嫌われたくないので(BL)

凪原茅野

文字の大きさ
1 / 4

1

しおりを挟む
「ん、はあっ…ふふっ」

「はっ…よかったよ」

「あたしもよ…も、サイコー」

 自分の下で荒く息を吐く彼女の髪に唇を落としながら言うと、彼女はそれに応えるように淫靡に微笑みながらオレに抱きついた。
 押し付けられた柔らかさを楽しみながら背中を指先で撫でると、楽しそうにくすくす笑みを溢す。

「もう一回、する?」

 その言葉に、オレは緩く首を横に振る。

「誘いは嬉しいけど……ごめんね、また今度」

「残念ね。新しい恋人?」

 残念、と言いながらその実からかうような笑みを浮かべる彼女に肯定すれば、「本当に?」と驚いたようだった。

「へー、新しい子も大変ね。こんなねちっこいセックスするのが彼氏なんて」

「ねちっこいセックスしない為に君とセックスしてんの。ふふん、実はまだその人とは一回もエッチしてないんだよ」

「え?何それ気持ち悪。あんたらしくないわね」

「うっわ酷っ。それだけ相手を大事にしてるってことなのに」

「嫌われるのが嫌で臆病になってるだけじゃない」

「まあね~」

 にんまりと笑いあったオレたちはシャワールームで行為の残留を洗い流すと、互いの帰る場所に向かった。

「じゃあ、また後で連絡するわ、彼女に宜しくね」

「……ん、じゃあね」

 彼女……じゃないんだけどね

 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 オレの恋人は口数が少なくて基本的に無表情だ。
 でもふとした瞬間に笑う顔や、頭を撫でる仕草なんかが堪らなく格好良くて、多分最初もそんな姿に一目惚れしたんだと思う。
 まあ、まさか本当に付き合えるとは思ってなかったんだけど。
 あんな真面目な男がこんな軽い男のオレと付き合ってくれるとか、びっくりだよね。

「ただいまー」

 そう言いながらリビングのドアを開ける。
 司は風呂上がりなのか、首にタオルを掛けた状態でこちらを振り返った。
 髪をしっとりと濡らし、普段よりもラフな格好をした司に、跳ね上がる心臓を無視して笑いかける。

「修也」

「ただいま、司」

 僅かに高い司の首に腕を回し、触れるだけのキスをする。一瞬びくりと震えた司は、そのままオレの腰に腕を回した。

「風呂、入ってくるか?」

「風呂はいい。飯食いたい」

「……そうか」

 あっちでシャワー浴びてきたしね、という言葉は呑み込む。
 間近で司を見つめていたら、その表情が僅かにかげったように感じた。

「司……どこか調子でも悪い?」

「…………」

「司?」

「なんでもない。飯は用意出来てるぞ」

「あ、わかった…」

 腰に回した腕を離され、リビングまで去っていく司の後ろ姿はどこかよそよそしくて、なんだか不安になる。
 けれどそれを指摘するのも憚られて、無言でその後を追いかけた。


 飯は美味かった。
 司はオレの好みも嫌いなものも正確に把握しているし、好きな人が作ったんだと思えば余計美味く感じた。

 ……けれど、いつも以上に口数の少ない司が発する重っ苦し~い空気に、折角の美味い料理が中々喉を通らなくなっている。
 いつもより箸の進みが遅いオレを司が訝しげに見て、そのせいで更に食べ辛くなって……
 なんて悪循環が起きていた。

