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第2章 生贄の月下美人
第19話 奪還
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2枚の翼をバサァッ…!と羽ばたかせるジン。
その翼で飛ぶ事は出来ない。だが、圧倒的な力を龍神に見せつける。
「俺の能力は貫。……2枚の翼で充分だったな!ふぅ…良かったぁぁぁ」
ジンはふうううう!と息を思いっきり吐いて凛々しい顔から一変、安堵の表情を浮かべた。
それを見たアリスはマナに尋ねる。
「ジンって……羽根持ちなのね!」
「うん。貫の能力。一枚羽根で鋼をも貫く武器に変える。二天翼で鋼をも貫く+鋼以上の強度&複数の武器に貫き効果を与える武器に変化する…らしいけど本当のとこはあんまり良く知らない」
「!!アリス!マナ!逃げろ!!!!」
ソーマとジンの声が重なって危険を知らせる。
はっ!となって2人は前を見据えた。
目の前には水の吐息が迫っている!アリスは咄嗟に水晶厚盾を召喚するがすぐに後悔した。
ゴシャアアア!!!
私の盾じゃ防げないんだった…!!
盾で防げなかった分の水の吐息の余波がマナとアリスに直撃した。
「っ…はっ」
生身の人間が受けるには強力すぎるその余波に2人は吹っ飛ばされ壁に激突し、気を失ってしまう。
「なんという事を…!妾があの2人を安全な場所へ移動させる!」
「すまねぇ!頼む!!」
サクヤは能力を使って壁に糸を張り巡らせその上を駆けていく。
それに気づいた龍神は貫かれた右頭を再び確認し、怒りの憤怒にまみれる。それぞれの中央、左のそれぞれの頭がサクヤとジンを襲う。
「また貫かれてぇのか?」
愛刀を構えるジン。しかし、
バッシャアアア!!
「!!?」
それは長い長い龍神の尾ひれだった。尾ひれがジンを捕らえ、水中へと引きずり込んだ。
「ジン!?」
サクヤが空中で立ち止まる。
「サクヤ!ジンは俺が救出する!アリスたちを……!ぐっ!!」
ソーマに龍神が襲いかかる。
くそ、これじゃ助けに行けない!盗賊の技を持たないサクヤに助けに行かせるのは危険だ!
………ジン…!
水中でジンは、自分を溺死、絞殺させようとする龍神の尾びれを掴み、もがいていた。
「(やべぇ…このままじゃ…)
次第に息が苦しくなっていく。それだけじゃない、どんどんと締め付ける力が強くなってくるのが分かる。
ごぱあっ…!と締め付けの強さに耐え切れず息を漏らしてしまう…
い、意識が………っ…
*
「は、離せ!私を捕らえるとは何事だ!!」
「うるせぇよ!!てめーを差し出せば龍神様のお怒りも冷めるんだ!!」
サクヨを捕らえた僕たちは口を揃えて早く差し出せ!と叫ぶ。
今まで自分に従ってた僕たちなのに、いざという時には自分を見捨てる。サクヨはよく分からない感情に堕ちてしまいそうになる。
「品のない人たちですね」
ドガアッ!とサクヨを無理矢理引っ張っていた男の体が吹っ飛ぶ。
聞いた事のある声だ。とても耳に残る心地よい声だったからよく、覚えてる。確か…
「ジゼル…さん?」
「はい。お怪我は?」
にこっ。と微笑み紳士な態度で対応してくれるジゼルにサクヨは少しだけ胸がときめいた。
「だっ、大丈夫だ!あ、ありがとう!」
サクヨは堪らず後ろを向く。
照れて赤くなっていた顔が後ろを向いた途端にサッ…と青みを帯びた。
「お、お祖父様…」
サクタロウが冷徹な目でサクヨを睨みつけていた。周りにいた僕たちはサクタロウの元へ駆け出す。
「サクヨよ。お前、分かっているのか?」
「…え」
「…お前のした事は重罪じゃぞ!!分かっておるのかあああっ!!」
ひっ…!と身体が竦み、カタカタ…と震えだす。
怖い…龍神なんかよりもこの、お祖父様の方が…怖い……!
怖い、怖いよ…
止まらない震えに身を抱きしめ、挫けそうになってしまう…だが、その時だった。
そっ、と自分の肩に大きな手が乗っていた。その大きな手の持ち主は、綺麗な低音ボイスで大丈夫です、と耳元で囁くと私の前に出て……
「死と戦うことを重罪だと言うのですか?」
「ふざけんじゃねぇ!!!」
その場にいた全員が固まった。出会って間もないとはいえ、紳士的な印象のジゼルがまさか怒鳴るなんて。
「って、貴方のご両親は仰るでしょうね」
再び、元の話し口調に戻り、サクタロウは動揺しながらも「何が…いいたいんじゃ」と口を開いた。
「いえ、今のは私自身の話です。でも、貴方にも当てはまるのではないでしょうか?」
サクタロウは意味深な言い方をするジゼルの発言に周囲の僕たちが動揺し始めている事に気づいた。
このまま、この男を放置しておいては不味い。仕留めねば。
「小僧。二度と口を開けぬ様にしてくれる」
「致し方ありませんね。出来れば争いは避けたかったのですが」
2人はじっ、と対峙した。その時にジゼルは気づいた。
サクタロウの腰に秘密袋が結び付けてある事に。
早くソーマに届けないと。そんな事を考えていたら先手を取られた。
「小僧!気の緩みは命取りじゃぞ!!」
「っ!!」
ヒュンッ!とジゼルの頬を掠めた何か。
ポタッ…と赤い雫がジゼルの頬をゆっくりと伝う。
何かが切り裂いた…?
