【第三章/獣人の国・邪竜と女神編】王太子に離縁されました?上等です。最強の皇帝陛下の【魔眼】と共に、世界攻略を致しますので!【R18・完結】

猫まんじゅう

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51. 交差する、記憶と過去



 ヴィクトールはリリアーナと私室に転移し、直ぐに部屋に結界を張り巡らせる。
 最悪何か問題があっても良いように、セドリックには記憶玉については念話で話しておいた。

 一段落したヴィクトールは、リリアーナと椅子に腰かけると水晶を机にのせ、黒い水晶の中をまじまじと見る。

「これを口に含めば良いのだったな」
「ヴィクトール様、お待ちください。私が先に!もし御身に何かあれば······」

 そのリリアーナの言葉を最後まで聞かず、ヴィクトールはそれを口に入れた。
 舌の上に置いた瞬間、唾液と共にその固い水晶が潰れ、中の液体が溢れ出す。
 ヴィクトールはその何かが這うような感覚に顔を歪めたが、それを全て飲み込んだ。

 うにょうにょと得体の知れない生物が身体の中を這って、それが消えたと思った瞬間、頭に稲妻が落ちたかのような衝撃が走った。そのあまりの痛みに、ヴィクトールは思わず頭を両手で抑える。

「っ······ぐ······」
「ヴィ、ヴィクトール様!!大丈夫ですか!!大変、セドリック様を」
「······ひつよう······ない······大丈夫だ······」
「ヴィクトール様ッ、」

 視界が見えない。頭が痛い、脳の中を何かに浸食されているような嫌な感覚。
 ゆっくりと、だが確実にそれが収まり、うっすらと目を開ければ、泣きそうな顔でリリアーナが自分を覗き込んでいるのが見えた。

「もう少しだ、リリィ、落ち着いてくれ······俺は大丈夫だ、から」

「······っうぅ、はぃ······」

 暫くして、頭の痛みが落ち着き、目を開けるとはっきりと視界が明瞭になりヴィクトールは胸を撫で下ろす。

「ああ、戻ったな。リリィ、」
「ヴィクトールさまっ!良かったっ······!」

 リリィ、と久しぶりに彼のみが使う愛称で呼ばれ、リリアーナはヴィクトールに抱きついた。

「全て思い出した。貴女との思い出も全て、だ」
「良かったです······ほんとうに······良かった······っ!」
「辛い想いをさせたな。本当に申し訳なかった。貴女を拒絶するなど······つい先日の俺を殺してやりたいくらいだ」

「いえ······それはもう良いのです。ヴィクトール様が無事であれば······私などは······っ」

「リリィ、気になる事があるんだ、貴女も飲んで欲しいのだが、かなりの痛みがある。俺が気を失うようにしてやろう」
「分かりました」

 リリアーナが白い水晶を口に含み、それを飲み込んだのを確認して、ヴィクトールは彼女の首筋に手刀を当てると軽く叩く。
 一瞬で力が抜け、崩れ落ちるリリアーナを抱きかかえて、椅子に座った。

 そして自分の蘇った記憶の整理をする。

 確かに全ての記憶が戻った。だが、それは自分の持つ、リリアーナの記憶だけではない。

 同時に蘇ったのは初代皇帝”レイ”の記憶。

 彼と女神、そして邪竜討伐に参加した記憶などが断片的に自分の記憶の中に紛れ込んだのだ。

「当時奪った初代皇帝や女神の記憶を、この水晶の中に隠し保管していた可能性が高いか······」

 ヴィクトールは一人推測し、頷く。

 あの邪竜はロンファの言う通り、記憶喰らいの能力を持つ個体だったのだろう。
 ヴィクトールは今更ながら、安易に行動した自分を責めた。
 記憶が返ってきたから良かったが、返らなかったら大切な物を失うはずだったのだから。

 「それにしても······初代皇帝”レイ”の最後の記憶には妻である女神『サーシャ』はいないのか?」

 彼の記憶を覗き見る限り、老化という事もあるだろうが、治癒などは何も得られないまま最期を迎えているのだ。

 そこまで考えてヴィクトールは一つの答えに行きついた。

「待てよ、奴の記憶が戻らなかったから······大切なものを失った?」

 その時、リリアーナが目を覚まし、ヴィクトールは直ぐに顔を覗きこむ。

「ヴィク······トールさま」
「リリィ、起きたか?分かるか?」

「はい······私も······思い出しました。私達、一度幼い頃会っていたのですね」

 ふふっと笑ったリリアーナがあまりにも愛おしくて、ヴィクトールは彼女を抱きしめた。

「ああ、あの時から俺は貴女に恋をしていた」

「ヴィクトールさま······私は当時幼く、ヴィクトール様と話す機会もありませんでしたので······話しかけて下さればよかったのに······」

 ヴィクトールは、リリーナを横抱きにするとその唇に口づけを落とす。

「ああ。だが、セドリックに怖がらせるなと怒られてな。だが、そうか······思い出してくれたか。本当に嬉しいな」
「あと、何故かはわかりませんが、女神『サーシャ』の記憶が少し······」

 そのリリアーナの言葉に、ヴィクトールはその推測を確信した。


「やはりか。あの邪竜は”記憶喰らい”の竜だった様だ。魂は昔討伐された、伝説の邪竜のもので間違いないだろう。だから、当時の初代皇帝と女神からも少し記憶を取っていた様だ。あとは、理由と方法は明らかではないが、リリアーナの記憶をどこかのタイミングで喰らっていたのだろうな。
 とどのつまり、今回はバロンの肉体を器に顕現したという所だろうか」


「なるほど······それでしたら私の記憶が失われていたのも納得できますね」

「ちなみに、貴女の記憶の中で女神はどんな様子なのだ?」

「彼女は······皇帝を最期まで愛していたようです······でも、彼女の傍に皇帝はいらっしゃいませんでした。どこか暗い場所で······一人、辛そうに、涙を流されていて······」

「そうか、辛い事を思い出させたな」

 ヴィクトールは強くリリアーナを抱きしめる。
 そして頭の中では、こう結論づけた。

 初代皇帝は記憶が戻らなかったから······妻『サーシャ』という、大切なものを失っていたのではないか······、と。

 女神は皇帝に忘れられた後、もしかしたら神殿に利用されたのかもしれない。
 リリアーナと同じ能力であれば、それも納得できるだろう。こんな強力な能力、使いたい人間は山ほどいるのだから。

 女神の能力に関する詳細が何も残されていないことも、隠蔽したと考えるのが妥当かもしれない。

 自分は何を犠牲にしても、リリアーナを絶対に守らなければならない。

 この時、ヴィクトールは心にそう誓った。
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