47 / 56
44. ロンファ滞在、2日目
セドリックは窓から庭園を眺めた。
ちょうど皇都散策から帰ってきたらしいロンファ、リリアーナ、リューイを視界に捉えるが、セドリックは何も言わずに視線を逸らす。
ヴィクトールは依然リリアーナに関しては興味がないようだったので、知らせる必要はないと判断した為だ。だが、そのセドリックの一瞬揺れた感情を機敏に見透かしたように、ヴィクトールは窓の外に目を向ける。
そして大きく息をはいた。
「はあ、ロンファは皇国にいながら外交については何もする気がないのか?俺はあいつと国に関する話すらしていないのだが?」
「本日もロンファ様はリリアーナ様と一日中共にされているようですので」
「晩餐も、か?昨日も共にしていなかったか?」
「ええ、昨日も共にされています。今日に限っては皇都の城下町散策も共にされているようですね」
淡々としたセドリックの説明に、ヴィクトールは顔を顰める。
「皇都の散策?彼女は皇后であるのに城の外などによく出かけるのか?」
「いえ、ヴィクトール様が王国からあの方を拉致してきて以来、ほぼ監禁していらっしゃったので、皇都散策はこれが初めてかと思いますが」
「お前、その言い方棘があるな」
「あまりウカウカしておりますと、皇后陛下がドラファルトに奪われてしまいます。そうなれば、皇国の未来は安泰とは言えませんので」
ガタンッと勢いよく立ち上がったヴィクトールを、セドリックはじっと見つめた。
「分かった。では、本日は俺も参加しよう」
ヴィクトールは無表情でそう言って、セドリックの前を通り過ぎる。
「はっ、お心のままに、」
深くお辞儀をしたセドリックは、彼の後を追いかけた。
◆
リリアーナはロンファと晩餐を取っていた。
「ロンファ様、やはりこちらの腕時計は、お気持ちだけに······」
バタンッと大きな音がして、勢いよく開いたダイニングの扉を見れば、そこにはヴィクトールが立っていて。リリアーナは慌てて席を立ちカーテシーを取る。
「ヴィクトール皇帝陛下の御前、失礼致します」
「あれ?先輩、急にどうしたんですか?僕、晩餐は美女と二人で食べたい派なんですけどね?」
「お前······。他国の王族が来ているというのに、こちらが何もしないわけにはいくまい?」
「いえ?だって皇后陛下が直々にお相手をしてくれているんですよ?それにしても皇国の皇帝陛下は妻にも頭を下げさせるなんて······大変だなぁ」
「ちっ、座ってくれ」
リリアーナが顔を上げて、不器用にほほ笑んだのを見て、ヴィクトールは胸が締め付けられた。
何か、自分が彼女を傷つけて取り返しのつかないような事をしている気がする。
離縁を決めるのであれば、もう彼女には会わない方がお互いに良いと分かっているのに、なぜかそうできない······。
そしてヴィクトールは、彼女の細い腕に付けられた金色の腕時計を見て目を細めた。
「······それは、なんだ?」
ヴィクトールの地を這うような声が部屋に響き渡り、ヴィクトールは自分でも驚く。
「それ、ですか?ああ、腕時計の事かな?僕が彼女にお礼をしたんです、美しいでしょう?鎖にしなかっただけ褒めて頂きたいんだけどなぁ」
ロンファのふんわりとした声にヴィクトールは彼を睨みつける。だが、彼は空気のようにそれを交わした。
美しいとは、どういう意味か。”彼女自身”という意味か、”腕時計が”という意味か。
いや、両方だろうな。とヴィクトールは苛々とする心を抑える。
そもそもこんなに苛立つ理由などはどこにもないはずなのに、何故彼女がロンファから貰った贈物を身に着けているとこんなにも心が搔き乱されるのか······。
「僕はね、ヴィクトール先輩。竜王になってから色々とできる事が増えたんですよ」
唐突に話始めたロンファを前に、ヴィクトールはその金色の腕時計を見つめながら晩餐の席に着いた。
「魔法付与······それは、火魔法か」
「ヴィクトール先輩ほど、完璧なものではないですけどね?僕も好きな女性一人は守れるくらいには強くなっているんですよ?だから、安心して僕に託してくれて良いんですけどね」
ふふふっと微笑んだロンファは、身体を前のめりにして両肘を机につく。手の上に顎を乗せてコテンっと首を傾けながら、リリアーナの一挙一動をじっと見つめた。
「リリアちゃん、本当に皇都散策デート楽しかったね?あんな素な表情見れるなんて、本当に嬉しいな」
”リリアちゃん””デート”というロンファの言葉に、一瞬片眉をピクリと動かしたヴィクトールだが、直ぐに晩餐を黙って口に運ぶ。
「······いえ、ロンファ様やリューイ姫が私を連れて行ってくれたからこそ、でした。初めてで全く案内人としてもお役に立てず······申し訳ございませんでした」
「いいえ?初めてを一緒にできた事が嬉しいんだから良いんだよ」
男にとっては好きな女の子との”初めて”の称号は名誉な事だからね!と嬉しそうに笑うロンファ。そんなロンファに苦笑しながらも愛想笑いを返すリリアーナ。
その隣、無言で、黙々と晩餐をとるヴィクトールをロンファは横目で見た。
今のヴィクトールは確かにリリアーナに興味を殆ど見せない。だが、確実に嫉妬はしているのだと確信する。
邪竜に記憶を取られているのだから、記憶としては勿論ないのだが、心のどこかでは繋がっているのだろう。
魂が彼女を自分のものだと叫んでいるのだ。
それはまるで、獣人族でいう”番”と同じ。
そう思えば、何故か悔しくて、ロンファは歯を噛みしめた。
あなたにおすすめの小説
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。