男子校的教師と生徒の恋愛事情

蒼月さわ

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幕間 想う

 一成は日本史の授業を受けながら、ちらっと窓に目をやった。金色に染まったイチョウの葉がふわりふわりと舞っている。校庭の片隅に大きなイチョウの木があるので、その葉っぱが風にさらわれてきたのだろう。秋の木枯らし。でもそんなに風は強かったかな、と首をかしげた。

「それでは、今私が説明した箇所を、もう一度教科書で確認してください」

 日本史の教師である寧々子が黒板を背にして、ゆったりとした口調で生徒たちに伝える。黒板には言葉遣い同様に、丁寧な文字がつづられてある。

 もの静かな教室には、蛍光灯の照明が窓から射し込む午前の明るさと混ざり合って、ページをめくる音だけがよく響く。一成も教科書のページを開いて、寧々子が説明した項目を目で読んでいく。入学したての頃は苦手だった日本史だが、今ではすっかり一成の得意科目になっていた。

 ――先生の教え方がうまいから。

 文章を追いながらも、頭には違うことが浮かんでいる。一成の苦手意識が克服されたのは寧々子の教え方も良かったが、二学年の日本史教師が私的に教えてくれたのが大きかった。

 ――深水先生はすごくわかりやすい。

 一成は記憶を辿って無意識に表情がゆるむ。自分が日本史の勉強をしていてわからないことがあると、榮はまるで家庭教師のように教えてくれた。君は生まれたての赤ん坊のようだと、榮からいつもの調子で日本史の知識のなさをからかわれながら。

 ――せめて小学生くらいには成長したい。

 一成は意気込む。日本史を覚えて、榮をびっくりさせたい。

 ――いつもからかわれてばかりだし。

 余裕あふれる榮の笑顔が瞼に貼りついていて、一成の頬がほんのりと熱量を持つ。

 榮に教えられ始めてから、日本史が面白くなってきた。ただの記号だった人物や出来事が、鮮やかな色彩を帯びて自分の目の前に出現したという感じ。

 ――まるで長編小説を読んでいるみたいだ。

 友人の七生ほど本好きではないが、そう感じるくらいに歴史が好きになってきたのだと、一成は自分の変化に驚きを隠せない。

 ――これも深水先生が教えてくれたからだ。

 ふいに耳が熱くなる。耳元で囁いてくる榮の息遣いが甦って、思わずこぼれ落ちそうになった声をすんでの所で呑み込んだ。

 ――なんか……いいな。

 榮と二人きりの勉強時間。耳に心地よい声。ユーモアたっぷりの言葉遣い。からかいを含んだ優しい眼差し。穏やかに見守ってくれる表情。勉強ってこんなに楽しいんだと、初めて心が湧きたった。

 ――教師かあ……

 一成は教科書のページをめくり、ふっと気持ちが乱れる。先生と同じ教師になれば……

 ……ずっと一緒に居られるのかな――
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