「ね、ねえやっぱり何かあったの?」

 この空気をなんとか払拭したくて、そう言えば司は気まずそうに目を反らす。その姿に違和感を感じた。

「いや…」

「でもさっきからずっと暗いし」

 箸を置いて机に身を乗り出し言っても頑なに目を合わせようとしなくて、段々不安な気持ちよりも苛立ちが勝ってくる。

 こんな煮え切らない司、知らない

「そんなことは、ない」
「あるよ。ねえ、本当に何があったの?」

「それはっ、お前がっ」

 声を荒げ、何かを言いかけた司は少し迷う素振りをみせる。
 やがて大きく息を吐くと、静かな声で話した。

「……今日、スマホ忘れただろ」

「え、うん」

 確かに今日は外出するときスマホを持つのを忘れていたけど。

「鈴城と名乗る女から電話があった。」

「……え?」

「伝言だ、『今日は楽しかった。また相手してね』と。……どういうことだ?」

「あ…」

 さあっと血の気が引いていく。
 鈴城という名の女性に、心当たりは一人しかいなかった。また後で連絡する、と言って、今日別れたばかりのセフレのひとり。

 ああまずい、オレの馬鹿
 今までバレないようにやってきたのに。



 このままじゃ、嫌われてしまう



「友達…」

「嘘だ。」

「う、う、嘘じゃ」

「修也」

 だめだ、だめだ。動揺して上手く嘘がつけない。
 司と目を、合わせられない

「鈴城、という女を抱いたのか?」

「……」

「そうか」

 無言を肯定と受け取った司は、諦めたように呟いた。
 その声色に不安を感じるけれど、顔を上げるのは怖くて俯く。

「暫く距離を置こう」

「嫌だ!」
 言われた言葉に弾かれたように顔を上げ間髪いれず叫ぶように言うと、司は不愉快そうに眉を寄せた。
 そんな司の態度に泣きそうになるけど、ぐっと堪える。

「オレ、はっ離れたくない」

「じゃあなんであんなことをしたんだ」

 司とセックスしたいけど、男同士のやり方なんてわかんないから。
 もし「やっぱり男はダメだった」と言われて突き放されることがあったら、こわいから。
 でも一緒にいるだけで気持ちは昂って、その発散場所を求めたから。

 司に、嫌われたくなくて。

 言えたらどんなに楽だろうか。
 でも言えない言いたくない。だって嫌悪されたら嫌だから。

「黙(だんま)りか」

「……ごめんなさい」

「別れたいなら最初からそう言えば良かったのに」

 司は諦めたようにぽつりと呟き、そのまま自分の部屋に戻ろうとした。
 咄嗟にその手を掴み引き留めれば、心底煩わしそうな顔をした司はオレの手を振り払う。
 自分の心が軋みを上げるのを感じるけれど、このままじゃあ何もせずに終わってしまうから。

 もう一度掴んだその手を自分の方にぐいと引き寄せて、オレよりも高い位置にあるその頭を抱き込んだ。
 司は不自然な体勢のまま、固まっている。
 暫くそうしてから息を吸い込み、大きめの声で話し始めた。

「オレ、司が大好きだから。嫌われたくなかったんだよっ。」

「は」

「つ、司といると絶対欲情するのにっ、男同士のセックスの仕方なんてわかんなくて、呆れられたら嫌だから、女の子抱いたりして、こんなの知られたくないしっ」

「……修也」

「ごめん、でもオレさ、オレ司に嫌われたくないから、怖くて、矛盾してるのはわかるのに!」

「修也……離してくれないか」

「っ!」

 随分と落ち着いた声色に、さっと冷静さを取り戻す。
 ごめんなさい、と小さく謝って、抱え込んだままだった司の頭から手を離し
 顔を合わせるのも怖くて唇を噛みながら俯いた。

「あは、なんかオレ格好悪いよね……ごめん、部屋戻る」
「待て」

 漸く言葉を絞り出し、司の前を通り過ぎようとしたら手首をつかまれそれ以上進めなくされた。
 謀ったのかどうかは定かではないが、先とは逆の体勢にどくりとなる。

「はっ…離してよっ」

「修也、悪かった」

 振り払おうにも、手首が軋み上げるかと思う程強く掴まれていては離せない。
 ……何より、心の何処かで引き留められたことを喜んでいる自分がいるから。


 それでも

 グッ!!

