【第二章/皇国・慣らし五夜編】王太子に離縁されました?上等です。最強の皇帝陛下の【魔眼】と共に、世界攻略を致しますので!【R18・完結】

猫まんじゅう

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12. 口は、禍の門

この回からリリアーナがどんどん堕ちていきます。ジェットコースターに乗っている気分でお愉しみ下さい。ずっと堕ちる事はありません、引き上げますのでご了承ください。

*****************************



 セシルはすれ違ったご令嬢の肩にぶつかり、重心を崩し尻もちをついた。
 見上げれば、肩を押さえながらむっとした不機嫌な表情を浮かべる貴族のご令嬢が目に入り、セシルは慌てて頭を下げて謝罪をする。


「──────っ、申し訳ございませんっ!」

「ちょっとっ、危ないわね! 痛あ、ってあれ······?
 その耳······『貴女、ドラファルトからの使者の方?』」


 後ろから慌てて謝罪をするセシルの声が聞こえ、リリアーナが振り返ると、茶色のツインテールの髪を靡かせた年若いご令嬢が地面に座りこんだセシルに獣人語で質問を投げ掛けていた所だった。
 だが、セシルはその発せられた言語が全く分からない様子で困惑の表情を浮かべる。


「え、ええと・・・、」

「あら。貴女、獣人族の言語が分からないの?」
「獣人なのに獣人族の言葉が分からないなんて······よっぽどですわねっ、教育がないのかしら」
「やはり、流石はマリア様ですわっ!!」


 困った顔をしたセシルを馬鹿にしたようにご令嬢たちは彼女を囲み声をあげて蔑む様に笑った。
 セシルは幼い頃に獣人の住む国、ドラファルトから逃げて皇国までやってきた。 そのため獣人族の言葉は殆ど何も覚えていない。 そのため、獣人族の言語で話しかけられているとは認識できなかったのだ。


 だが、リリア―ナは逆であった。
 理由は不明だが全て同じ言語に聞こえている様に理解ができたのだ。 この世界には共通言語があり、全ての国でその言語が話されているが、獣人族等の特殊な国では独自の言語も使用されている。

 それについては皇后になるための教育の一貫で最近知ったのだが、言語に関しては自然と理解できるリリアーナには習得不要だった。


「セシル様、大丈夫?」


 リリアーナは直ぐにセシルの元へ駆け寄ると手を差し伸べる。 そして目の前のツインテールの令嬢は突然現れたリリアーナを見て硬直した。

「・・・リ、リリアーナ様?」

 驚きに声を漏らしたその令嬢の顔を見て、リリアーナは記憶を呼び起こした。

 (彼女は確か、ベルリアーノ伯爵のマリア嬢······。
 皇国の伯爵領の晩餐で顔を合わせ、普段は伯爵領にいると言っていた気がするのだけれど、どうして皇城にいるのかしら?)

 そんなマリアの口から漏れ出た“リリアーナ”という名前に、取り巻きのご令嬢達は慌てて礼を取る。


「「皇帝陛下の御婚約者様に、ご挨拶申し上げます。」」


 彼女達には貴族令嬢としてのマナー教育がしっかりと為されているのだろう。
 二人の令嬢は『未来の皇后であられる御方の御名前を気安く呼んでは不味いわよ!』とマリアに進言するも、彼女は気にする様子もなく取巻きの令嬢達を一瞥した。


「でも、リリアーナ様は王国の王太子妃だったのを離縁された挙句、爵位も取られているんですよねぇ。 私達よりも位は下、ですわッ。それに名前しか無いのですから······仕方ないでしょうっ?」


 くるくると髪の毛を弄りながら、鼻高々に言い放つマリアはリリアーナを睥睨する。
 確かにリリアーナは離縁されて王太子妃を退いた。奪爵もされていると思っていたのだが、あの後ヴィクトールがそれを取り消したらしいのだ。
 要するに、リリアーナは未だ王国のシャルロン公爵家のご令嬢であるという事になる。