「避けて下さい!ジゼルさん!!」
避けろというサクヨの指示に従い闇雲にその場から大きく飛びのいた。
さっきまでジゼルのいた場所に大量の……
バサァッっ!!ゴオオオオオ!!
「これはっ…落ち葉!?」
そう、それは大量の落ち葉だった。枯葉だけでなく、まだ新しい青々とした葉っぱも含まれている。
驚くジゼルを尻目にサクタロウはにいっと口角を上げ、話し出す。
「儂だって能力くらい使えるわい!落ち葉を鋭い刃物の様な切れ味にしてそれを操る能力……じゃ!!」
ゴバアアアアアっ!!とジゼルに向かって大量の落ち葉の旋風が襲いかかる。
「くっ!!アヴァルヴェール!頼みますよ!」
細剣の名前を呼び、技を繰り出す。
「水の都!!」
カッ!カカカカカカッ!!!!
細剣を右手、左手に持ち替え大量の落ち葉を一枚一枚、確実に剣圧で撃ち落とす。
最後の一枚を撃ち落とし、ピッ!と細剣に纏わりついた落ち葉の残骸を払い、サクタロウに向かって走り出した。
「そっ、その剣技は…小僧まさか、高等貴族・櫻木家の者か!!?」
サクタロウはジゼルの細剣を避け、距離を取った。額には冷や汗がじわっと浮かんでいる。
「と、という事はっ…きっ、貴様っは…櫻木ジゼル…!?」
「あまり私の事を話さないで下さい」
スチャッ…といつの間に近づかれたのだろう?サクタロウの首元には鋭く光る細剣が添えられていた。
「…櫻木よ。主もまた宿命から逃れられぬ哀れな男よ」
「そんな事。重々承知してますよ」
「櫻木ジキルはお前を執拗に探しているぞ」
櫻木ジキル。その名を聞いたジゼルは瞳を大きく見開いた。…が、直ぐに平静を装い、
「知ってます」
サクタロウの腰から秘密袋をぶん取り、細剣を納め、サクヨと共に龍神との戦いに合流すべくその場を後にした。
サクタロウは最早追いかけない。
「本当に、残酷な運命よ」
ジゼルの背中にそう、呟いた。
第19話 奪還 ~end~
その翼で飛ぶ事は出来ない。だが、圧倒的な力を龍神に見せつける。
「俺の能力は貫。……2枚の翼で充分だったな!ふぅ…良かったぁぁぁ」
ジンはふうううう!と息を思いっきり吐いて凛々しい顔から一変、安堵の表情を浮かべた。
それを見たアリスはマナに尋ねる。
「ジンって……羽根持ちなのね!」
「うん。貫の能力。一枚羽根で鋼をも貫く武器に変える。二天翼で鋼をも貫く+鋼以上の強度&複数の武器に貫き効果を与える武器に変化する…らしいけど本当のとこはあんまり良く知らない」
「!!アリス!マナ!逃げろ!!!!」
ソーマとジンの声が重なって危険を知らせる。
はっ!となって2人は前を見据えた。
目の前には水の吐息が迫っている!アリスは咄嗟に水晶厚盾を召喚するがすぐに後悔した。
ゴシャアアア!!!
私の盾じゃ防げないんだった…!!
盾で防げなかった分の水の吐息の余波がマナとアリスに直撃した。
「っ…はっ」
生身の人間が受けるには強力すぎるその余波に2人は吹っ飛ばされ壁に激突し、気を失ってしまう。
「なんという事を…!妾があの2人を安全な場所へ移動させる!」
「すまねぇ!頼む!!」
サクヤは能力を使って壁に糸を張り巡らせその上を駆けていく。
それに気づいた龍神は貫かれた右頭を再び確認し、怒りの憤怒にまみれる。それぞれの中央、左のそれぞれの頭がサクヤとジンを襲う。
「また貫かれてぇのか?」
愛刀を構えるジン。しかし、
バッシャアアア!!
「!!?」
それは長い長い龍神の尾ひれだった。尾ひれがジンを捕らえ、水中へと引きずり込んだ。
「ジン!?」
サクヤが空中で立ち止まる。
「サクヤ!ジンは俺が救出する!アリスたちを……!ぐっ!!」
ソーマに龍神が襲いかかる。
くそ、これじゃ助けに行けない!盗賊の技を持たないサクヤに助けに行かせるのは危険だ!
