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56. 生死を彷徨う、狼の青年
200記念閑話の最後と繋がっています。
本日はRではないので安心してお読み頂ければと思います。
*****************************
「ロキ!!!」
ヴィクトールは寝室の扉を開けると、その惨状に目を見張る。
腹部をかなり深く抉られているのだろう、出血が酷く、床は一面の血の海と化していた。金髪の竜人との戦闘中に殺されかけたロキをジョシュアが助けてここまで連れてきた事は想像に容易い。
「ジョシュア、助かった。礼を言うぞ」
そしてヴィクトールはその流れる血を気にする事もなくロキの身体を抱えると自室の中に連れて行く。それを見たジョシュアは慌てて声をかけた。
「陛下、この感じだと、持って半刻かと思います。出血があまりにも酷すぎます。体力、魔力の回復ポーションはあっても、こんなに酷い損傷は治せませんよ。神殿の巫女でも·····無理でしょうし、一応、医者を呼びましょうか?」
「いや、いい。それとここで見たことは全て忘れろ、」
「·····はっ、お心のままに。では·····ここの掃除は、俺がしておきますね」
バタンッ、と自室の扉を閉めて、ヴィクトールは壁をおもいきり叩いた。
「ッ、クソッ!!!」
「·····もうし「それ以上話すなッ!」」
ヴィクトールは瀕死のロキをギロリと睨む。
胸騒ぎはこれだったのか、と拳に怒りを込めて壁に何度も叩きつけた。
衣服を捲りロキの傷を一目診て、ヴィクトールはそのあまりにも酷い状態に顔を歪める。骨も折れているし、内蔵も引き裂かれている。
ジョシュアの言う通り、今皇国にあるポーション等では治せない状態で、あと半刻程で息を引き取るだろう。
「·····じょう·····ほう、」
「話すな、と言っている!!情報など、後で良いッ!!」
寝室の寝台の上で座り込み息を顰めて様子を伺っていたリリアーナは、血だらけの男を抱えて部屋に戻ってきたヴィクトールに目を見張った。
「っな·······!だ、大丈夫なのですかっ?!」
「っくそ·······こんなことになるのならッ!」
何故、追いかけさせたのか。
自分のミスだ。もっと戦力を割いてロキを援護する形であの男を追わせておけば良かったのに。
そしてじっと俯いていたヴィクトールはリリアーナに向き直ると頭を下げた。
皇国のトップである皇帝陛下が頭を下げる、その行動にリリアーナは慌てて立ち上がり声を荒げる。
「ヴィクトール様っ!頭を下げるなど!お止めください!」
そしてヴィクトールはリリアーナに頭を下げたまま、衝撃的な言葉を発した。
「リリアーナ······、本当に申し訳ないと思っている。だが·······こいつに、ロキに······治癒を施してやってくれないだろうか·······っ、」
リリアーナはその言葉に一瞬頭が真っ白になる。
治癒はしたい。出来ることなら完全に治してあげたいが、自分の治癒は性的な粘液交渉を介する上に、性的興奮もその強さに関連するのだ。
ヴィクトールが頼んでいることは、すなわち、この知らない男と性的な交わりをしろということ······。
「それは·······、」
「分かっている。くそっ、分かっている、んだ。
だが、方法がない。俺の闇魔法でも治癒には代償が必要で、コイツはそれすらも払えない······」
苦し紛れに言うヴィクトールは、呼吸の浅いその男を見てポツリと呟いた。
「こいつは俺の、唯一の、血の繋がった弟なんだ」
リリアーナはそれを聞いて固まり、彼をじっと見つめた。確かに、冷たい表情のその見た目は似ているが、灰色と白の混ざったような髪に、灰色の瞳には生気がない。それに、真っ黒な大きな耳と尻尾がついている。
「ロキについての詳しい事は必ず、後で話すと約束する。一先ず、これはもう半刻も持たないだろう」
ヴィクトールは彼を寝台に横たえた。
軽めにいって、もう死んでいてもおかしくない。
深く切りつけられたそこからは、未だに血が止めどなく溢れているのだ。
そしてリリアーナは覚悟を決め、頷いた。
「あの、治癒、できるのであればさせて頂きます。
何をすればよろしいでしょうか?」
