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44. ロンファ滞在、2日目
しおりを挟むセドリックは窓から庭園を眺めた。
ちょうど皇都散策から帰ってきたらしいロンファ、リリアーナ、リューイを視界に捉えるが、セドリックは何も言わずに視線を逸らす。
ヴィクトールは依然リリアーナに関しては興味がないようだったので、知らせる必要はないと判断した為だ。だが、そのセドリックの一瞬揺れた感情を機敏に見透かしたように、ヴィクトールは窓の外に目を向ける。
そして大きく息をはいた。
「はあ、ロンファは皇国にいながら外交については何もする気がないのか?俺はあいつと国に関する話すらしていないのだが?」
「本日もロンファ様はリリアーナ様と一日中共にされているようですので」
「晩餐も、か?昨日も共にしていなかったか?」
「ええ、昨日も共にされています。今日に限っては皇都の城下町散策も共にされているようですね」
淡々としたセドリックの説明に、ヴィクトールは顔を顰める。
「皇都の散策?彼女は皇后であるのに城の外などによく出かけるのか?」
「いえ、ヴィクトール様が王国からあの方を拉致してきて以来、ほぼ監禁していらっしゃったので、皇都散策はこれが初めてかと思いますが」
「お前、その言い方棘があるな」
「あまりウカウカしておりますと、皇后陛下がドラファルトに奪われてしまいます。そうなれば、皇国の未来は安泰とは言えませんので」
ガタンッと勢いよく立ち上がったヴィクトールを、セドリックはじっと見つめた。
「分かった。では、本日は俺も参加しよう」
ヴィクトールは無表情でそう言って、セドリックの前を通り過ぎる。
「はっ、お心のままに、」
深くお辞儀をしたセドリックは、彼の後を追いかけた。
◆
リリアーナはロンファと晩餐を取っていた。
「ロンファ様、やはりこちらの腕時計は、お気持ちだけに······」
バタンッと大きな音がして、勢いよく開いたダイニングの扉を見れば、そこにはヴィクトールが立っていて。リリアーナは慌てて席を立ちカーテシーを取る。
「ヴィクトール皇帝陛下の御前、失礼致します」
「あれ?先輩、急にどうしたんですか?僕、晩餐は美女と二人で食べたい派なんですけどね?」
「お前······。他国の王族が来ているというのに、こちらが何もしないわけにはいくまい?」
「いえ?だって皇后陛下が直々にお相手をしてくれているんですよ?それにしても皇国の皇帝陛下は妻にも頭を下げさせるなんて······大変だなぁ」
「ちっ、座ってくれ」
リリアーナが顔を上げて、不器用にほほ笑んだのを見て、ヴィクトールは胸が締め付けられた。
何か、自分が彼女を傷つけて取り返しのつかないような事をしている気がする。
離縁を決めるのであれば、もう彼女には会わない方がお互いに良いと分かっているのに、なぜかそうできない······。
そしてヴィクトールは、彼女の細い腕に付けられた金色の腕時計を見て目を細めた。
「······それは、なんだ?」
ヴィクトールの地を這うような声が部屋に響き渡り、ヴィクトールは自分でも驚く。
「それ、ですか?ああ、腕時計の事かな?僕が彼女にお礼をしたんです、美しいでしょう?鎖にしなかっただけ褒めて頂きたいんだけどなぁ」
ロンファのふんわりとした声にヴィクトールは彼を睨みつける。だが、彼は空気のようにそれを交わした。
美しいとは、どういう意味か。”彼女自身”という意味か、”腕時計が”という意味か。
いや、両方だろうな。とヴィクトールは苛々とする心を抑える。
そもそもこんなに苛立つ理由などはどこにもないはずなのに、何故彼女がロンファから貰った贈物を身に着けているとこんなにも心が搔き乱されるのか······。
「僕はね、ヴィクトール先輩。竜王になってから色々とできる事が増えたんですよ」
唐突に話始めたロンファを前に、ヴィクトールはその金色の腕時計を見つめながら晩餐の席に着いた。
「魔法付与······それは、火魔法か」
「ヴィクトール先輩ほど、完璧なものではないですけどね?僕も好きな女性一人は守れるくらいには強くなっているんですよ?だから、安心して僕に託してくれて良いんですけどね」
ふふふっと微笑んだロンファは、身体を前のめりにして両肘を机につく。手の上に顎を乗せてコテンっと首を傾けながら、リリアーナの一挙一動をじっと見つめた。
「リリアちゃん、本当に皇都散策デート楽しかったね?あんな素な表情見れるなんて、本当に嬉しいな」
”リリアちゃん””デート”というロンファの言葉に、一瞬片眉をピクリと動かしたヴィクトールだが、直ぐに晩餐を黙って口に運ぶ。
「······いえ、ロンファ様やリューイ姫が私を連れて行ってくれたからこそ、でした。初めてで全く案内人としてもお役に立てず······申し訳ございませんでした」
「いいえ?初めてを一緒にできた事が嬉しいんだから良いんだよ」
男にとっては好きな女の子との”初めて”の称号は名誉な事だからね!と嬉しそうに笑うロンファ。そんなロンファに苦笑しながらも愛想笑いを返すリリアーナ。
その隣、無言で、黙々と晩餐をとるヴィクトールをロンファは横目で見た。
今のヴィクトールは確かにリリアーナに興味を殆ど見せない。だが、確実に嫉妬はしているのだと確信する。
邪竜に記憶を取られているのだから、記憶としては勿論ないのだが、心のどこかでは繋がっているのだろう。
魂が彼女を自分のものだと叫んでいるのだ。
それはまるで、獣人族でいう”番”と同じ。
そう思えば、何故か悔しくて、ロンファは歯を噛みしめた。
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