【第三章/獣人の国・邪竜と女神編】王太子に離縁されました?上等です。最強の皇帝陛下の【魔眼】と共に、世界攻略を致しますので!【R18・完結】

猫まんじゅう

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33. 二人の王と、邪竜



「ヴィクトール先輩、本当に良いんですか?」
「何がだ」
「もし何かあればリリアーナ様を弟のロキ君に渡すなんて言って。彼、リューイも娶るんでしょう?」

 ヴィクトールはそのロンファの疑問に『ああ、そんな事か』と相槌をうつ。
 ロンファはロキが実の弟であり、竜姫リューイは彼に娶らせる事を知っている。
 ただ、彼が知らないのは、リューイがそうまでして皇国に来たい本当の理由だ。
 だから、ロンファは皇国が何故そこまでしてリューイを必要としているかは知る所ではなかった。血操魔法が使える事も知らなかったのに······。

「俺がいなくなれば、皇帝は必然的にロキになるだろう。アイツはああ見えて義理堅い奴なんだ。リリアーナの事を絶対に悪いようには扱わない。それに、リューイ姫には相手がいるんだろう?」
「······それを知っていて······娶るのですか······?」
「ああ、俺とロキはそのつもりだ。相手を皇国に受け入れる準備も進めている」

 ロンファはヴィクトールをじっと見つめていたが、直ぐに視線を逸らした。

「そうですか。本当に、皇国は恐ろしいのか優しいのか分からないですね」
「まあ、それより。一先ず、邪竜墜ちしたお前の弟をどうにかしよう」

 ヴィクトールは装備を完璧に整えてから立ち上がった。
 ロンファもそれに続き、彼を追うように横に並び立つ。

「先輩と共に戦いができるなんて、興奮するな」
「馬鹿な事を言っている暇があったら行くぞ、」
「あ、先輩俺の翼に捕まって下さい、飛んでいきましょう」

 ミキミキと音を立ててロンファの背中から翼が生える。
 その翼にヴィクトールが手をかけたのを確認し、ロンファは窓から飛び立った。

「どうです?僕の背中」
「気持ちの悪い事を言うな。俺も飛ぶことは出来ずとも、空間移動くらいはできる」
「でも魔力温存したいでしょう?」
「まあな。だが別にお前の背中に乗りたいわけではない」

 上空から地上を見下ろしながら、ロンファはヴィクトールをちらりと見た。

「はぁ······僕だって、可愛いリリアーナ様とか、綺麗なリリアーナ様とかを乗せて、逢引きしたりする事に使いたいですよ!ヴィクトール先輩が最初なんて······なんだかなあ」
「お前なあ。本当にいつもながら、緊張感が足りないぞ」
「はーい。神山は確か······もうちょっと向こうだった気がするんだけどな······」

 眼下には山々が広がっている。小さな村のような集落が点在はしているものの、ドラファルトは基本的には川や山など自然に囲まれているのだ。

「あれではないのか?かなり歪んだ魔力を感じるが」

 目の前に一際大きく聳え立つ山が見えて、その手前少し拓けた場所に禍々しい紫色の竜が座りこんでいる。下を向いて何かを貪りつくしている竜を見て、ヴィクトールは目を細めた。

「······あれですね。歴史書で読んだものと特徴も似ている。では下降します」

 ロンファが途端、勢いよく高度を下げ、ヴィクトールは手を離すと邪竜のすぐ後方に転移する。その隣に飛んできたロンファはそんなヴィクトールに悪態をついた。

「先輩、転移使うんだったら僕の翼の、返してください!」
「お前、その言い方どうにかならないのか。それより、コイツ何しているんだ?獣人は······共喰いをするのか?」

 紫の竜は今はまだ中型程度。だがその竜は一心不乱に、地面に転がったナニカを食べて大きく成長をしていたのだ。

「いや、するわけないでしょう!そんな下賤な輩ではないですから!······きっと、辺りにいた獣人を殺して食べ、糧にしているんでしょう」
「そうか。では一気に蹴りをつけるとしよう」
「はい。では、僕から!」

 そんな竜の様子に不快さを露わにしたロンファが火剣フランベルジュを引き抜く。彼は剣に魔力を込めて竜の腹部を思い切り斬り付けた。
 ザシュッと、音がして肉が斬れ血が噴き出るが、深くはない。
 寧ろ表面の鱗が少し剥がれ、その下の皮膚に摺り傷が出来た程度のものだった。

「ッ!固いなぁ······。普通の竜人のものなんかより強度が桁違いだ」

 邪竜がロンファを振り返り、食事を止めると不愉快そうに睨みつける。その視線に怖気づくことなく、ロンファは声を張り上げた。

「バロン!馬鹿な事はやめろ!もういい加減正気に戻らないと、後戻り出来ないぞ!!」

 バロンから返事はない。だが、代わりに邪竜の低く轟くような声が聞こえた。

「ほうほう、現竜王のお出ましとはな?フランベルジュも、久しいなァ?」

 ロンファはその瞬間、より一層熱を持ち始めた火剣フランベルジュをちらりと見た。
 情報が正しければ、昔の邪竜もこのフランベルジュによって討伐されたと聞いている。
 もしかして、剣が怒っているのだろうか?とロンファは火剣フランベルジュを握りしめる。

「ハッハッハッ、どうだ?お前の、その神を裏切った気分は!ん?」

 クツクツと笑いながら、邪竜は右腕を上げるとそれをロンファに叩きつけた。
 ロンファは脚で地をけって高く跳躍し、翼を駆使して回避する。
 その隙に、開いた右腕の下に潜り込んだヴィクトールが愛剣アンブレスを引き抜いた。胸元に闇の魔剣が突き刺さり、邪竜は雄叫びを上げる。

「ッグアアアア!グォオオオ!」

 ジタバタと動く、その巨体の下敷きにならないようにヴィクトールが転移をし、ロンファの隣に並び立った彼は口を開いた。

「お前、竜形態はとれないのか?竜王ならばかなりの大きさになるんだろう?」
「竜化にはいろいろリスクがありまして······。竜形態は今は取れないと考えて頂けますか?」
「なるほどな。だが、大きくなってきている。このままではマズいな」
「はい、それにかなり硬いです」

 次の瞬間、ゴドォォンと強い衝撃が地面を走る。
 目の前を見れば、一回り大きくなった邪竜がその大きな脚で地をけると飛び立った。そして上空からロンファとヴィクトールを見下げると、勝ち誇った様な声をあげる。

「我を誰と心得る!我は、邪竜テイロン!竜王とその護衛の人間など······ッ?!」

 そう言葉を紡いだ邪竜は、ロンファの隣に立つヴィクトールを穴が開くほど見つめた。
 竜王の護衛だと認識していたその男が、違った。その男は、憎き皇帝、その人だったのだ。
 その衝撃に、段々とその瞳が見開かれ、そして顔が怒りに歪んでいく。

「ッ!オマエ!オマエが、皇帝かァァ!!オマエが······!つがいを奪った······」

 刹那、邪竜の紫色の身体が更に濃く変化し、辺りには痺気が発生し出す。
 その瞳には殺意が宿り、憤怒の念が満ち溢れていた。

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