ノーベル賞受賞屋が乙女ゲームの世界に転生した。

鹿島 ギイチ

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第一部 第二章

第32話 救出と締結

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 〔ノース・ザルド王国〕首都 〔ザイルシティー〕王城 地下牢獄

「ハ~、早くこんな陰気臭い場所、トトっと出て行って町の酒場で、バーッとやりたいぜ。その後、家に帰ってぐっすりと寝てやる。」

 この〔ザイルシティー〕にそびえ立つ、首都の象徴と王家の威厳の証でもあるザルードレイス城の地下に設置されている牢獄を警備している牢番の一人が愚痴を零していた。
そんな愚痴を言った同僚に対してもう一人の牢番は、こう返した。

「まあまあ、ボヤくなって。後少しで交代時間だ。そうすればようやく解放されるんだからよ。もう少し我慢しようぜ。」

 そう言った同僚に対し、愚痴を言った同僚も「そうだな。」と言って牢獄の点検を終えると待機する為の部屋へと戻っていた。
そして交代時間が来るまで雑談を始めた。

「とは言っても、こんだけ人が居ないのって珍しことなんじゃないのかな?」

「うん? どうゆう事だ?」

 同僚の疑問に対しての牢番の男は、こう問い返した。

「数日前に前宰相閣下以外の囚人たちが、移送されていっただろう。貴賤関係なく。」

 その問いに対して、同僚はこう返した。する牢番の男も「そうだな。」と言って、こう返した。

「まさか陛下、何か起こると思っているのかな?」

「さあな、どっちにしても俺たちには関係ない事だ。とっ、時間だ。上がるぞ。」

 同僚は、受け答えをしながら時計を見て、交代時間を示していたため、立ち上がり、牢番の男にも時間を伝えた。

「おう、時間だな。じゃあ、行きますか。」

 そう言って牢番の男も時計を改めて確認すると立ち上がり、同僚と共に牢獄の出口へと向かっていったのである。
牢番たちの姿が見えなくなってから少し時間が立った頃、牢獄に人影が出現した。

「ふむ、宰相閣下以外は、移送されたと言う事か。これは良い情報を得た。殿下に報告せねば。」

 そして人影は、交代の牢番が来る頃には消えており、地下牢獄は何時もの通りの静けさと陰気臭さが漂う場所となっていた。そんな状態の牢獄を警備する牢番たちは、憂鬱な気分に成りながらも仕事を開始したのであった。





 〔ノース・ザルド王国〕首都 〔ザイルシティー〕城下町 とある廃屋

「と言う事は、彼らも助けなければこの作戦は、失敗する。そう言う事だね。」

「ご賢察の通りでございます。」

 僕ことエギル・フォン=パラン=ノルドは、城の地下牢獄から情報を持ち帰った森番長の報告を聞きこの見解に達していた。
そう僕たちが計画し実行している作戦とは、現国王とその支援者の貴族たちを取り除く為のクーデターである。
そのために旗頭となる第三王子と面会し、第三王子が、クーデターに参加する為の条件として宰相を救出するのが我々の目的であった。
宰相を助け出すことが出来れば、他に投獄されている人たちも宰相の権限で開放することが出来、首都〔ザイルシティー〕を占拠することが容易くなると考えていた。
しかし敵は、宰相以外を地下牢獄から何処かに移送しこちらに戦力が渡らない様に無意識に動いたのであった。

「その移送された人たちが、投獄されている場所は?」

 僕は、森番長に問うた。しかし森番長は、こう答えた。

「情報が不足しておりまして、正確な位置や規模などは、把握出来ておりません。」

「そうか、分からないか。」

 僕が、これ以上聞いても意味はないと諦めていると、森番長からこんな情報が、もたらされた。

「ただ、その施設の名前は、判明しています。」

 僕は、その情報を聞き続きを促した。

「どんな名前?」

 僕の促しを開けた森番長は、こう答えた。

「〔花園の園〕と呼ばれております。」

 僕は、その名前をきいて時間的猶予はないと判断し、森番長にこう聞いた。

「地下牢獄への侵入経路は?」

 森番長は、僕の問に素早く反応して城の詳細な見取り図を取り出すと、こう切り出した。

「地下牢獄へのルートは、二つあります。一つは距離はありますが見張りの数は然程多くありません。もう一つは、距離は近くですが城の重要施設内を通るため警備が厳重です。」

