47 / 65
42. 二国の、未来は
「ほう? 今は珍しき白猫族、か? それも、その見てくれ極上よなあ! これだけの見てくれの猫が何故儂の後宮にいない?ん?」
リリアーナが席を立つと同時に、同じ机にいた竜王がセシルを見てそう発言し、セドリックはセシルの隣に立つと共に綺麗な所作で膝を付き胸の前に両手を重ね合わせた。
ドラファルトでの国王の謁見の習わしである。
「ドラファルトの竜王。お初にお目にかかります。
皇国宰相のセドリック・ラズベルと申します。こちらは我が妻でセシル・ラズベルです」
小刻みに震えるセシルの手を取りながらそう言うとニタニタと竜王は歯を出して笑った。
「ほうほう、妻とな!一匹逃げ出していたとは! もったいないことだ。そうか、そうか。どうだ、獣人はよかろう? 何匹でも飼って愛でてみると良い、」
種族ごとの雌の違いも飽きずに堪らぬ。と楽しそうに笑う竜王タオリャンの目を真っすぐ見つめ、セドリックはほほ笑み返す。
「私は他の女性を愛でる趣味はありませんので、分かりかねますが、妻は私の宝です」
「ははっ、そうかそうか。一匹美姫が逃げよったか。こんな白猫が残っていたと知っていたなら、猫族の枠はお前だったろうに。残念なことだ」
獣人族の国の竜王の後宮に召し上げられる妃は種族ごとに一人と決まっている。
暗にその事を指しているのであろうが、竜王のあまりの非礼な言動にリリアーナは押し上げる怒りを必死でこらえた。顔は多少引き攣っているだろうが、これでも淑女教育を一からやり直した身だ。表情筋に鞭打って笑顔を張り付ける。
「お前たちも我が愚息ロンファの竜王就任の即位式、来ると良い! 獣人と人族の間に子を成しやすい秘薬をやろうぞ! 種族が違えば子を成すのは難しいからなあ。雄が獣人ならまだしも、脆弱な人間であればよっぽど、な?」
少し挑発したような言い方で竜王はほほ笑んだ。それを気にせず、セドリックはセシルに愛おしそうな眼差しを向ける。
「では、そろそろ此処にて一旦下がらせて頂きましょうか? セシル、リリアーナ様を頼みましたよ、」
セドリックに促され、リリアーナとセシルは晩餐会の会場を出た。直ぐに二人の元へ駆け付けたシャルロッテとルーカスを見てセドリックは安堵の表情を浮かべる。
護衛として彼らがいればもう安心だろう。あと残る問題は此方か。とセドリックはバルコニーで次期竜王ロンファと酒を酌み交わすヴィクトールを見た。
「ヴィクトール先輩、本当にお久しぶりです」
「ああ、学園以来か」
「はい。先輩の代に入学は出来ませんでしたが、ああして同じ期間に学園に通えた事、本当に嬉しく思いますよ」
「そうだな、」
見目麗しいロンファは火魔法に特化した男だ。加えて、竜人族という種族上、体力も群を抜いている。
そして彼は父親と違い素行も品も良く、なによりヴィクトールを慕っていた。ヴィクトールにとっては学園でもよく面倒を見ていた、弟のような存在である。
「お前も次期竜王に決まったのか。災難な事だな、」
「そうですね。でもこれで、皇国と絆を強くしていけば我が国は安泰ですからね」
にっこりと笑って言うロンファを見てヴィクトールはため息をついた。
ドラファルトとは、建国当初からつかず離れずの関係をとっている。常に力を欲する傾向のあるドラファルトは何かと油断はできないのだが······。
とはいえ、ロンファが国王になれば、手を取り合える日がくるのかもしれないな。とヴィクトールは無言で庭園を見下ろす。
そんなヴィクトールに、ロンファは思い出したように声をかけた。
「そうだ、これは余談なんですが。弟バロンには気を付けて下さい。僕も何度か狙われていて、少し過激思考なんです。思い込みが激しいというか······」
血の繋がった弟ながら本当に困ったものです。と苦笑しながらロンファは酒を啜った。そしてもう一つ気になっていた事を口にする。
「それに、リリアーナ様ですが······、」
”リリアーナ”という名前を聞き、ぴくりと眉を動かしたヴィクトールを見てロンファは内心驚く。
いつも冷静沈着であまり他人には干渉せず興味も示さないヴィクトールが、たった一人の女性に興味を示すなんて。
「番波長のフェロモンを出しやすいみたいです。
獣人の雄に狙われやすい体質だなぁと、そう、思いました。いや、僕はそんな意思は······ありませんよ?っ、」
途中から殺気が漏れ始めたヴィクトールにロンファは両手を上げながら降参のポーズをとる。
確かにリリアーナは美しく、自分好みの匂いを放っている。獣人の雄であれば、誰でもあの美しい項に齧り付いて自分の証をつけ自分の匂いで塗りたくりたいと思うだろうが······。
「本当だろうな?お前、俺の妻に手を出してみろ、ただでは済まさん。まあ、手を触れる事もできないだろうがな。諦めるんだな、」
誓約魔法の施されている事を知らないロンファにはその言葉の意味は分からなかったが、彼は直ぐに頷いてヴィクトールに微笑んだ。
「ですが、此の度は本当に、おめでとうございます。ヴィクトール先輩、」
あなたにおすすめの小説
ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。
言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。
喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。
12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。
====
●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。
前作では、二人との出会い~同居を描いています。
順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。
※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
あっ、追放されちゃった…。
satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。
母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。
ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。
そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。
精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。
好きな人が嬢を身請けするのが辛くて逃げたら捕まりました~黒服の私は執着騎士に囲われる~
こじまき
恋愛
騎士が集う高級酒場「夜香楼」で女性黒服として働くソフィアは、客である寡黙な騎士ゼインに恋していた。けれど彼が指名するのはいつも人気花嬢イサナで、身請けも近いと予想されていた。
ソフィアは、叶わない想いにと嫉妬に耐えきれず、衝動的に店を去る。
もう二度と会うことはないはずだったのに、身請けした嬢と幸せに暮らしているはずの彼が追ってきて――
「お前への愛は焼き印のように刻まれていて、もう消えない」
――失恋したと思い込んで逃げた黒服が、執着系騎士様に捕まって囲われる話。
※小説家になろうにも投稿しています
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。