背中を見つめ、リリアーナの瞳から涙が溢れて彼女は顔を覆った。
 そして、彼女は両手を重ね合わせて、願う。

 最愛の夫、ヴィクトール皇帝陛下が無事で戻られますように、と。
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