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38. 貴方を助ける、為ならば※
ロキは、無言でヴィクトールの元に近寄るセドリックとリリアーナを追いかけた。
「ちょっと待ってくれ!なんでッ······!セドリックさん!なんでそんな事が言えるんだ······」
「なんで、とは?どういう事でしょうか」
「······え?」
ロキはセドリックの感情の籠らない顔を見て愕然とした。
そして続く彼の言葉に目を見開く。
「皇帝陛下を助ける道がそれしかないのであれば、無理矢理にでも、リリアーナ様に治癒を施して頂く方法しかありませんので」
「ロキ様、大丈夫です。私なら、ヴィクトール様を救えるのであればなんでも致します。そのための、妻、ですので······」
ロキが何も言えず、茫然と立ち尽くす中、リリアーナは寝台に横たわるヴィクトールを見つめた。
未だに身体が辛いのか、顔を苦痛に歪めている。だが、リューイ姫と他愛もない話をしているヴィクトールにリリアーナは零れ落ちそうな涙を必死で堪えた。
二人の会話からは、ヴィクトールがリューイの事を忘れている様子は見られない。要するに、彼の記憶の中からリリアーナに関する事だけがぽっかりと抜けてしまっている様子だった。
あまりに辛い現実に、リリアーナは顔を背ける。そんなリリアーナを横目に、セドリックはヴィクトールに話しかけた。
「ヴィクトール様、リューイ姫のおかげで出血は収まったようですね。魔力も回復してきているようですが、身体の損傷と毒の回りが早いように見受けられます。治癒を施しても?」
「······セドリック、もう子供ではないのだ。流石に俺でもわかる。この損傷具合だと、俺の闇の治癒魔法でもかなりの時間を要するし、毒も特殊なものだろうな······」
少し身体を動かして、全身を走る痛みと身体の奥を蝕む毒にヴィクトールは顔を歪める。
「はい、ですのでリリアーナ様に治癒を施して頂きます」
「その······女が?だが、誰とも分からぬ神殿の女に俺の治癒を任せる事は出来ん。それにそれが交わいであるのであれば尚更だ」
「陛下。リリアーナ様は、神殿の巫女ではありません」
セドリックが力強くそう言うと、ヴィクトールはリリアーナを訝し気に見つめた。
「······であれば、尚更信用できんな······」
「······であれば、こちらも仕方ありません。さて、オリリアスも到着したようです、始めましょうか」
セドリックはぐったりとした様子のヴィクトールを、一人掛けのソファに座らせる。
そして、手と脚を動かないように魔力の使用できない特別性の鎖で縛り付けていった。
ヴィクトールは抵抗こそしてはいるが、その傷と毒により力を全く発揮できず、オリリアスとロキに抑えつけられ為すがままにソファに繋ぎ止められる。
「······セドリック、お前、覚えていろ?皇帝である私にこんな真似をしてただで済むと思うな」
ヴィクトールが低く牽制するようにそう言って、セドリックはそれをサラリと受け流した。
「はい。罰は私が全て受けましょう。申し訳ありませんが、こちらも着用お願い致しますね」
セドリックはヴィクトールに眼鏡を掛けさせる。
妻のセシルが筆頭になり、有事の時用に開発しておいた【支配】を発動できなくさせる眼鏡の魔道具がこんな所で役に立つとはとセドリックは溜息をつく。
そして、隣に立ち尽くすリューイに視線を向けた。
「では、リューイ様、本当に急で申し訳ありませんが、血操魔法で陛下の強制勃起をさせて下さい」
「へっ?!」
リューイは目を見開いた。確かに、血を操れるという事は男性器の勃起も可能······。
でも、彼らがしようとしている事は強姦に近い。リューイとしては助力はしたくないが、ヴィクトールの為になるなら。と、リューイはヴィクトールの身体に手を翳した。
それを見たセドリックは、周りにいる皆を見渡し、全員に治癒の開始を告げる。
「皆様、この眼鏡の効力は約半刻も持たない事覚えておいてください。リリアーナ様、治癒をお願い致します」
リリアーナがヴィクトールの下穿きに手をかけ前を緩めれば、リューイの血操術によって凛々しく勃ちあがった彼の肉棒がぶるんっと現れた。
それを手に取ると、リリアーナは慣れた手つきで舌を這わせる。
リリアーナは早々に周りの人を気にする事をやめた。性的快感を得られないと治癒の効力は下がる。だから、愛してやまないヴィクトールの······『レイ』の事だけを考えるようにする。
「······ッく!!へほりっふ!!!」
じゅぽっじゅぽっと艶やかな水音を立てて口淫を続けるリリアーナを見て、オリリアスは息を呑んだ。いつの間に、こんなに妖艶な色香漂う女性になっていたのだろう。
元々美しかったが、これは······と昂りそうな下半身を制しながら、喋れることが出来ないように口を拘束されたヴィクトールの上半身を抑え込む。
そしてロキは、そんなオリリアスの隣で頭痛と戦っていた。
何か思い出してはいけない事が脳裏に過ぎった気がしたからだ。以前、重傷を負った際にリリアーナに助けられたのは事実。ではその時の自分はどうやって治癒を施してもらったのだろうか······?
リリアーナが言った先ほどの発動条件だと······とそこまで考えて、あまりの痛みに頭を抱えて床に倒れこむ。
「ああぁぁァァ、くそ!なんでッ!何か分かりそうなのに······ッ!」
床に伏して、のたうち回るロキをセドリックは心配するも、実際、彼にも余裕がなかった。
ヴィクトールの魔眼の使用を抑え込んでいる眼鏡の効力が切れる寸前だったからだ。
「ロキ様······!皆様っ、時間がない!リリアーナ様、もう少しでこの眼鏡の効力が切れます!」
「······分かりました!」
セドリックが皆にそう告げた、次の瞬間。
ヴィクトールの怒りを孕んだ声が室内に響き、部屋に居た全員が動きを止めた。
「【支配】皆、動きを止めろ!」
ただ一人を除いて。
その支配にかからなかったのは、リリアーナ、ただ一人であった。
それは、記憶を失ったヴィクトールには全く予想していなかった事だったのである。
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