ノーベル賞受賞屋が乙女ゲームの世界に転生した。

鹿島 ギイチ

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第一部 第一章

第4話 神と前世

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 ふっと気が付くと、僕はヘンテコな場所にいた。その場所は、ただ広く周りに何もない。目線を下げると、清潔そうなベットが見えているが、それ以外は何もない。此処は何処だろうと、ものすごく不安になってくる。しかもなぜ僕は、こんな所に居るのだろう。先まで、姉上と一緒に庭で遊んでいたはずなのに。

「父上、母上、ハハ様、姉上、何処にいるの?」

 と言ってみたものの、返事が聞こえない。不安な気持ちになり、ベットを出ようとすると、父上の言葉を、ふと思い出した。

『エギル、よく覚えていなさい。迷子になったらその場から動かない事、分かったね。』

 父上の言葉を思い出した僕は、そこに居ることを決めた。
それから、しばらく経って、のどが渇いたなあと思い、水を飲みたいと思うと、コップに注がれた水が出てきたのである。僕は、恐る恐るこのコップを掴むと匂いを嗅いだ。匂って来たのは水の匂いだった。
僕は、飲める水と判断して、それを飲んだ。

「フゥ~、おいしい。」

 僕は、水を飲み干して人心地つくと、何か食べたいなあと思い、ケーキを食べたいと思うと、また何処からともなく、お皿に乗ったケーキが出てきた。
どうやらこの場所は、僕の思ったことを実現してくれる場所の様だ。
 出てきたケーキを食べてお腹を満たすと、とある事を思いつき、それを声に出してみた。

「僕以外の人を、ベットの近くに呼んで。」

 そう言ってみると、すごく遠くの方に暗い点が現れ、こちらに近づいてきた。その点は、みるみる大きくなり人の形になってきた。そのままさらに近づいてくると、煌びやかな服を纏い、頭にティアラみたいなものをつけている女性が、見えた。
その女性は、ベットの近くで停止したが、何かに夢中になっているのか、こちらには、まったく見向きもしないのである。

「あの~、すみません。」

「そうです、そうです。それをやれば行けますよ~」

 呼び掛けたが、目の前の物に集中したその女性は、返事を返してくれなかった。こうしてても埒が明かないので、その女性の肩を叩いてみた。

「あの~、すみません。」ポンポン

「もう~、何ですか、今いいところなんですよ。邪魔しないでください。」

 そんな事を言われ、手を払いのけられてしまった。しかし、僕はあきらめずに同じことを繰り返した。何度も何度もである。だが、あまりにも気づいてくれないのと、そのぞんざいな態度にカチッンと来てしまった。