 下手に優しくされて、余計傷付くのは嫌だったから、無理矢理腕を引き抜いた。

「お願いだから、もう、オレに優しくしないでよッ!!」

「っ……!!」

 ボロ、と溜め込んだ涙が零れる。
 それを見た司が息を呑むのが分かったけれど、オレはそんなことに構ってられる程気持ちに余裕が無かった。

「も、やだ…優しくするなよッ、…期待させないで!!悪いの、全部オレだってわかってるし……ッ!」

「修也」

「オレのこと嫌なら、直ぐに別れさッ……」


『別れさせて』


 言おうとした言葉は、司の口内に呑み込まれた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お調子者美形ヒモ男子が独占欲強めの幼馴染みにしっかり捕まえられる話

サトー
BL
お調子者で鈍感な主人公とその幼馴染みが両片想いからくっつくまでのお話 受け:リツ 攻め:マサオミ この作品はムーンライトノベルズにも掲載しています。

俺の体に無数の噛み跡。何度も言うが俺はαだからな?!いくら噛んでも、番にはなれないんだぜ?!

BL
背も小さくて、オメガのようにフェロモンを振りまいてしまうアルファの睟。そんな特異体質のせいで、馬鹿なアルファに体を噛まれまくるある日、クラス委員の落合が………!!

愛する者の腕に抱かれ、獣は甘い声を上げる

すいかちゃん
BL
獣の血を受け継ぐ一族。人間のままでいるためには・・・。 第一章 「優しい兄達の腕に抱かれ、弟は初めての発情期を迎える」 一族の中でも獣の血が濃く残ってしまった颯真。一族から疎まれる存在でしかなかった弟を、兄の亜蘭と玖蘭は密かに連れ出し育てる。3人だけで暮らすなか、颯真は初めての発情期を迎える。亜蘭と玖蘭は、颯真が獣にならないようにその身体を抱き締め支配する。 2人のイケメン兄達が、とにかく弟を可愛がるという話です。 第二章「孤独に育った獣は、愛する男の腕に抱かれ甘く啼く」 獣の血が濃い護は、幼い頃から家族から離されて暮らしていた。世話係りをしていた柳沢が引退する事となり、代わりに彼の孫である誠司がやってくる。真面目で優しい誠司に、護は次第に心を開いていく。やがて、2人は恋人同士となったが・・・。 第三章「獣と化した幼馴染みに、青年は変わらぬ愛を注ぎ続ける」 幼馴染み同士の凛と夏陽。成長しても、ずっと一緒だった。凛に片思いしている事に気が付き、夏陽は思い切って告白。凛も同じ気持ちだと言ってくれた。 だが、成人式の数日前。夏陽は、凛から別れを告げられる。そして、凛の兄である靖から彼の中に獣の血が流れている事を知らされる。発情期を迎えた凛の元に向かえば、靖がいきなり夏陽を羽交い締めにする。 獣が攻めとなる話です。また、時代もかなり現代に近くなっています。

やけ酒して友人のイケメンに食われたら、付き合うことになった

ふき
BL
やけ酒の勢いで友人に抱かれた榛名は、友人の隠された想いに気付いてしまう。 「お前、いつから俺のこと好きなの?」 一夜をなかったことにしようとする瑞生と、気付いたからには逃げない榛名。 二人の関係が、少しずつ変わっていく。 瑞生(ミズキ)×榛名(ハルナ)

学園の卒業パーティーで卒業生全員の筆下ろしを終わらせるまで帰れない保険医

ミクリ21
BL
学園の卒業パーティーで、卒業生達の筆下ろしをすることになった保険医の話。 筆下ろしが終わるまで、保険医は帰れません。

俺の家に盗聴器が仕掛けられた

りこ
BL
家に帰ったら何か違和感。洗濯物が取り込まれている。だれ?親に聞いたが親ではない。 ──これはもしかして、俺にヤンデレストーカーが!?と興奮した秋は親友の雪に連絡をした。 俺の経験(漫画)ではこれはもう盗聴器とか仕掛けられてんのよ。というから調べると本当にあった。

ド天然アルファの執着はちょっとおかしい

のは(山端のは)
BL
一嶌はそれまで、オメガに興味が持てなかった。彼らには托卵の習慣があり、いつでも男を探しているからだ。だが澄也と名乗るオメガに出会い一嶌は恋に落ちた。その瞬間から一嶌の暴走が始まる。 【アルファ→なんかエリート。ベータ→一般人。オメガ→男女問わず子供産む(この世界では産卵)くらいのゆるいオメガバースなので優しい気持ちで読んでください】 ※ムーンライトノベルズにも掲載しております

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

処理中です...