ノーベル賞受賞屋が乙女ゲームの世界に転生した。

鹿島 ギイチ

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第一部 第一章

第8話 野営と登山

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 僕たちは、王都の城門の一つである東門から出て、一路進路を東にとった。僕とオルティシアが載る馬と、セドイスが載る馬は、並足で並走しながら進んでいる。
 僕は、目的地とこれからの道程を改めて二人に聞いた。

「オルティシア、今回の目的地ってどういったところ。」

「はっ、殿下。今回の目的地は、エルポレス山の頂上です。ここに大賢者様が住んでいます。」

 オルティシアが、説明してくれていると、セドイスが、補足の説明を言って来た。

「それだけではございません、殿下。エルポレス山自体が大賢者様の領地でもあります。」

「えっ、山自体を領地として持ってるの。」

「はい、国に対する貢献の恩賞として初代陛下が、送られたものです。」

「改めて、偉大な人なんだなと思うよ。」

「誠に。」

「それで、エルポレス山までの日程と道程は。」

 僕は、二人に対してそんな質問をした。二人は、顔を見合わせると、こう提案してきた。

「殿下、この少し行った先に休憩をするポイントがあります。そこで、ご説明いたします。」

「分かった。」

 僕が、そう答えると、二人は、頷き合いこう言って来た。

「殿下、スピードを上げます。しっかりお掴まりください。」

「うん、了解。」

「では、行きます。」

 二人は、馬に鞭を入れて並足から速足に速度を上げた。そして、速足のまま最初の休憩ポイントに向かって走って行った。

 王都を出発後、二時間経過 休憩ポイント

 二人が、馬の腹をグッと足で締める、すると馬たちが速度を落としていき、停止した。二人は、馬たちを労うようにポンポンと背を叩いている。

「よしよし、いい子だ。」

「よしよし、賢い子ね。」

 二人は、馬を褒めると、馬の背から降りて手綱を持ち、手ごろな木に手綱を繋いで僕を降ろしてくれた。僕も馬たちに近づき、首の辺りをポンポンと叩いて、労った。

「ありがとう、少し休んでくれよ。」

 そう言うと、馬たちが顔を近づけてきて、スリスリとしてきた。

「ウ~ン、くずぐったい。」

 僕が、馬たちにじゃれられていると、セドイスが、僕を呼んだ。

「殿下、手伝ってもらえませんか。」

「何を、手伝えばいい。」
 そう言いながら僕は、セドイスのいる所に向かった。その場所に到着すると、セドイスは、枯れ葉を下に敷いて、小枝をその上に立てて屋根みたいにしていた。

「来られましたな、殿下。」

 セドイスは、僕を見ると手招きしてきた。

「こちらに、いらしてください。」

「何を始めるの。」

 僕は、そんな疑問を言いながらセドイスの隣に腰を下ろした。するとセドイスは、木の板を置いて紐と板と棒でできた物を取り出してそれを僕に渡してきた。

「これから、火起こしを殿下に行っていただきます。殿下に渡したのが火起こし器と言うものでございます。」

 僕は、初めて見る火起こし器をしげしげと見つめて、どんな風に使うのかなっと思った。

「よろしいですか、説明いたしますので、それと同じにやってみてください。」

 僕は、セドイスの説明通りに木の板を加工し、火起こし器をセットして廻し始めた。するとしばらくして煙が立ち上り火種になる黒い粉が出てきた。それを枯れ葉と綿で包んでググる手に持って空中で回転させると火が付いた。付いた火を組んでいる枝の下に敷いている枯れ葉に置くと火が付き、それを慎重に息を吹きかけて大きくしていった。すると組んでいた枝に火が燃え移り、焚火が出来上がった。

「殿下、おめでとうございます。初めての火起こし大変よくできました。」

 セドイスが、そう褒めてくれた。セドイスは、焚火の上に物を載せる台を被せそこに湯を沸かすのに通うという少し小さな鍋を出して、魔法で水を出して注ぎ、火にかけた。そしてこう言って来た。

「殿下、水を必ず沸かしてからお使いください。それが身を守るための方法でございます。」

「うん、分かった。」

 セドイスのアドバイスを聞いていると、オルティシアが、何かの作業を終えて戻ってきた。

「セドイス卿、配置が終わったわ。」

「オルティシア卿、了解した。」

 僕は、二人が確認し合ったことが、何なのか分からなかった為、二人に聞いてみた。

「二人とも、何を確認し合ってたの?」

 二人は、頷き合うと腰に下げていた袋から、魔石を取り出して僕に見せてくれた。

「殿下、先ほど私が、作業していましたのは、警戒線と呼ばれるものを、作るためであります。」

 と、オルティシアが、言った

「警戒線とは、この様に道中での休憩、野営の時などに張り巡らす線の事です。目的は、侵入者に対する警戒であります。もし、この赤い魔石と赤い魔石の間に何かが通りますと、この腕に着けた腕輪が振動します。振動したら何かが警戒線を超えたと言う事です。」