 いずれにせよ、どうゆう思考回路でそういった考えになるのか分からないが······、とリリアーナは満面の笑みで彼女達に微笑みかけた。


「皆様、ごきげんよう。 マリア嬢もお久しぶりですね?お元気そうでなによりです。 伯爵領から出てきて、皇城にいらっしゃっていたとは思いませんでした。 ······そうですね。確かにマリア嬢の仰る通り、私は王国で離縁されて此方に参りましたが。
 一つ訂正しておくと、まだ私、奪爵されていないのです。ですから今はまだ公爵令嬢ですのよ?」

 そう言い終えたリリアーナはセシルを支えながら彼女に怪我がないか念入りに確認する。

「セシュ、痛かったでしょう? 直ぐに処置しましょう? 歩けるかしら?」


 目の前の自分には目もくれず、セシルの心配をし始めたリリアーナに苛立ちが募ったマリアはそんな彼女(リリアーナ)を挑発するための一言を放った。


「へぇ~、まだ公爵令嬢だったんですね? でも、今は後宮に閉じ込められているだけのただのお飾り姫ではないんですか? 私は、そんな飾りの人形とは違うのですわ! ヴィクトール陛下に個人的に呼ばれて、必要とされて、この皇城に滞在しているんですからっ」


 勝ち誇った様に胸を張ったマリアから発せられたその一言に取巻の令嬢達からキャアキャアと黄色い声が上がる。


「っ! まあ! やっぱり、実習の話は本当だったのですね!」
「では、マリア様はやはり”皇妃候補実習”のためにきているのですね?」


 その瞬間、リリアーナの心を黒い感情が覆う。


 ”皇妃候補実習”
 皇国に来る間にも何度か聞き、自分の心をゆっくりと締め殺すように蝕んでいくその単語にリリアーナはうんざりした。

 皇妃、所謂側室の候補者を選定して、リリアーナが皇后となり後宮が解放された際にそこに入居する事を目的としているらしいそれは、ヴィクトールの怒りを買い中止されたと聞いていたのだが。

 『側室を娶ろうとは今は思っていない』と言っていた彼(ヴィクトール)の気持ちは勿論信じたいが、伯爵領にいるはずのマリア嬢がこうして自分の目の前にいて、こんな形で若く可愛らしい令嬢達に煽られてしまってはその確固たる気持ちも儚く崩れ去っていく。


 【彼(ヴィクトール)は皇帝なのだから側室をとるべきなのだ】
 と皇国のためを考えている自分と、
 【彼(ヴィクトール)を誰にも取られたくない】
 という私欲に塗れた我儘な自分が、鬩ぎあっているために抱かれた邪念であるという事は十分に理解している。


 我儘な自分を抑えつければ、こんな言葉一つで奈落の底に突き落とされたような気分を味わう事もないのだろう。


「───・・・っ、ええ! 候補者に選ばれて此処にいるのですわッ!」

「まあ! 凄い! さすが、優秀なマリア様だから、陛下もお選びになったのでしょうね」
「私もお父さまに打診が来ていないか、もう一度聞いてみようかしら!」


 目の前で繰り広げられる令嬢達の話を右耳から左耳へと流すように聞きながら、リリアーナはその先に待つ未来を想像した。

 側室を娶るということは、彼女達とも閨を共にするのだろう。 そう考えて、胸の奥底をぐちゃりと握りつぶされるような気分になる。

 ヴィクトール様が他の女性と肌を重ね合わせるなんて、そんな事······。

 拳をきつく握りしめて、リリアーナはその今にも溢れ出しそうな灰黒く汚い感情に蓋をした。


 こうしてマリアがリリアーナへ見栄を張るためだけに発したその一言は、事実とは全く異なる誤った誤解を生みながら不穏な影を落としていったのである。

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