【第二章/皇国・慣らし五夜編】王太子に離縁されました?上等です。最強の皇帝陛下の【魔眼】と共に、世界攻略を致しますので!【R18・完結】

猫まんじゅう

文字の大きさ
59 / 65

54. 皇帝の、影



 リリアーナが第三王子バロンにより拉致・監禁された翌日、既にバロンは皇国から姿を消していた。この件については朝方に、バロンが護衛と共に中立国の魔法学園に帰っていったと影から報告を受けているので何の問題もない。


 ────── 問題はないのだが。


 ヴィクトールは謁見の間にて竜王とロンファと顔を合わせていた。
 そして目の前の竜王の言い放った言葉にヴィクトールは顔を顰める。


「いま、なんと?」

「番であれば、仕様がないと言ったのだ」


 ヴィクトールが拳に力を入れたのを見て、リリアーナはそっと彼の手に触れた。
 そして、リリアーナはその二人の間に割り込む事を決める。


「王であられるお二方の発言の間に割って入る無礼、お許し下さい。ですが、私は皇国皇帝陛下の妃、皇后でございます。故に、バロン様の番であるなど、あり得ません」

「姫、「皇后だ、」」


 ヴィクトールの強い声に圧されて、竜王は言葉を選びなおすと言葉を続けた。


「皇后陛下。昨夜の息子の無礼、父親として謝罪はしよう。だが、獣人族にとって番は命と同じである。番は雄のみが認知するもので、雌は気づかぬもの。特に人族であられる貴女は分からないであろう。よって、なのだ」

『この気持ちの昂りは制御はできぬ』


 力強く、真っ直ぐに自分を見つめ、そう言い切った竜王にリリアーナは息を呑んだ。
 それでは、また同じような事になる可能性があるという事だ。不安が一気に押し寄せて、身体が小刻みに震える。
 そして、それをいち早く察したヴィクトールは彼女の手を強く握りしめた。


「竜王よ、番の重要性は認知しているつもりではある。だが、それはそれ。リリアーナは既に私の妃で皇后だ。故に貴殿の息子の番であろうとなかろうと関係はない。
 我が妻を奪い取ろうとするのであれば、それは皇国への宣戦布告と取ろう、」


 自分の所為で戦争になってしまうかもしれないという恐怖でリリアーナは頭が真っ白になり俯く。


「承知した。一先ず、ロンファの即位式までは彼奴には何も手出しはさせぬと約束しよう。即位式、ドラファルトで会える事を楽しみにしているぞ、」


 竜王は真っ赤なマントをはためかせながら立ち上がると、護衛を引き攣れて謁見の間を退出した。
 竜王の見送りをセドリックに任せ、ヴィクトールはロンファに近寄ると声をかける。


「大丈夫か、あまり気負いすぎるな」

「ヴィクトール先輩······私は、」

「大丈夫だ。お前の所為ではない。それに番の重要性はこちらも分かっているつもりだ」

「本当にッ······不甲斐なくて。僕たちは、いつも番に振り回されるから······、」

「あれは厄介だな。薬は作っているのか?」

「いえ······俺が即位すれば、直ぐに。ヴィクトール先輩も······手助けをしてくれますか?」


 ヴィクトールはロンファを見た。
 ロンファは竜人族には稀にみる真面目で真っすぐな性格をしている。
 学園時代から、番の認知をさせない薬や、発情期を抑える薬の開発をしたいと書物庫に入り浸っていたような奴だ。
 出来れば助けにはなってやりたいが······とヴィクトールは玉座に腰かけるリリアーナを見た。


「それは、即位後に奴の動きを見ながら考えよう。彼奴はあきらめないだろうしな」

「先輩、本当にごめんなさい。僕がしっかり監視して、手綱はきちんと握っておくようにします······」

「ああ。お前も、死ぬなよ?」


 ロンファは大丈夫です、と笑って手を振った。
 リリアーナにも『ごめんなさい』と謝りながら退出する彼を見てヴィクトールは息を吐き出す。

 何がどうなってあんな心の澄んだ優しい男が次期竜王になるのか。きっと国の重要機密に関わるのだろうが、解せぬ。

 ヴィクトールが心の中でそう呟いた時、影から連絡が入った。


『陛下。第三王子バロンと護衛達は無事中立国のドラファルト邸へ到着しました。ただ、』

「ただ?」

『彼の側近が一人居りませんでした。昨夜も侍女に刃物を突き付けていたかと思います、金髪の、』

「あれか」


 ヴィクトールは昨夜の個室での状況を思い出す。
 怒りであまり明瞭な記憶ではないが······確か、金髪に金色の瞳をした竜人だった。
 転移陣があの部屋に現れた瞬間から、既に距離とタイミングを完璧に計りながら戦闘態勢に入っていた奴だ。護衛というよりも、自分でいう所の“影”に近い存在で、それもかなり強いと見えた。


『あの側近だけが未だこの国に留まっているようです。どうやら、誓約魔法に気づいている様子。リリアーナ様に関する情報を聞き出そうと辺りを嗅ぎまわっています。解除方法を探っているのかと』

「ほう? 推測でも誓約魔法に辿り着いたのは褒めてやらねばならんな。だが、解除方法か」


 ふっと笑ったヴィクトールは不敵な笑みを浮かべた。
 この誓約魔法ルドランテに解除方法など、どこにもない。あったら、神殿などとうに潰しているだろう。だから、誓約魔法に関しては特段隠しているわけでもないのだ。
 解除方法があるとすれば、ただ一つだ。


 ─────自分ヴィクトールを殺すか。リリアーナを殺すか、のどちらかしかない。


『奴は私が追います。ご許可を』


 そう言った影の言葉にヴィクトールはピクリと一瞬眉を動かした。
 影の纏め役である此奴は強い。此奴が自分が追うと言っているという事の理由は一つだ。相手の竜人の強さに気づいていて、仲間を連れずに自分一人で対処しようとしている。


「危険と判断したら撤退せよ。お前が死ぬことは絶対に許さん、」

『はっ、お心のままに』


 念話が切れてヴィクトールは天井を見上げた。
 そして、その雑念を振り払うように首を振るとリリアーナの元に歩み寄る。


「ヴィクトール様、私の所為で、皆様にご迷惑を······。申し訳ございません」

「皇后となった貴女が謝る事ではない。それに、迷惑をかけているのは向こうだ。人の妻を取るなどと、」

「やはり、ヴィクトール様はお優しいですね。私も、あんな方の所になど行きたくないです」


 ヴィクトールは彼女をエスコートして謁見の間を退出した。 
 そして部屋をでた瞬間背筋がぞくぞくと粟立つのを感じる。久しぶりに嫌な予感がする。
 
 あの日のような、胸騒ぎが。

 ヴィクトールがその胸騒ぎの真相を知るのは、その日の夜更けの事だった。

感想 5

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

あっ、追放されちゃった…。

satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。 母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。 ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。 そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。 精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

藤白ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。