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33. 二人の王と、邪竜
「ヴィクトール先輩、本当に良いんですか?」
「何がだ」
「もし何かあればリリアーナ様を弟のロキ君に渡すなんて言って。彼、リューイも娶るんでしょう?」
ヴィクトールはそのロンファの疑問に『ああ、そんな事か』と相槌をうつ。
ロンファはロキが実の弟であり、竜姫リューイは彼に娶らせる事を知っている。
ただ、彼が知らないのは、リューイがそうまでして皇国に来たい本当の理由だ。
だから、ロンファは皇国が何故そこまでしてリューイを必要としているかは知る所ではなかった。血操魔法が使える事も知らなかったのに······。
「俺がいなくなれば、皇帝は必然的にロキになるだろう。アイツはああ見えて義理堅い奴なんだ。リリアーナの事を絶対に悪いようには扱わない。それに、リューイ姫には相手がいるんだろう?」
「······それを知っていて······娶るのですか······?」
「ああ、俺とロキはそのつもりだ。相手を皇国に受け入れる準備も進めている」
ロンファはヴィクトールをじっと見つめていたが、直ぐに視線を逸らした。
「そうですか。本当に、皇国は恐ろしいのか優しいのか分からないですね」
「まあ、それより。一先ず、邪竜墜ちしたお前の弟をどうにかしよう」
ヴィクトールは装備を完璧に整えてから立ち上がった。
ロンファもそれに続き、彼を追うように横に並び立つ。
「先輩と共に戦いができるなんて、興奮するな」
「馬鹿な事を言っている暇があったら行くぞ、」
「あ、先輩俺の翼に捕まって下さい、飛んでいきましょう」
ミキミキと音を立ててロンファの背中から翼が生える。
その翼にヴィクトールが手をかけたのを確認し、ロンファは窓から飛び立った。
「どうです?僕の背中」
「気持ちの悪い事を言うな。俺も飛ぶことは出来ずとも、空間移動くらいはできる」
「でも魔力温存したいでしょう?」
「まあな。だが別にお前の背中に乗りたいわけではない」
上空から地上を見下ろしながら、ロンファはヴィクトールをちらりと見た。
「はぁ······僕だって、可愛いリリアーナ様とか、綺麗なリリアーナ様とかを乗せて、逢引きしたりする事に使いたいですよ!ヴィクトール先輩が最初なんて······なんだかなあ」
「お前なあ。本当にいつもながら、緊張感が足りないぞ」
「はーい。神山は確か······もうちょっと向こうだった気がするんだけどな······」
眼下には山々が広がっている。小さな村のような集落が点在はしているものの、ドラファルトは基本的には川や山など自然に囲まれているのだ。
「あれではないのか?かなり歪んだ魔力を感じるが」
目の前に一際大きく聳え立つ山が見えて、その手前少し拓けた場所に禍々しい紫色の竜が座りこんでいる。下を向いて何かを貪りつくしている竜を見て、ヴィクトールは目を細めた。
「······あれですね。歴史書で読んだものと特徴も似ている。では下降します」
ロンファが途端、勢いよく高度を下げ、ヴィクトールは手を離すと邪竜のすぐ後方に転移する。その隣に飛んできたロンファはそんなヴィクトールに悪態をついた。
「先輩、転移使うんだったら僕の翼の初めて、返してください!」
「お前、その言い方どうにかならないのか。それより、コイツ何しているんだ?獣人は······共喰いをするのか?」
紫の竜は今はまだ中型程度。だがその竜は一心不乱に、地面に転がったナニカを食べて大きく成長をしていたのだ。
「いや、するわけないでしょう!そんな下賤な輩ではないですから!······きっと、辺りにいた獣人を殺して食べ、糧にしているんでしょう」
「そうか。では一気に蹴りをつけるとしよう」
「はい。では、僕から!」
そんな竜の様子に不快さを露わにしたロンファが火剣を引き抜く。彼は剣に魔力を込めて竜の腹部を思い切り斬り付けた。
ザシュッと、音がして肉が斬れ血が噴き出るが、深くはない。
寧ろ表面の鱗が少し剥がれ、その下の皮膚に摺り傷が出来た程度のものだった。
「ッ!固いなぁ······。普通の竜人のものなんかより強度が桁違いだ」
邪竜がロンファを振り返り、食事を止めると不愉快そうに睨みつける。その視線に怖気づくことなく、ロンファは声を張り上げた。
「バロン!馬鹿な事はやめろ!もういい加減正気に戻らないと、後戻り出来ないぞ!!」
バロンから返事はない。だが、代わりに邪竜の低く轟くような声が聞こえた。
「ほうほう、現竜王のお出ましとはな?フランベルジュも、久しいなァ?」
ロンファはその瞬間、より一層熱を持ち始めた火剣をちらりと見た。
情報が正しければ、昔の邪竜もこのフランベルジュによって討伐されたと聞いている。
もしかして、剣が怒っているのだろうか?とロンファは火剣を握りしめる。
「ハッハッハッ、どうだ?お前の、その神を裏切った気分は!ん?」
クツクツと笑いながら、邪竜は右腕を上げるとそれをロンファに叩きつけた。
ロンファは脚で地をけって高く跳躍し、翼を駆使して回避する。
その隙に、開いた右腕の下に潜り込んだヴィクトールが愛剣を引き抜いた。胸元に闇の魔剣が突き刺さり、邪竜は雄叫びを上げる。
「ッグアアアア!グォオオオ!」
ジタバタと動く、その巨体の下敷きにならないようにヴィクトールが転移をし、ロンファの隣に並び立った彼は口を開いた。
「お前、竜形態はとれないのか?竜王ならばかなりの大きさになるんだろう?」
「竜化にはいろいろリスクがありまして······。竜形態は今は取れないと考えて頂けますか?」
「なるほどな。だが、大きくなってきている。このままではマズいな」
「はい、それにかなり硬いです」
次の瞬間、ゴドォォンと強い衝撃が地面を走る。
目の前を見れば、一回り大きくなった邪竜がその大きな脚で地をけると飛び立った。そして上空からロンファとヴィクトールを見下げると、勝ち誇った様な声をあげる。
「我を誰と心得る!我は、邪竜テイロン!竜王とその護衛の人間など······ッ?!」
そう言葉を紡いだ邪竜は、ロンファの隣に立つヴィクトールを穴が開くほど見つめた。
竜王の護衛だと認識していたその男が、違った。その男は、憎き皇帝、その人だったのだ。
その衝撃に、段々とその瞳が見開かれ、そして顔が怒りに歪んでいく。
「ッ!オマエ!オマエが、皇帝かァァ!!オマエが······!番を奪った······」
刹那、邪竜の紫色の身体が更に濃く変化し、辺りには痺気が発生し出す。
その瞳には殺意が宿り、憤怒の念が満ち溢れていた。
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