【第三章/獣人の国・邪竜と女神編】王太子に離縁されました?上等です。最強の皇帝陛下の【魔眼】と共に、世界攻略を致しますので!【R18・完結】

猫まんじゅう

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34. 若き王達は、互いに奮闘し



 殺気に満ちた瞳でヴィクトールを睨みつけた邪竜からは大量の痺気が発生しだす。
 そして邪竜は、禍々しい紫色の翼を大きくはためかせて空を飛び回った。

「先輩、あれは吸わないでください!あの邪竜には独自の毒を持つと言われていて、負傷すればそこから侵蝕してくるらしいので!」

 ロンファが火剣フランベルジュを一閃、頭上で飛び回る邪竜の方に向かって振り下ろす。
 ゴォォォ、と業火が一直線に放出されながら空間を裂けば、ヴィクトールとロンファの前には痺気が消滅した一本道が出来た。

「······お前、正面からだけで飛んでいるアレを仕留めろというのか?本当に······ぼうっとしてる暇があるのなら痺気をその剣で全て消せ。または、お前がその翼で飛んで、正面から攻めればいいだろう」
「ええ?ちょっと!本当に冷たいですよね、ヴィクトール先輩。『良くやった、』って褒めてくれても良いのに!」

 そのロンファの言葉に、ふっと笑ったヴィクトールは、懐から小型の筒状の魔道具を取り出した。

「ロンファ、今は飛ぶなよ。お前まで撃ち落としたくはない」
「え?」

 ロンファは目を疑った。ヴィクトールはその筒を空に向けると魔力を込める。
 ボゴーン、と音を立てて飛んでいった小さな玉は、邪竜に届く目の前で弾けると上空一面を雷魔法で覆う。ビリビリと大気が揺らぎ、邪竜はその雷の網に絡まる様にして痺れながら地面に落下した。

「······これは······竜殺しですね······」
「?まあ、それ用だからな」
「先輩ってば、転移で戦えるのに······」
「面倒な事と魔力の無駄使いはしない、と言ったろう?ほら、行くぞ」

 ロンファはヴィクトールと共に落ちてきた邪竜の元に走り寄ると、痺れて動けないその巨体の目の前に剣を突き付ける。

「バロンを。僕の弟を返せ、邪竜!」

 そのロンファの言葉に邪竜がクツクツと笑った。

「それはもう無理な話よのぉ」
「······なんだって······?」
「我らはもう運命を共にした。所謂、運命共同体だ。我も小僧も、同じ志を持つもの。アレは魂ごと我が喰らってやったのだよ。我の糧になった。なんと幸運な事よ!」
「弟を······喰った······だ、と?」

 面白そうに笑った邪竜は、次いでヴィクトールをギロリと睨みつける。

「皇帝······二度も”番”を奪うとは。それに、あの忌々しい”レイ”の魂も健在と、な······これは予想外だった」
「なんのことだ」

 ヴィクトールがその意味の分からない発言に顔を顰める。
 だが直後、邪竜の腕が静かにロンファの後方まで迫っていたのを視界に捉え、ヴィクトールは咄嗟に重力魔法を発動した。邪竜の腕を中心に漆黒の影が覆い、その速度が格段に落ちる。
 そして、転移魔法を駆使して愛剣アンブレスに闇魔法を纏わせると、その腕を斬り捨てた。

 グワァアアアア、と雄叫びをあげて痛みに後ろに下がっていく邪竜。
 斬り落とした邪竜の腕を一瞥し、ヴィクトールは茫然と立ち尽くすロンファに顔を向けた。
 弟を失った事に衝撃を受けているらしいロンファの顔は顔面蒼白で、心の抜け落ちたように”無”で立ち尽くしていた。

「ロンファ!弟を失ったその辛さは分かるが······今油断するのはマズい、」

 邪竜の身体が紫色に光り、ドクドクと身体が脈打ち始めたのを見て、ヴィクトールは立ち尽くすロンファの手を引っ張り距離を取る。

「おい!しっかりしろ、ロンファ!」
「先輩······でも、僕は弟を、殺すなんて······」
「アレはもうお前の弟ではない!来るぞ、ッ」

 邪竜はほくそ笑む。
 中々に優しい竜王。あれでは火の神剣を持っていても宝の持ち腐れだ。加えて、あんな欲に目がくらみ力を欲して絆されるような愚かな弟を哀れみ、茫然と立ち尽くすなど、なんと愚かな。
 そして、それを気に掛けて守る皇帝も、然り!