 セドイスが、そう教えてくれた。
 僕は、道中での休憩には、万全の準備が欠かせないのだと言う事を学ぶことが出来た。

 それから僕たちは、沸かしたお湯で入れたお茶を飲みながら、今回の旅の目的地までの道程の確認を行った。

「まず、王都の東門から出発し、本日はラーダの野営地にて野営いたします。次の日には東の公都〔キルマ〕に入りまして、ここで一泊、そして〔キルマ〕を出まして北東方向に進みます。そのまま北東に進みエルポレス山の間にある野営地と町に一泊ずつし、エルポレス山の麓に着きましたら、麓の山小屋に一泊し、次の日に山頂を目指します。」

「山頂にはどれ位で、着けるの。」

「大人の足で六時間位ですので、殿下の場合は、プラス四時間と言ったところでしょうか。」

「うん、分かった。頑張る。」

 僕は、そう宣言をして、立ち上がり、オーっと叫んだ。そして、休憩を終了し、今度は、セドイスの馬に乗り出発した。

 王都を出発後 八時間後

 幾度かの休憩を挟みながら僕たちは、今日の目的地、ラーダの野営地に到着していた。その野営地には、いろいろな人々が夜を明かすために集まっていた。僕たちは、馬から荷物を降ろしテントを繋ぐための木を探しながら歩いていた。

「殿下、丁度よさそうな木が、見つかりました。本日は、あそこにいたしましょう。」

「うん、そうだね。」

 少しして手ごろな木が、見つかり僕たちは、テントを繋ぐ準備をし始めた。この世界のテントは、大きく二種類あると、セドイスが言っていた。
一つが、地面に建てるテントの方式と、もう一つが三本の木に紐を繋ぎ空中に浮かべるテントの方式である。
どちらのテントも、メリットとデメリットが存在するが、圧倒的大多数は、空中に浮かせるタイプである。その理由は、非常にシンプルで魔物から身を守られることにある。さらに対策をきっちりと行えば、空の魔物にも対処できるので、こちらが選ばれやすいとの事だった。

「じゃあ、地面に建てるテントって持っている所は、どういうところなの。」

 僕は、もっともな質問を二人に投げかけた。

「軍が持っていますね。大人数ですので地面に立てるのが効率がいいのです。」

 とオルティシアが答えてくれた。

 そうこうしている内に、テントを張り終え、焚火を起こし、夕ご飯の準備を開始した。
今日のメニューは、ここに来る途中で狩りをして獲得した、魔物〈ブラッティー・ラビット〉のステーキである。ステーキが、焼きあがる間、僕たちはこれからの行程や出合う可能性のある魔物の事を話して、焼きあがった肉を食い、テントに入って就寝した。

 次の日、朝起きて、朝食を食べ、テントを片付けて、馬の背に積み、再び馬の背に跨り野営地を出発し、一路エルポレス山に向けて走り出した。


 王都を出発後 五日目

 僕たちは、特にトラブルもなく無事にエルポレス山の麓にある[一の山小屋]と言う山小屋に到着していた。
到着し馬を降りると、山小屋から少し痩せた男性が、やってきた。

「よくいらしゃいました、一の山小屋へ。ご宿泊でしょうか?」

 どうやら、この山小屋の主人の様だ。セドイスが対応に出た。

「はい、明日登山をするので、ここで英気を養おうと思いまして。」

「分かりました。大人二名に子供一名ですね。お代は、先払いになりますがよろしいでしょうか?」

「構いません、お幾らですか。」

「一泊二食で1000ガルザです。お湯もお付けできますが。」

「その場合は?」

「1050ガルザになります。」

「では、それで。」

 セドイスは、男女別の部屋で合計2650ガルザを払った。山小屋に入って部屋に着くと、持ってきてもらったお湯を使い体を拭き、夕食を食べて、明日に備えて早く就寝したのであった。
 翌朝、日が昇る前に起きた僕たちは、登山に必要な装備を整え、山小屋の主人から朝食の弁当を貰い、出発したのである。

 僕たちが、登るのは大賢者が住む山、どんなことが待っているのか、ワクワクとドキドキが止まらないのであった。

「さぁ、殿下。参りましょう。」

「うん、大賢者様に会いに。」

 二人が、声をかけてくれる。僕は、気合を入れて最初の一歩を踏み出した。

「さあ、開始だ。」
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