38 / 56
36. 貴方の為に、力を
ロキが転移から瞳を開ければ、裏で情報共有をしていたセドリックが既にヴィクトールを寝台に横たえていた。
ヴィクトールの隣にぴったりと寄り添っているリリアーナに、セドリックが魔力回復薬を渡す。
「リリアーナ様、魔力回復薬をとりあえず飲んでください」
「大丈夫······です」
「いえ、転移の指輪といえど、魔力は大分取られた筈です」
リリアーナがそれを飲み干すのを確認してから、セドリックは転移の魔法陣から出てきたリューイとロキを見て軽く頭を下げた。
「リューイ姫様、皇国宰相のセドリックと申します。以後、お見知りおきを。細かな紹介等はまた落ち着いた際にでも」
「はい、セドリック様。よろしくお願い致します」
次いでセドリックはロキを見て頭を下げた。
「ロキ様、陛下から貴方様の事は詳しく聞きました。セドリックとお呼び下さい。また、ご指示通り医師はまだ招集してはおりませんが······如何するのです?」
「この怪我は邪竜にやられたものなんだ。だから、きっと医者には直せないし、回復薬も効かない」
セドリックはヴィクトールの負傷した身体を見た。
幾多の戦場を乗り越えてきたといえ、今までみた傷とは比べ物にならない程酷い。ヴィクトールの腹部は邪竜の尻尾による不意打ちの攻撃で貫通。出血と損傷が酷く、更には毒によるものか、ドス黒い紫色に変色していた。
「なるほど。しかし、魔力回復薬は必要なようです。私は陛下の魔力回路を探知できるように繋いでいるのですが、かなりの魔力を使用していらっしゃいます。それに······魔眼を使われたのですね······?」
セドリックはヴィクトールの少し開いた目を覗き込むと、赤い瞳を確認し頷く。
「かなりの苦戦だったのでしょうか?魔眼を使用し、あまりの威力に意識を手放されたようです。まあ、勿論、この傷による出血のせいでもありますが······」
言葉を一旦区切ったセドリックは、何かを考え込む素振りを見せてからロキに視線を向けた。
「では、魔力回復液は血液を通して注入しましょうか」
「あのっ!止血は私に任せて頂けませんか?止血は、得意ですので。······それに血が止まれば、回復薬も効きやすくなりますよね?」
セドリックはリューイの言葉に大きく頷いた。
直ぐに寝台の隣に座りヴィクトールの身体に手を触れようとしたリューイを見て、ロキが慌ててそれを止める。
「リューイ姫!お伝えしておらず申し訳ない。兄上にはリリア以外は触れる事ができないんだ。誓約があって······「そ、そうなのですね。大変失礼しました。身体に触れない場合少し時間がかかりますが······魔力回復薬で補給させて頂けるのでしたら、出来ると思います」
「分かった。リューイ姫、これを使って」
ロキから回復薬を受け取ったリューイがヴィクトールの身体に手を翳す。彼女が魔法を発動していけば、流れ出ていた血液がみるみるうちに体内へと戻っていった。それを見たセドリックは、魔力回復液の血管への注入を行いながら感嘆の声を漏らす。
「なんと······血操魔法とは、また素晴らしい人材が皇国に来たものですね。ロキ様の側室になられるとか。リューイ様、今後とも皇国をよろしくお願い致しますね」
「はい······私に恩返しができれば良いのですが······」
「セドリック、その注入が終わったら、ここは一旦リューイ姫に任せよう。個人的に重要な情報を共有しなければいけない」
ロキはセドリックを部屋の中央にある椅子に誘導するとリリアーナを交えて腰を下ろした。
そしてちらりとリリアーナの様子を伺った後、その重い口を開く。
「······リリア、今は緊急だ。それに、セドリックには知っておいて頂かないと、我々は兄上に何も出来ないから······」
リリアーナはロキの言葉を聞きながら、床を見つめて黙っていた。
本当であれば、ヴィクトールとの約束では、治癒魔法の使い手である事や使用条件については公にはしない事になっている。
でも、ロキの言う通り、今は一刻を争う緊急事態。
「······」
「リリアーナ様!あれは、邪竜によるものなんだ!リューイ姫が止血を直ぐに出来ても、粉々になった骨は戻せないし、毒状態も治らない!」
「······分かっています······」
「防音魔法をかけましょう。それでしたら話して頂けますか?」
リリアーナはコクリと小さく頷く。その後、迅速に三人を取り囲む防音魔法をかけ終えたセドリックを見つめて口を開いた。
「······セドリック様。私は、治癒魔法の使い手なのです······。ロキ様には一度それを施す機会があり、止む負えず知られてしまいましたが、ヴィクトール様が口外禁止だと仰っておりましたので」
「なるほど······。ロキ様が一度死にかけた時は、そういう事でしたか」
セドリックはなんとなく状況を悟り頷いた。だが、彼は何も聞かない事にした。
自分の主であるヴィクトールが自分に言わなかったくらいなのだから、本当に知られたくなかったのだろうと推測したのだ。
「では、リリアーナ様、リューイ様の止血後に治癒を頼めますか?」
「······はい。ですが、治癒には条件がありまして······。二人にしていただくことは······可能でしょうか?」
「分かりました」
セドリックが頷いた瞬間、
ヴィクトールの横たわる寝台から、止血を行っていたリューイの大きな声が聞こえた。
「皆様っ!皇帝陛下の意識が戻りました!!」
リリアーナはその言葉に顔を上げると、足を縺れさせながら急いで彼の元へ駆け寄る。
そして最愛の夫を強く、抱きしめた。
あなたにおすすめの小説
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。