「先から人が、呼んでるの。返事しろ―――。」

 その言葉を言いながらその女性の頭を、拳を握って、思いっきり殴った。
ゴチンと言う音が鳴り、殴られた女性は、頭に手を当てて痛がった。

「痛い―。もう、殴ることは無いじゃないですか。」

 そう言って、こちらに、くるっと振り向いた。

「えっ。」

 と言って、固まった女性。「えっ。」は、こっちのセリフだよ、と思いながら、僕は、その少し年上の女性に話しかけた。

「すみません、あなた誰ですか?」

 しかし女性は、固まったまま返事をしようとせず、時間が過ぎていった。その女性が、余りにも固まっているので、僕は、再び拳を握った瞬間、女性が、再起動した。

「待ってください、待ってください。頭を殴るのは、勘弁してください。」

 僕も、これ以上女性に手を挙げるのはダメだと思い拳を解いて、再び同じ質問をした。

「あなたは、誰ですか?」

「私は、神様です。」

「…………」

 沈黙が流れていく中、僕は、再び拳を握りこんだ。そして、その神を名乗る頭が可笑しい女性の頭をもう一度殴ろうとした。

「ちょっと、待って待って。嘘じゃないです、本当に神様なんです。」

「じゃあ、証拠を見せてください。それで、殴るかどうかを判断します。」

 僕は、そう言って拳を少し握ったままにし女性の反応を待った。

「えっ、証拠ですか? どうすればいいんです。痛い。」

「殴りますよ。」

「殴ってから、言わないでください。」

 女性は、不満を言って来たが、戯言を聞いている気はこっちに存在しない。だが証拠の提示の仕方を言っていなかったのは、こちらにも、非があるので、方法を提示した。

「それじゃ、僕を跪かせる様にしてください。それで、僕が、神様だと思ったら、認めます。」

「はい、分かりました。認めてもらいます。」

 女性は、快諾をして、その場で立ち上がると、両手を胸の前に組んで祈りのポーズを行った。すると、女性の背後が光り輝き始めた時、僕は、跪かなければと思った。

「分かりました、ありがとうございます。あなたは、神様ですね。」

「はっ、ようやく認めてくれた。よかった。」

 僕が、神様だと認めると女性は、安堵して再びその場に座った。僕は、冷たい水をと心に思い、出てきた水を、神様の女性に差し出した。

「はい、お水です。」

「あっ、ありがとうございます。」

 女神さまが、お水を飲んで人心地着いた。僕は、女神さまにある質問をぶつけた。

「女神さまは、どんな神様、何です? それと何で僕はこんな所に居るんですか?」

「ものすごい、好奇心ですね。最初にあったときと変わらないな。」

「えっ、何か言いました?」

「いえ、何でもないですよ。」

 何かを言ったように聞こえたのだが、女神さまは、否定された。

「オホン。それでは、私がどんな神様なのか発表しますね。ドルルルルルルルル。」

「ジャン。創造神です。」

 僕は、目を疑った。この僕より20歳年上のお姉さん風の女神さまが、創造神であると言うのだ。
 僕が母上に呼んで貰っていた神話の本に出で来る創造神様とは、だいぶん違うなと思った。神話に出てくる創造神様は、今、目の前にいる女神さまよりも十歳くらい年上に描かれていたのである。何でだろう、聞いてみると。

「それはですね、威厳を持たせるためですよ。こんな若い見た目の神様だと尊敬してもらえないって言う人間の都合で、老けたようにされているのです。もう、迷惑しちゃうわ。」

 プンプンと怒る女神様。頬を膨らませて「不満です」と言いたいのだろう、だがその子供のような怒り方が、少しかわいく見えた。

「そんな事よりも、僕は、いったいどこに居るんですか?」

「この場所は、君の心の中の世界です。とある理由があって、来てもらいました。」

「どんな理由ですか?」

「あなたの前世を思い出してもらうためです。」

 創造神様からの説明によると、この世界に生きるすべての生物は、〈生まれる→成長する→老いる→死ぬ〉を繰り返しているのだと、これを、輪廻転生と言うのだそうだ。そして、たまに別の世界からやってくる魂があるという。その一つが、僕だというのだ。
本来、転生した魂は、前世を思い出すことは、ないのだという。たまに、思い出す人もいるが、少数であり問題ないとのこと。

「じゃあ、何で僕は、思い出すことになるんですか?」

「それは君の前世が、とある神様の不注意で、死んでしまったから。」

 そう言うと女神さまは、何か箱みたいな物を操作するとそこに僕とかのよく似た人物が映っていた。
そこに映っていた前世の僕は、その世界でものすごい発見をして、世界中の人々にほめられることをしたのだという。しかし、それを嫉まれて、途中で命を絶たれてしまった。その原因を作ってしまったのがとある神様が、行ったことであった。
すぐに元の世界で、転生が試みられたが、できなかったため、新たな創造神になった女神さまが、作った世界に転生したというのである。

「それと、もう一つ理由があります。」

 女神さまは、何かの箱を操作して消しながら、こんな事を、言って来た。

「あなたの魂が、(エンシェント・ソウル)だったからです。」
「(エンシェント・ソウル)って何ですか?」

「とっても古い魂で、いろんなことを経験している魂なの。覚えておいてね。」

「はい、分かりました。」

 創造神様は、そんな事を言って説明を終了した。説明が、終わると目の前に一杯のゴブレットがあり、中には並々と透明な液体が入っていた。

「これ、何ですか?」

「これが、前世の記憶や経験を、今の自分に付与するこのできる水よ。」

「ただし、付与されても勉強や訓練をしなければ使い物にならないから、気をつけなさい。」

「はい、わかりました。」

 僕は、女神さまの忠告を胸に刻み込み、ゴブレットを一気に呷った。すると、前世での経験、やってきた事、などが、頭と心に付与され、使えるまでロックがかかった状態になった。

「さあ、これであなたは、自由に生きることができるわ。自分が信じた道を進みなさい。」

 女神さまが、そう言うと急速に眠くなってきた。僕は、すぐ近くにあったベットに倒れこむように眠りについた。その時、女神さまの呟く独り言を聞きながら。

「また、会いましょう。私は、貴方を見ています。 これから会う子達を……」

 僕は、眠りの世界へ落ちていった。
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