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15. ヴィクトールの不安
リチャードの羨ましそうな眼差しをひしひしと背中に感じながらシャルロッテはヴィクトールの後を追いかけた。
シャルロッテは城の地下にある、大きな魔石の目の前でじっとヴィクトールが魔力を入れていくのを観察する。やはり、強大にして底を知らない膨大な魔力量だ。
そんな中、ヴィクトールはシャルロッテに言葉を投げかける。
「シャルロッテ、リリアーナに何か変化があれば教えてくれるか?なんでも良いんだ。 他に分かりそうな者がいたら、そちらにも手回しを頼みたい」
「はい、お心のままに、」
シャルロッテは執務室で見た惨劇と、この何気ない会話を漠然と結び付けた。
リリアーナとの間に何かがあったのは明白だろう。聞くべきだろうか、いや、聞かない方が······、と考えあぐねていると魔力を入れ終わったらしいヴィクトールが振り返った。
「シャルロッテ、今から私が言う事は他言厳禁だ。 軽くだが、誓約をしよう、」
どうやらいつも無口な陛下は本日、話すことをご所望らしい。シャルロッテは心を決めて手を差し出す。
誓約魔法の中でも軽いものを交わし、ヴィクトールは自分の髪を鬱陶しそうに掻き分けると目を逸らした。そして口を開く。
「リリアーナに······『魔眼』を使ってしまったのだが、効かなかったのだ」
「はっ?」
シャルロッテは困惑した。先ず第一に、何故、ヴィクトールが『魔眼』をリリアーナに使用する必要があるのか。そして、何故、その絶対効果を発揮すると言われる『魔眼』が彼女に効かなかったのか······すべてが謎。
「彼女に”だいきらい”と言われてな。 ······拒絶されたのが気に障った。 だから、【支配】してしまえば、楽だと思ったのだが」
上手く行かなかった、と言って歩き出したヴィクトールをシャルロッテは追って部屋をでる。
『それは、最低ですね』
とは言える筈もなく彼女は押し黙った。
リリアーナが怒っているだろう事は想像に難くないし、なんなら本気で嫌いになっている可能性もある。
あの美しい、自分好みのリリアーナが独り身となるのは大歓迎だが、その所為でヴィクトールが怒りに身を任せ自爆し国自体が無くなるなど、本望ではない。
「彼女が最初に怒っていた様子だったのだが。 その理由が分からない。 探りを入れてくれるか?」
「はい······シルフィア嬢との次の面会が明後日にあるようですので、彼女にも頼んでおきます。 それから······ええと、最初に陛下が何を仰ったのか、伺ってもよろしいでしょうか······?」
「ああ、『慣らし五夜』の相手が決まったのでそれを伝えようとした。それだけだ。それも聞きたくないというから、未だに伝えられてはいないが、」
「なるほど。ちなみにどなたに?」
「オリリアス、マルクス、ジョシュア、だ」
オリリアスは分かるが、あの無口で堅物のマルクス卿と、あのニコニコした熊のようなジョシュアか······、と一瞬逸れかけた思考をシャルロッテはすぐに引き戻す。
「では、担当者の件はこちらで機会を伺ってお伝えしてもよろしいですか?」
ああ、任せる。
そう呟いてヴィクトールは他の面々の待つ執務室の扉を開けた。
そして、その日の夕方、リリアーナを訪れたシャルロッテは、彼女の怒りが本気であると知る事となる。それは機会を見計らって『慣らし五夜』の相手を伝えるなど、出来得ないものだった。
食事も殆ど取らず、湯あみ等最低限の世話以外はメイドすらも入れていない様子のリリアーナに、シャルロッテは慌てて作戦を立て直す。
この皇国が近い未来に無くなることがなく、安心して生きていく事ができるように。
その命運は彼女にかかっているのだ。
そのためには、皇帝ヴィクトールとの仲を取り持つという重大な任務を遂行しなければいけないのだから。
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