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43. ロンファ滞在、1日目
その日の夜、ロンファは王族来賓用に用意されているダイニングで、リリアーナと共に晩餐を取っていた。
「リリアーナ様、本当に晩餐を共にして下さりありがとうございます」
「ドラファルトの竜王をもてなすのも、私の仕事でございます。ですが······私でよろしかったのですか?皇帝陛下と親睦を深めるご予定などは······?」
「僕はヴィクトール先輩の一緒の晩餐より、リリアちゃんと一緒がいいなあ。それに、僕は”姫”と親睦を深めたいので」
片目を瞑り、ウインクをしながらそう言い放ったロンファにリリアーナは少し困惑した表情で笑った。
ロンファは砕けた話し方に変わると、リリアーナを”リリアちゃん”とか”姫”と呼ぶ。
普通であれば、皇帝の妻、皇后に対してそんな呼び方は不敬。だが、リリアーナには今は特に、何も言う事が出来なかった。ヴィクトールに記憶がない以上、もう皇后でいられるかもわからないのだから······。
「その、先ほどはお見苦しい所をお見せし······大変申し訳ございませんでした」
「見苦しい?そんな見苦しい事なんて、リリアちゃんにあったかな?それに僕には遠慮はしないでほしいんだ。僕はヴィクトール先輩みたいに完璧な男ではないからね」
ロンファはとても堅実で、優しい、素晴らしい人格者であるとリリアーナは知っている。
だから、彼女は首を横に振った。
「いえ、ロンファ様が優しく素晴らしい王である事をヴィクトール様からも伺っております。それに「ロンファ兄さまっ!」
突然ダイニングの扉が開き、飛び込んできたのはドラファルトの姫リューイだ。
「リューイ、僕のリリアーナ様との逢瀬に急に飛び込んでくるのはあまり関心しないよ?次はノックをしてから入ってね」
リューイはちらりとリリアーナを見ると少し頬を染めて、俯いた。
「も、申し訳ございません。皇后陛下までいらっしゃるとは聞いておらず······」
「いえ、いいのですよ。それに逢瀬などではありませんので······リューイ様も共に如何ですか?」
そのリリアーナの提案に、リューイは少し考える素振りを見せた後、首を横に振った。
「いえ、私はこれで。ですが、そうです!忘れておりました!ロンファ兄さま、明日、もしお時間あれば、私と皇国の皇都散策に行くのは如何ですか?······その際、リリアーナ様もご一緒して頂けると嬉しいのですが······!」
「お、それはいいね!うん、うん。僕に異論はないな」
「ええと、私がお二方にご紹介できることはあまりないのですが······」
「良いんだよ。皆で楽しく散策というのも、国同士の仲を見せつけるのにはいいだろう?」
「えぇ······まあそうですね······」
「では!決まりですね!嬉しいです!」
リューイは嬉しそうに笑うと、また直ぐに部屋を飛び出していった。
それを見たロンファは苦笑する。
「ごめんね······リューイはああゆう所もあるんだ。いつもはしっかりしているんだけど」
「いえ、いいのですよ。とても可愛らしい方ですね」
ロンファは紅茶を啜り、徐に立ち上がると、リリアーナの横まで来て腕を差し出した。
「ああ、嬉しいな。明日は”デート”ができるんだね?夢みたいだし、本当に皇国に来てよかったよ」
「”でーと”ですか?」
「そうそう、この国では逢瀬というべきかな?」
「お、お、逢瀬······?!」
「ほら、リリアちゃん、早く」
差し出された腕をロンファによるエスコートの申し出だと理解して、リリアーナは席を立ちあがる。彼の腕を掴もうとして、だが、その手が触れる寸前で止めた。
「ん?リリアちゃん、どうしたの?僕には触れられるよ、大丈夫、ほら」
ロンファはリリアーナの手を取って、自分の腕に絡ませるとにっこりと笑った。
「と、とても、変な気分なのです。その······どなたにも触れる事がありませんので······」
兄であるレイアードすらも触れる事ができなかったのだ。多少は孤独を感じていたのかもしれない······と、リリアーナは気不味そうに微笑んだ。
そんなリリアーナの髪をひと房掬ったロンファは軽くそこに口づけを落とす。リリアーナはあまりの急なロンファの行為に驚き硬直してしまった為、続く彼の言葉は聞こえなかった。
「大丈夫······もう誰も、君を一人にはしないからね」
◆
翌日、予定通り、リリアーナはロンファとリューイと共に皇都を散策した。
実はリリアーナも皇都散策には出かけた事がなかったのだ。王国から嫁いできた後は、儀式等で忙しかったのだから当然だろう。
それに、ヴィクトールがリリアーナを一人で皇城の外に出る事を許さなかった事が大きな理由だった。
しかし、今回のリリアーナの城外での散策についてはヴィクトールは全く関心を示していないようで。セドリックはリリアーナの予定を把握しており、それならば良いかと出てきてしまったのだ。
「ロンファ様、リューイ様、昼食も頂きましたし、もうそろそろ城に戻られますか?」
リリアーナがロンファとリューイに目を向ければ、二人は楽しそうにキャッキャとはしゃいでいた。
「ねえ、ロンファ兄さま!そういえば、最近アクアビアンの国の金で出来た腕時計の人気なお店が皇国にあるのですって!なんでも、”同じ時を刻む”とい意味が込められているとか!とても······情熱的ですよね。私はそれを、クレハに購入したいのです。リリアーナ様、帰るのは、そちらに行ってからでも良いですか?」
「勿論です」
リューイの提案に頷いて、リリアーナは二人と共に、その店の扉をくぐる。
一応、三人共変装しているのでこの国の皇后とドラファルトの王族だと気付かれる事はないだろう。リリアーナは店内を見渡した。
その店の腕時計は金色のチェーンになったものや、太い輪になったもの、形もそれぞれ美しく見ていて飽きる事はない。
リューイは店内に入るや否や、カウンターに駆け寄ると店主と話をし始めた。
「ごめんね、リューイは自由だろう?」
「いえ、とても気さくで明るく溌剌としていて羨ましいですわ」
「そう?そう言ってもらえると嬉しいけど。そうだ、僕からも何か贈らせて欲しいんだ」
「え?······いえ、私は」
「こんなに綺麗な手に何もついていないのは僕が気になるんだよね」
ロンファはリリアーナの手を取る。元々はヴィクトールから貰った婚約時の指輪等が嵌められていたのだが、ドラファルトからの転移の際に使用し、全て壊れてしまったのだ。
だから、今のリリアーナの手にはアクセサリーは何もついていなかった。
「うーん、チェーンも良いけど、それは今じゃないな。リリアーナ様はこの細い輪が似合うかな?」
ロンファはそう呟くとそれを持ってリューイと話す店主の元へ向かう。
彼の気迫に断れず、どうしたものか······、と戸惑うリリアーナの元へ二人が帰ってきたのは暫く経ってからの事だった。
その”贈り物”が、ロンファの特殊な魔法付与の掛かったモノであったなど、その時のリリアーナは知る由もなかったのである。
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