「今世を統べる王達は面白いのォッ!」

 巨体で飛び回り、後ろ脚で踏みつぶすように攻撃をする邪竜を躱しながら、ロンファを守るヴィクトール。彼はロンファを後方へ押しやると、自分だけで戦うため邪竜の方へと地をけった。
 転移魔法を駆使して邪竜の背中に回り込むと、その両翼を剣で両断する。

 「うがぁぁァァァ、」

 苦痛の声を上げながら翼を失った邪竜が地へ墜落する前に、その下で未だ茫然と立ち尽くすロンファを救出し、転移した。
 ロンファを庇いながら、転移魔法をこうも何度も使用すると魔力量の消費が激しすぎる。ヴィクトールは感じる疲労に顔を歪める。

「······ッ、やはり皇帝はいつの時代も異次元と、な。だが、優しい皇帝などと、興覚めよ」

 ハァアアァア、と邪竜が口から痺気を撒き散らし、ヴィクトールは咄嗟に闇を纏った。次いで、剣を地面に突き挿すと、周りを取り囲む濃い霧を霧散させるように魔力を放出させる。
 ヴィクトールの魔力に霧が一気に消え失せ、視界が開けた瞬間。
 背後から迫る邪竜の気配を感じ、ヴィクトールは直ぐにその大きな爪を剣で受け止めた。
 
「ッ、重いな······だが、なんとか間に合ったか」

 そう、それは攻撃を寸での所で避けることが出来たのにヴィクトールが安心した一瞬の出来事だった。
 この瞬間を待っていたかのように邪竜が微笑み。


 背後から邪竜の尻尾が一直線にヴィクトールの胸を貫いた。


「ッ······ぐ······はッ、」

 ボタボタと目の前に鮮血が垂れ、地面に血だまりができるのを視界に捉えたロンファはハッとして上を見上げる。
 そこには、苦しみに顔を歪めながら、口を開いたヴィクトールの顔があった。


「リ、リィ・・・す、ま、な、い・・・」


 彼の上半身を貫くいた邪竜の尻尾が眩い光を発し、邪竜が満足気な顔をする。

「おおおお!これは素晴らしい記憶!!絶品よのお」

 同時に、ヴィクトールは詠唱を行うと魔力を最大限まで放出した。

「【究極支配エントリヒ・ドミネート】」

 ロンファはヴィクトールの瞳が一瞬にして、真っ赤に染まるのを見た。そしてそれを見た邪竜はすぐさま尻尾を引き抜くと、距離を取るために後ろに下がる。

「今更【支配ドミネート】などと、馬鹿なことよ!我は初代皇帝とも戦っておる故、一度見た技など······ぉごッ······う、がァァアア!!」

 余裕そうに言葉を吐き捨てていた邪竜を漆黒の魔力が覆う。それは光り輝くと、邪竜の体内を蹂躙し、暫く悶絶した後、直ぐに糸切れた人形の如く地面に伏した。

 それは一瞬の出来事だった。
 邪竜と、ほぼ同時に意識を失ったヴィクトールを受け止めたロンファは、一旦彼を地面に横たえる。

「せんぱい······ッ!!ごめんなさい······!僕のせいだッ······僕がぼうっとしていたからッ!せめて、この邪竜の魂は確実に消滅させなければ······ッ」

 怒りに震える手を抑えつけながら邪竜の頭に火剣を当て魂を感知するも、既に魂は消失していた。

「······魂が消失している······?どうして······でもそんな事よりもッ!」

 ロンファは、ヴィクトールを抱えると緊急用の転移魔法を発動し竜王宮へ帰還した。

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