「そうだな······、口移しで貴女の唾液を摂取させよう。これくらいしか許容できるものはない、」
どこかの国で、呼吸が困難になった人の口を塞ぎ、息を吹き込む治療法があると本で読んだことがある。それを唐突に思い出して、リリアーナは大きく深呼吸をした。
ヴィクトールの実の弟という事は、この国でも王位継承権をもった崇高な方なのだ。もし自分に彼を救えなければ······、と緊張した様子のリリアーナの手を、ヴィクトールがそっと握った。
「大丈夫だ、リリィ。その前に、コイツは『魔眼』で動けないようにしておこう。その方が後々良いだろう。それに血液を媒体に誓約を一時的に緩めよう。俺の弟だからそんなに難しくはないはずだ」
ヴィクトールは魔眼を発動させて、彼の身動きを封じる。それから、リリアーナの誓約紋の上に血液を垂らし魔法を発動した。
ロキの損傷状態を知るため、ヴィクトールはそそくさと彼の服を脱がしていく。
ぐったりと裸体で横たわった血だらけの彼の隣に、リリアーナは座り込んで顔を覗き込んだ。
そして、ヴィクトールが頷いたのを合図に、彼の唇に自分のものを触れる程度に重ねあわせると唾液を流し込み始める。
ヴィクトールは、リリアーナがロキに口づけをするのを見ながら歯を食いしばった。ギシリ、と音がして一緒に噛んだらしい唇から血が垂れる。
こんな事になるのならリリアーナに魔力の調節方法を早く習わせておくんだった。そうすれば、魔力液の受け渡しの容量で身体に触れるだけで治癒ができたかもしれないのに。
いや、彼女に関しては魔法の発動条件が特殊だから、それでは駄目なのかもしれないが······。
唾液での治癒は想像通り、かなりの時間を要した。徐々に、本当にゆっくりと、傷口の大部分から出血が止まる。
止血後の治癒の進みは若干早くなり、腹部の大きな傷がうっすらと皮膚で覆われた頃 ────
──── その狼の青年、ロキは目を覚ました。
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2万突破記念のヴィクトールの助けた少年がロキです。母は狼獣人で暗殺に長けていたのでロキの能力も高めです。
あと二話で完結!
本日はRではないので安心してお読み頂ければと思います。
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「ロキ!!!」
ヴィクトールは寝室の扉を開けると、その惨状に目を見張る。
腹部をかなり深く抉られているのだろう、出血が酷く、床は一面の血の海と化していた。金髪の竜人との戦闘中に殺されかけたロキをジョシュアが助けてここまで連れてきた事は想像に容易い。
「ジョシュア、助かった。礼を言うぞ」
そしてヴィクトールはその流れる血を気にする事もなくロキの身体を抱えると自室の中に連れて行く。それを見たジョシュアは慌てて声をかけた。
「陛下、この感じだと、持って半刻かと思います。出血があまりにも酷すぎます。体力、魔力の回復ポーションはあっても、こんなに酷い損傷は治せませんよ。神殿の巫女でも·····無理でしょうし、一応、医者を呼びましょうか?」
「いや、いい。それとここで見たことは全て忘れろ、」
「·····はっ、お心のままに。では·····ここの掃除は、俺がしておきますね」
バタンッ、と自室の扉を閉めて、ヴィクトールは壁をおもいきり叩いた。
「ッ、クソッ!!!」
「·····もうし「それ以上話すなッ!」」
ヴィクトールは瀕死のロキをギロリと睨む。
胸騒ぎはこれだったのか、と拳に怒りを込めて壁に何度も叩きつけた。
衣服を捲りロキの傷を一目診て、ヴィクトールはそのあまりにも酷い状態に顔を歪める。骨も折れているし、内蔵も引き裂かれている。
ジョシュアの言う通り、今皇国にあるポーション等では治せない状態で、あと半刻程で息を引き取るだろう。
「·····じょう·····ほう、」
「話すな、と言っている!!情報など、後で良いッ!!」
寝室の寝台の上で座り込み息を顰めて様子を伺っていたリリアーナは、血だらけの男を抱えて部屋に戻ってきたヴィクトールに目を見張った。
「っな·······!だ、大丈夫なのですかっ?!」
「っくそ·······こんなことになるのならッ!」
何故、追いかけさせたのか。
