ノーベル賞受賞屋が乙女ゲームの世界に転生した。

鹿島 ギイチ

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序章

プロローグ3

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二か月後 東京都台東区上野 科学アカデミー 大講堂

 世紀の実験の二か月後、俺は観測結果などのデータをまとめその結果を、論文にまとめて世界に公表した。そして、世界に公表してから数日後。この実験に参加した俺の研究チームと研究センターの仲間たち、さらには国、JAXA、物理学の権威の人たち、マスコミを前にして、論文発表を行っていた。

「以上がこの実験で得られた結果であります。まとめますと、我々の住む世界には少し位相がずれた同一の世界が存在し、これが理論物理学で公式のみで存在が予見されていた五次元以降の次元であることが確認されました。しかし、現在のところ私の研究チームが行ったこの実験の方法でしか先ほどの写真に写っていた、次元の煌めきは見ることができません。しかし、近い将来他の方法が見つけられると信じて、発表を終わりたいと思います。ご清聴、ありがとうございました。 質問はありませんでしょうか?」

 俺が発表を終えると、ものすごい勢いで出席者から手が上がり様々な質問が上がった。俺は、一つずつ丁寧に答え、質問が終わりを迎えるころには夕方になろうとしていた。

「では、質問の受付を終了いたします。神出教授、本日は貴重な発表ありがとうございました。」

 そのように司会の方が締めた時、会場から割れんばかりの拍手が起こった。俺は壇上で出席者に向かって深々と一礼して司会の方にお礼を言いその場を後にした。

「お疲れ様、すごくいい発表だったよ。」

 最初に出迎えてくれたのは、俺の恩師である海藤名誉教授だった。俺の肩をバシバシと叩きながらそのように言ってくれた。

「君が、神出教授かね。実に素晴らしい発表だった、感動した。ありがとう。」

 一人のものすごくダンディーな紳士の方が、そのようなことを言いながら俺に握手を求めてきた。

「ありがとうございます。こちらこそ、聞いていただきありがとうございます。」

 そう言って、握手をした人物こそ、この論文発表の会場で最も目上の人物であった。この人こそ、第百五代日本国内閣総理大臣 近本 健三である。近本総理は、科学者宰相と言うあだ名がつくほど科学に対する造詣が深く、本人自身も、科学論文をいくつも出している。そのため、こう言った世界初の研究の論文発表には公務の合間を縫って必ず傍聴に来ているのである。
 総理と少しばかり雑談をして、再び歩き出すと、咲奈が花束を持って待っていた。

「兄さん、おめでとう。これは、私と理学部と理学研究所の皆からの花束ね。」

そう言って咲奈は、俺に花束を渡し抱きしめてきた。

「ギュウ――――、あぁ~、兄さんの匂い。本当によく頑張りました。偉い偉い。」

「子ども扱いしない。後、年頃の女性が無闇に男性に抱き着かない!」

 そう言いながら、咲奈を俺の身体から引っぺがし花束を持って歩き出した。

「エ~、ケチ。いいじゃん、減るもんじゃなし。」

 と、咲奈は、ブ打たれながらも俺の隣に来て一緒に歩いてる。そんな事をしながらさらに歩いていると、見覚えのある人たちを見つけた。

「父さん?母さん?」

 その声が、聞こえたのか年配の女性が叫びながら俺に向かって走ってきた。

「正弥―――。」

 その女性は、俺の前に着くとギュッと抱きしめてスリスリとした後、離れて俺の身体をペタペタ触りだした。

「正弥、体調はどう元気してる?ご飯ちゃんと食べてるの?疲れてない?」

ものすごい勢いで、捲し立ててくるこの女性こそ、俺たち兄妹の母 神出 幸恵である。今は、ものすごいマシンガントークをかましているが、こんなんでもとある会社の代表取締役社長をしている、やり手の女傑である。そんな母の隣に、これまた総理よりもダンディーな紳士が現れた。

