【第二章/皇国・慣らし五夜編】王太子に離縁されました?上等です。最強の皇帝陛下の【魔眼】と共に、世界攻略を致しますので!【R18・完結】

猫まんじゅう

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50. マルクスの、怒り



 マルクスは完全に腰の抜けて動くことの出来ないマリアを引きずるようにしてヴィクトールの寝室を出ると、廊下へと向かう。
 彼は先ほどのヴィクトールからの叱責の言葉を思い出して悪態をついた。


「クソッ······!」

「マルクス坊ちゃま、なにが······」


 廊下にでれば、部屋の目の前で待っていたらしい公爵家の執事が心配そうに駆け寄る。
 そんな執事を睨みつけると、マルクスは直ぐにベルリアーノ伯爵に連絡をとるように指示を出して彼女を押し付けた。

 彼は薄い夜着に厚手のローブを羽織っただけのその少女を見て一瞬驚きに目を見張ったが、黙ったまま彼女を支える。
 そして、自分の上着を脱いで、彼女の露出している部分を隠す様にしてから、無言で廊下を突き進むマルクスを追いかけた。



 マルクスは自身の執務室へ入るや否や部屋にあった家具を蹴りつける。



「ったく、何てことしやがんだ、あのくそガキがッ!!」


 少しして、執事とマリアが入室してくると、マルクスは椅子に座り黙り込んだ。
 目の前で頭を抱えたまま動かない従兄弟マルクスを見てマリアは居ても立っても居られず、口を開く。


「······マルクス兄さま、この度は本当に「オマエさあ、自分のやった事がどーゆー事か分かってんのか?」」


 マルクスの冷たい瞳がマリアを捉え、彼女は身体を震わせた。


「っ······はい······」

「オレ達は外交関係を皇帝から直々に任されている家なんだぞ?で、婚儀の直後にドラファルトに協力して皇后を他国の男の元に送り込む?
 オマエ、頭イカれてんじゃねーのか!?」

「ひっ······、」


 マルクスの怒りにマリアは息を呑む。
 無口で、寡黙、しかし気遣いは一流で語学も堪能な従兄弟マルクスが、その顔を歪ませて蔑むような目で自分を見ているのだ。
 そしてその口から発せられる言葉遣いはすでに公爵家のそれではない。

 部屋に立ち込める空気は重く、天候に例えるとしたら今にも雷が落ちそうな曇天である。そんな最悪な雰囲気の執務室に息を切らして入室してきたのはマリアの父ベルリアーノ伯爵だった。


「マルクスく······ん、、娘が······、「娘が、じゃないだろ?ふざけんな!!自分の娘なら教育くらいしっかりしておけッ!!」」


 そのマルクスのあまりの気迫に伯爵は咄嗟に頭を下げた。


「マルクス卿······っ、娘が何をしたかお伺いしてもよろしいですか?」


 そして、マルクスから語られるその内容に伯爵の顔面は蒼白になっていく。
 反対にマルクスは怒りが収まらず、顔を赤くして何度も机を強く叩いた。


「な、な、っなんてことを······マリアっ!なんてことをしてくれたのだ!我が家は······、ベントナー公爵家にもなんと申し訳のない事を!!」


「今回の婚儀中の責任は親父ではなくすべてオレに任されていた。で。オマエが通訳に携わりたいって言うから見習いとして来させてやったんだ、そうだよな?
 面倒事は起こすなって、再三、言ったよなあ?!」


 マルクスは苛々としながら脚を小刻みに揺らしながら、言葉を続ける。


「それが、ドラファルトに加担したと取られてもおかしくない状況。事実、加担したんだろ?
 皇后陛下の侍女はあの国の男に拉致され気を失っていたそうだしな。あのまま皇后陛下が凌辱されていたなんて事があったとしたら、公爵家諸共消されるんだぞ!!」


 いや、むしろ今この状況すらも公爵家の存続が危ういかもしれないが。とマルクスは髪を搔きむしる。


「皇妃候補実習なんてモノ、もう有り得無いって父親から聞かなかったのか?!何度言ったら「それはっ······でもっ······、」」


、じゃねえ!もうガキじゃねーんだぞ!!!遊びじゃないんだ!皇帝の物に手を出していいわけがないだろう!!」


 その言葉はマルクス自身に対してのものでもあった。しかし、やって良い事とやってはいけない事がこの世には存在するのだ。それをしっかりと分からせなければいけない。
 そしてマリアは絶対に手を出してはいけない物に手を出してしまったのだ。
 
 その気迫に圧されてマリアが泣きだし、『泣きたいのはこっちだ、』とマルクスは額に手を置いたまま目を閉じる。

 部屋の中が重々しい雰囲気に包まれて、ベルリアーノ伯爵がその沈黙を破った。



「マルクス卿、私は責任を持って中立国の代表を辞する事に致します。そして、マリアは神殿へ」

「ああ、そうなるだろうな。この馬鹿は神殿か修道院だが、最終的にはどうせ神殿になるだろ」


 『オレにはどうでもいい事だ、』とマルクスが椅子に身を預けるように凭れ掛かると、マリアが顔を上げる。その顔は真っ青で絶望感が滲み出ていた。


「し、······神殿?!いやっ、いやですっ、神殿なんてッ!!」


 伯爵領に籠っていれば良かったものを、とマルクスは横目で茫然とした彼女を見た。
 この国の貴族であれば、神殿に送られるという事がどういう意味を成すのかは明らかだ。


 巫女となり、国民のために治癒を行う。


 いや、そういえば聞こえは良いだろうが、実際はタダで身体を捧げてこの国に尽くす事になる。
 それに、神殿が後ろ暗い事をしているのだろう事は最近よく噂にもなっており、明白である。

 この際、神殿の内情をマリアに探らせるのも悪くはないだろう、とマルクスは心の中で思った。それが皇帝のためになるのであれば、罪滅ぼしにはなるかもしれない。
 それに、今回の件はマルクス自身も責任を取って、公爵位を返上する決意を固めている。


 そして、翌日の早朝、マルクス、ベルリアーノ伯爵、マリアの三人は皇帝ヴィクトールへの謝罪のための謁見の機会を得た。

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