自分のミスだ。もっと戦力を割いてロキを援護する形であの男を追わせておけば良かったのに。
そしてじっと俯いていたヴィクトールはリリアーナに向き直ると頭を下げた。
皇国のトップである皇帝陛下が頭を下げる、その行動にリリアーナは慌てて立ち上がり声を荒げる。
「ヴィクトール様っ!頭を下げるなど!お止めください!」
そしてヴィクトールはリリアーナに頭を下げたまま、衝撃的な言葉を発した。
「リリアーナ······、本当に申し訳ないと思っている。だが·······こいつに、ロキに······治癒を施してやってくれないだろうか·······っ、」
リリアーナはその言葉に一瞬頭が真っ白になる。
治癒はしたい。出来ることなら完全に治してあげたいが、自分の治癒は性的な粘液交渉を介する上に、性的興奮もその強さに関連するのだ。
ヴィクトールが頼んでいることは、すなわち、この知らない男と性的な交わりをしろということ······。
「それは·······、」
「分かっている。くそっ、分かっている、んだ。
だが、方法がない。俺の闇魔法でも治癒には代償が必要で、コイツはそれすらも払えない······」
苦し紛れに言うヴィクトールは、呼吸の浅いその男を見てポツリと呟いた。
「こいつは俺の、唯一の、血の繋がった弟なんだ」
リリアーナはそれを聞いて固まり、彼をじっと見つめた。確かに、冷たい表情のその見た目は似ているが、灰色と白の混ざったような髪に、灰色の瞳には生気がない。それに、真っ黒な大きな耳と尻尾がついている。
「ロキについての詳しい事は必ず、後で話すと約束する。一先ず、これはもう半刻も持たないだろう」
ヴィクトールは彼を寝台に横たえた。
軽めにいって、もう死んでいてもおかしくない。
深く切りつけられたそこからは、未だに血が止めどなく溢れているのだ。
そしてリリアーナは覚悟を決め、頷いた。
「あの、治癒、できるのであればさせて頂きます。
何をすればよろしいでしょうか?」
「そうだな······、口移しで貴女の唾液を摂取させよう。これくらいしか許容できるものはない、」
どこかの国で、呼吸が困難になった人の口を塞ぎ、息を吹き込む治療法があると本で読んだことがある。それを唐突に思い出して、リリアーナは大きく深呼吸をした。
ヴィクトールの実の弟という事は、この国でも王位継承権をもった崇高な方なのだ。もし自分に彼を救えなければ······、と緊張した様子のリリアーナの手を、ヴィクトールがそっと握った。
「大丈夫だ、リリィ。その前に、コイツは『魔眼』で動けないようにしておこう。その方が後々良いだろう。それに血液を媒体に誓約を一時的に緩めよう。俺の弟だからそんなに難しくはないはずだ」
ヴィクトールは魔眼を発動させて、彼の身動きを封じる。それから、リリアーナの誓約紋の上に血液を垂らし魔法を発動した。
ロキの損傷状態を知るため、ヴィクトールはそそくさと彼の服を脱がしていく。
ぐったりと裸体で横たわった血だらけの彼の隣に、リリアーナは座り込んで顔を覗き込んだ。
そして、ヴィクトールが頷いたのを合図に、彼の唇に自分のものを触れる程度に重ねあわせると唾液を流し込み始める。
ヴィクトールは、リリアーナがロキに口づけをするのを見ながら歯を食いしばった。ギシリ、と音がして一緒に噛んだらしい唇から血が垂れる。
こんな事になるのならリリアーナに魔力の調節方法を早く習わせておくんだった。そうすれば、魔力液の受け渡しの容量で身体に触れるだけで治癒ができたかもしれないのに。
いや、彼女に関しては魔法の発動条件が特殊だから、それでは駄目なのかもしれないが······。
唾液での治癒は想像通り、かなりの時間を要した。徐々に、本当にゆっくりと、傷口の大部分から出血が止まる。
止血後の治癒の進みは若干早くなり、腹部の大きな傷がうっすらと皮膚で覆われた頃 ────
──── その狼の青年、ロキは目を覚ました。
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2万突破記念のヴィクトールの助けた少年がロキです。母は狼獣人で暗殺に長けていたのでロキの能力も高めです。
あと二話で完結!
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