「幸恵さん、一旦、落ち着きなさい。正弥が困っているぞ。」

「恭也さん。そうね、取り乱してしまったわね。でも、心配で心配でたまらなかったのよ」

「分かっているさ、だが私たちの息子だ。信じて見守るのも親の務めじゃないかな?」

「そうね、その通りだわ。さすがは恭也さん、わたくしの愛しの旦那様。」

 息子と娘の見ている前で、イチャイチャラブラブな状態に持って行ったこの男性こそ、俺たち兄妹の父 神出 恭也である。仕事は、とある会社の創業者にして代表取締役会長をしている。ちなみに、母も創業者の一人である。
 そんな両親は俺たちをそっちのけにしてイチャラブ状態に突入してしまった。両親共、五十歳を超えているのだが、いまだに新婚ホヤホヤ気分の抜けないバッカップル夫婦である。

「オホン、父さん、母さん。俺たちの前ではいいけど、人前で、イチャラブ状態になるのは、やめてくれって、前から言っているよね。」

「そうです。見ているこっちが恥ずかしくなるので、人前だけはやめてください。お父さん、お母さん。」

 兄妹の怒声が響くと、ハッと我に返った両親が周りを見てみると、あまりにもアツアツでラブラブだったため、学生たちは顔を真っ赤していて、教授たちは胸やけを起こしていて、来賓の方々は度肝を抜かれていた。

「ハハハ、これは失敬。」

「はあ~~~、御騒がして申し訳ありません。」

 両親が周りに頭を下げて騒ぎは静まった。

 そして、俺たち家族は久しぶりの家族団欒を過ごすために、科学アカデミーを出て、両親が予約してくれていたホテルのレストラン向かい、そこで近況報告や今回の論文発表のついて話しながら食事をした。そして両親から、頑張っている俺にへと少し小さな箱が渡された。

「何、これ。プレゼント。」

「そうよ、私と恭也さんとで選んだものよ。開けてみて。」

 母さんの勧めに従って、包装紙を開いて箱を開けると、そこには、真新しい腕時計が収まっていた。

「今している時計、もう十三年たつだろう、次の新しいステップへの挑戦を祝して、送らせてもらうよ。」

 俺は、そんな父さんの言葉を聞きながら、今までしていた腕時計を外し、真新しい時計を腕にはめた。

「ありがとう、父さん、母さん。大切にするよ。」

「それで今までの時計はどうする。」

「これは、俺の未来の息子に譲るよ、それまでは大事に取っておくよ。」

「そうか。」

 そんな会話をしながら、食事を楽しみ、今日は実家で寝ていきなさいという、母の勧めにしたがって両親と共に実家に戻り、今日一日お疲れさまでした思いながら、実家の自室で就寝した。







 そしてそれから数か月が過ぎたとある日の昼頃、研究センターのオフィスの電話が鳴った。

「はい、もしもし。神出正弥のオフィスですが。」

「はい、はい、えっ、スウェーデン大使館。」

 さゆりさんの困惑した声が聞こえてきた。

「はい、教授は在席しております。」

 さゆりさんは、受話器に手を当てて、俺を呼んだ。

「教授、外線一番にお電話です、スウェーデン大使館からです。」

 俺は、自分のデスクの電話を取り外線一番につないだ。

「はい、お電話変わりました。神出正弥です。」

 俺は、何かスウェーデン大使館から怒られることをしたかな~と思い電話に出た。しかし、俺はその電話の中身をよく覚えていない。なぜなら、その内容が衝撃的過ぎて頭が真っ白になっていたのである。かろうじて、覚えていたのはその日の午後七時まで研究センターのオフィスにいてくださいと言う、大使館員の言葉であった。
 そして、午後六時四十五分になったとき、電話が鳴った。

