ノーベル賞受賞屋が乙女ゲームの世界に転生した。

鹿島 ギイチ

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第一部 第二章

第26話 開戦と籠城

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 〔デイ・ノルド王国〕首都 〔ハルマ―〕王城 合議の間

 私ことアランディア・フォン=フェニア=ノルドは、朝食を食べている時にその知らせを受け、子供たちと妃たちのささやかな時間を取止め合議の間へと向かっていた。

「続報は、届いているのか?」

 私は、一歩後ろからついて来ている秘書官に声をかけた。

「いえ、まだ続報は、入っておりません。先ほど陛下にお渡ししたメモが第一報でございます。」

 私の問に秘書官は、そう答える。私は先ほど渡されたメモを再び見た。そこには、こう書かれていた。

『国境砦、奇襲により陥落。被害、現在確認中。民間人及び守備部隊、要塞に撤退中。』

 私は、メモを懐に仕舞うと、秘書官に声をかけた。

「全員、揃っているな。」

「はい、宰相閣下以下、全閣僚及び全将軍は、全員参集し、陛下をお待ちです。」

 秘書官の返答に私は、「うむ。」と答え、こう返した。

「急ぐぞ。」

 そう言って私は、歩くスピードを上げ、合議の間へと進んで行ったのであった。

 そして合議の間へと到着し、扉が開かれると、ザッと言う音が聞こえ参加者全員が、起立し礼をしながら私を迎えてくれた。私は、そのまま皆よりも二段高い所に置かれた椅子と机へと向かい椅子に着席した。そして参加者全員にこう言った。

「皆、大儀である。」

 その言葉を聞いた参加者全員は、「はっ。」と口にすると、宰相以外は、席に着くと、宰相が開会を宣言した。

「これより陛下にご臨席いただき、我が国の方針を決定する御前会議を開催する。議題は、『ノース・ザルド王国との開戦及び今後の方針』である。軍務卿、説明を。」

 そう言って宰相は、軍務卿に事の経緯の説明を求めた。指名をされた軍務卿は、立ち上がり私に礼をすると、参加者全員に経緯を説明しだした。

「ご報告申し上げます。昨日の夜十時ごろ我が方の国境の砦に対し〔ノース・ザルド王国〕から投石機によるとみられる熱石攻撃が開始され、我が方の砦の守備部隊が、防衛戦を開始しました。しかし、力及ばす敗退しました。現在我が方の砦は、〔ノース・ザルド王国〕によって占拠されていると思われます。そして守備部隊は、民間人を護衛しつつ〔シテネモン要塞〕に撤退中との第一報が届きました。」

 軍務卿が、説明を終え席に着こうとした時、扉がノックされ、伝令の兵士が入ってきた。

「失礼いたします。続報をお持ちいたしました。」

 そういって兵士は、軍務卿へと続報が書かれたメモを渡し、軍務卿はそれを読むと、再び立ち上がりメモの内容を読み上げた。

「追加の情報が入りました。現在の被害の状況です。国境砦は、半壊状態で占領され、現在、敵軍の一部の部隊が守備に就いております。民間人の被害については、砦内で商売をしていた商人の内、十五人が殺害され、二十人程が、捕虜として連行され、砦内で国境通過のため待機をしていた旅人や冒険者の内、五十人が殺害されました。捕虜として連行されたものは、居りません。そして守備部隊の被害ですが、五千人の内、千名が戦死、五百名ほどが軽傷ないしは重傷でございます。現在、〔シテネモン要塞〕に民間人及び守備部隊の撤退が完了したと要塞司令官から知らせです。」

 軍務卿からの報告を聞き、会議には重苦しい空気が立ち込めた。宣戦布告なしの奇襲攻撃とは言え、ここまでの被害が出てしまった事に会議に参加している者たちが胸を痛めそして悲しんでいた。
 私は、この重苦しい空気を変えるためにこう発言した。

「皆、聞いてくれ。先の戦闘で亡くなった者たちに哀悼の意を奉げるため全員で黙祷をする。黙祷が終われば次のために我々がしなければならない事をしていく。よいな。」

 そう言って私は、立ち上がると部屋の壁に掲げられていると国旗に向き直った。すると宰相も、それに続き、そしてこう発した。

「皆で黙祷を奉げる。」

 その掛け声に従い参加者全員が立ち上がり、国旗の方に向くと、宰相が代表してこう言った。

「黙祷。」

 私は、目を閉じ首を少し下に向け、右手を揃え左胸に当て黙祷を奉げた。しばらくして宰相が声を発した。

「直れ。」

 私たちは、黙祷から直ると、再び椅子に着席し、今後の為の会議を再開した。

「まずは、今後奴らがどのような行動に出るか、考えなければならない。」

 宰相が、そう意見を述べると軍務卿が、挙手をして立ち上がるとこう言いだした。

「宰相閣下の申す通り、奴らがどのような行動に出るかによって我らの採れる戦略も変わってきます。ですが今のところ奴らは、我が国の領土を狙っているのは明らかでございます。よって開戦すべきであると具申いたします。」

 それを聞いた宰相は、外務卿の方へと顔を向けると意見を求めた。

「外務卿は、どう考える。」

 意見を問われた外務卿は、挙手をすると立ち上がりこう発言した。

「私も軍務卿の意見に賛成でありますが、停戦や講和などの外交努力は、続けるべきだと具申いたします。その為にも仲介をしてくれる国を選定すべきと心得ますが、如何でしょうか?」

 外務卿が席に着くと、参加者たちは、軍務・外務の両卿の意見が現実的な選択肢であると考えている様で、二人の意見に同調した発言がされだした。
私も二人の意見に賛成である。ただかの国の国王が、何を目的にしているのかを考える必要が有ると私は、思っていた。
大方の意見が出揃たのか宰相が、立ち上がり、私の方へとやって来てこう述べた。

「大方の意見は、出揃いましてございます。陛下、御決断を。」

 私は、資料と会議での皆の発言などを勘案し、決断を下した。

「我ら〔デイ・ノルド王国〕は〔ノースザルド王国〕に対して宣戦布告を行う。よって此れより王国全体に戦時体制への移行を宣言。王国軍及び諸侯軍の招集と出動を下令する。直ちに〔シテネモン要塞〕に援軍の派遣をせよ。」

 そう言うと軍務卿と将軍たちは、「はっ。」と言って部屋を慌ただしく出て行った。そして私は、外務卿を呼び押せるとこう命じた。

「外務卿、直ちに戦後に向けての外交交渉に入ってくれ。仲介国は、〔スカイテール連邦王国〕に打診してくれ。」

「はっ、直ちに向かいます。」

 そう言って外務卿も合議の間から出て行ったのであった。そして最後に残った宰相に私は、こう言った。

「あの男の真意が知りたい、探ってくれ。そしてもう一つ、最も簡単に講和へと持ち込む方法を考えてくれ。」

「はっ、全力を尽くして。」

 そう言うと宰相も合議の間から出て行き、私も少しして合議の間を後にすると執務室へと向かったのであった。





 そして最前線となる〔シテネモン要塞〕には、この様な命令が発せられた。

『籠城し、援軍の到着を待て。』
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