 僕はその説明を聞き、さらにこう尋ねた。

「警備が担当している場所以外に動く可能性は?」

「十分に考えられます。更に士官たちが警備区域関係なく見回っています。」

 森番長は、僕が示した懸念点の他に重要な情報も正確に伝えてくれた。それを受け僕は、気取られずに地下牢獄へ侵入するには、警備の兵とその兵を指揮する士官たちを全員眠らせ、更にその事を認識させない事が、カギとなると考えた。
そこで僕は、ユナ師匠に頼んで貸してもらっていた魔導書を取り出すと、そんな魔法が有るか探し出し始めた。
すると夢の中に現実を映し、それを現実として受け入れると言う魔法が存在していた。そしてその魔法に使用される魔力の量も僕にとっては、微々たる物であった。しかし欠点が、存在した。
それは効果範囲の狭さである。この魔法の効果範囲は精々一般的な家の広さまであった。
とても城全体をカバーできるものではない。何か別の手も考えなければならないと思った時、今まで黙っていたリウム先生がこう言って来た。

「効果範囲を広げることは、出来るわよ。」

 リウム先生が教えてくれた方法は、非常に簡単なものであった。僕はそれを採用すると作戦を開始する為の準備を開始する様、森番長に命じ、僕もとある作業を開始したのであった。

 そして諸々の準備整ったその日の夜。僕と森番長たちは黒いローブを纏い王城へと建物の屋根を伝いながら進んでいた。
そしてある地点に着くと僕と森番長たちは別れ、行動を開始した。

 僕は、「飛翔<フライ>」と唱え魔術を発動させ、城の一番高い尖塔の屋根へと飛び、そこに着地すると詠唱を開始した。

「現実を映す鏡・夢を映す鏡・反転し・その者たちに・偽りの現実を・眠り・与えよ。」

 そう詠唱すると城の周りから魔力を特に鋭敏に感じることが出来る者しか見る事の出来ない魔力光が立ち上ると僕を中心にして集まり、城全体を包んだ。それを受け僕は、魔法名を唱えた。

「<ドリーム・オブ・リアリティー>」

 魔法が発動し、城全体にその影響が現れた。魔法が発動するまでに城の中にいた者たちが、立ったまま眠りながら動いているのである。
これで森番長たちの安全が確保されたと判断した僕は、合図を森番長に送りそこで待機することにした。
 そして十数分後、森番長たちが無事に任務を終えた証となる合図を僕は、確認すると魔法を解除し再び「飛翔<フライ>」の魔術で飛ぶと森番長たちとの会合地点へと向かい、無事合流すると、廃屋へと向かったのであった。

 隠れ家となっている廃屋に到着すると中では、リウム先生と外務卿がディニール宰相と話し合っており、〔花園の園〕の位置とこれからの事を話し合っていた。
ディニール宰相は、数か月の牢獄生活で若干の衰弱が見られたが、我々の部隊に同行していた軍医によると食事をしっかり摂れば回復する程度の物であった。
その報告を受け僕は、ディニール宰相が座っている椅子に近ずくと、僕を見た宰相は驚き慌てて立ち上がり他国の王族に対する礼を取りこう言って来た。

「エギル殿下、三歳の誕生日に拝謁して以来の拝謁でございます。〔ノース・ザルド王国〕で宰相の任に就いておりました、キナモル・フォン・ディニールでございます。再びこうして生きてお会いできることを光栄に思います。」

「ありがとうございます。ディニール宰相。〔デイ・ノルド王国〕第一王子、エギル・フォン=パラン=ノルドです。僕も再び会えて光栄です。」

 そう言って僕は、宰相の手を取り立たせると握手を交わしたのであった。そして僕を交えた話し合いが始まり、ディニール宰相は、こう切り出した。

「殿下が、我が国にいらっしゃった理由は、両国の戦争状態を止める手立てが一つしかないと考えての事でしょう。その方法とは、クーデターであると。」

 その言葉に僕を含めた全員が息を呑んだ。その様子を見て自分の推測が間違っていなかったと確認できたディニール宰相は、こう言って来た。

「やはりそうですか。バカを止めるにはその方法しかありませんか。先王陛下や歴代様たちに何とお詫びをもし上げればよいのか、分かりません。」

 その言葉に対して僕は、こう問いかけた。

「では、ディニール宰相。戦争を止めるためクーデターに参加していただけると言う事ですね。」

「はい、ワシもこれ以上我が国の民も貴国の民も傷つけたくはありませんので。」

 ディニール宰相は、こう返してきた。

 そしてディニール宰相の参加を受けて僕たちと第三王子との同盟関係が成立し、僕たちはディニール宰相と共に〔ザイルシティー〕を後にし第三王子が編成した部隊と合流し、〔花園の園〕のへと向かったのであった。
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