 俺は、その電話を取り、電話に出た。

「はい、もしもし。神出正弥です。」

『神出正弥教授ですか? わたくしは、ノーベル委員会の者です。 スウェーデン王立科学アカデミーは、神出正弥教授を物理学賞の受賞者に選定いたしました。 おめでとうございます。』

「ありがとうございます。謹んでお受けいたします。」

『それを聞き安心いたしました。それでは十二月に当地にてお会いしましょう。それでは。』

 電話が切れ、受話器を置くと部屋の扉が勢いよく開いて何人もの人がなだれ込んできた。それは、今回特別に許可されて研究センターに来ていた。マスコミの人たちであった。彼らが入ってきたことにより、ノーベル物理学賞の受賞が決まったという実感がわいてきた。それから、自然と涙がこぼれてきて取材どころでは無くなったので、後日に会見を開くと約束してマスコミの人たちに帰ってもらった。
 そして次の日からノーベル賞の行事が終わるまで、俺はあっちへこっちへと東奔西走した。その中でも特に大変だったのが、日本国からの紫綬褒章と文化勲章、国民栄誉賞の贈呈に伴う諸行事と、ノーベル賞の授与式であった。そして諸々の行事が終わり、正月を目いっぱい満喫した俺は、再び新たな実験観測の準備に邁進することとなった。

ノーベル賞授与から八か月後 東京都文京区本郷 国立理論・実践物理学素粒子国際研究センター 午後四時半ごろ

 その日の俺は、次の観測実験のために学生たちと研究センター内で準備に明け暮れていた。

「先生、ここの数値がおかしいです。」

「先生、こっちも安定しません。」

「おかしいな、ちゃんと組み立てしたのに、どうしてだ?」

 学生たちからは、機械の状態が悪いという報告が相次いでいた。そのため今夜に種子島に送る予定だったのを急遽取止め、整備をしていたのである。だが一向に改善ができず夕方が差し迫ろうとしていた。

「皆、今日はお疲れ様。もう上がっていいぞ。」

 俺は、手伝っている学生たちに作業を止めて帰るように指示をした。

「でも、まだやれます。もう少し続けさせてください。」

 一人の学生がそう言って志願してきた。それに釣られて他の学生も残ろうとしたが、俺はそれを却下した。

「だめだ。今の状態で続けても原因は特定されないし、他の問題も出るかもしれない。いったん切り上げて、みんなリフレッシュが、必要だ。リフレッシュ出来たら何かいいアイデアが閃くかも知れないからな。今日は、全員さっさと帰ってゆっくりすること。以上。解散。」

 俺は、そう言って学生たちを帰して、自分のオフィスに戻り、書類を何枚か処理をして、さゆりさんにも帰ってもらい、オフィスに鍵をかけ、再び実験装置を置いている部屋に戻ってきた。

「さてと、少しやってから俺も帰るか。」

 皆を帰してからしばらくたったころ、ふと時計を見れば午後七時半を指していた。これ以上やっても進展はないなと思い、休憩をすることにした。
 休憩をしている、不意に実験装置を置いている部屋の扉が開いた。今日のこの時間帯には一階にいるガードマンさんとこの部屋にいる俺しかいないと思いふと見ると、そこには服に血を浴びた同い年の同僚の橋谷輝夫がナイフを持って立っていた。

「おい、テル。その血はなんだ。」

「これか、ハハハハ。カードマンさんの血だよ。あの人、俺の邪魔をしたから刺してやったのさ。」

「テル。お前、何をしにきた?」

「正弥、お前を殺すために来たのさ。お前さえいなければ、俺がトップに立てるからな。死ね。」

それは、あっという間だった。刺されたのが分かり、激しい痛みと熱が襲ってきた。テルは、ナイフを俺に刺したままその場から逃亡した。俺は痛みと熱で薄れゆく意識をなんとか保ちながら、部屋に置いてある一つの机まで進んでいき、その机に隠されていた赤いボタンを押し、そこで俺は、意識を手放した。
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