………ジン…!
水中でジンは、自分を溺死、絞殺させようとする龍神の尾びれを掴み、もがいていた。
「(やべぇ…このままじゃ…)
次第に息が苦しくなっていく。それだけじゃない、どんどんと締め付ける力が強くなってくるのが分かる。
ごぱあっ…!と締め付けの強さに耐え切れず息を漏らしてしまう…
い、意識が………っ…
*
「は、離せ!私を捕らえるとは何事だ!!」
「うるせぇよ!!てめーを差し出せば龍神様のお怒りも冷めるんだ!!」
サクヨを捕らえた僕たちは口を揃えて早く差し出せ!と叫ぶ。
今まで自分に従ってた僕たちなのに、いざという時には自分を見捨てる。サクヨはよく分からない感情に堕ちてしまいそうになる。
「品のない人たちですね」
ドガアッ!とサクヨを無理矢理引っ張っていた男の体が吹っ飛ぶ。
聞いた事のある声だ。とても耳に残る心地よい声だったからよく、覚えてる。確か…
「ジゼル…さん?」
「はい。お怪我は?」
にこっ。と微笑み紳士な態度で対応してくれるジゼルにサクヨは少しだけ胸がときめいた。
「だっ、大丈夫だ!あ、ありがとう!」
サクヨは堪らず後ろを向く。
照れて赤くなっていた顔が後ろを向いた途端にサッ…と青みを帯びた。
「お、お祖父様…」
サクタロウが冷徹な目でサクヨを睨みつけていた。周りにいた僕たちはサクタロウの元へ駆け出す。
「サクヨよ。お前、分かっているのか?」
「…え」
「…お前のした事は重罪じゃぞ!!分かっておるのかあああっ!!」
ひっ…!と身体が竦み、カタカタ…と震えだす。
怖い…龍神なんかよりもこの、お祖父様の方が…怖い……!
怖い、怖いよ…
止まらない震えに身を抱きしめ、挫けそうになってしまう…だが、その時だった。
そっ、と自分の肩に大きな手が乗っていた。その大きな手の持ち主は、綺麗な低音ボイスで大丈夫です、と耳元で囁くと私の前に出て……
「死と戦うことを重罪だと言うのですか?」
「ふざけんじゃねぇ!!!」
その場にいた全員が固まった。出会って間もないとはいえ、紳士的な印象のジゼルがまさか怒鳴るなんて。
「って、貴方のご両親は仰るでしょうね」
再び、元の話し口調に戻り、サクタロウは動揺しながらも「何が…いいたいんじゃ」と口を開いた。
「いえ、今のは私自身の話です。でも、貴方にも当てはまるのではないでしょうか?」
サクタロウは意味深な言い方をするジゼルの発言に周囲の僕たちが動揺し始めている事に気づいた。
このまま、この男を放置しておいては不味い。仕留めねば。
「小僧。二度と口を開けぬ様にしてくれる」
「致し方ありませんね。出来れば争いは避けたかったのですが」
2人はじっ、と対峙した。その時にジゼルは気づいた。
サクタロウの腰に秘密袋が結び付けてある事に。
早くソーマに届けないと。そんな事を考えていたら先手を取られた。
「小僧!気の緩みは命取りじゃぞ!!」
「っ!!」
ヒュンッ!とジゼルの頬を掠めた何か。
ポタッ…と赤い雫がジゼルの頬をゆっくりと伝う。
何かが切り裂いた…?
「避けて下さい!ジゼルさん!!」
避けろというサクヨの指示に従い闇雲にその場から大きく飛びのいた。
さっきまでジゼルのいた場所に大量の……
バサァッっ!!ゴオオオオオ!!
「これはっ…落ち葉!?」
そう、それは大量の落ち葉だった。枯葉だけでなく、まだ新しい青々とした葉っぱも含まれている。
驚くジゼルを尻目にサクタロウはにいっと口角を上げ、話し出す。
「儂だって能力くらい使えるわい!落ち葉を鋭い刃物の様な切れ味にしてそれを操る能力……じゃ!!」
ゴバアアアアアっ!!とジゼルに向かって大量の落ち葉の旋風が襲いかかる。
「くっ!!アヴァルヴェール!頼みますよ!」
細剣の名前を呼び、技を繰り出す。
「水の都!!」
カッ!カカカカカカッ!!!!
細剣を右手、左手に持ち替え大量の落ち葉を一枚一枚、確実に剣圧で撃ち落とす。
最後の一枚を撃ち落とし、ピッ!と細剣に纏わりついた落ち葉の残骸を払い、サクタロウに向かって走り出した。
「そっ、その剣技は…小僧まさか、高等貴族・櫻木家の者か!!?」
サクタロウはジゼルの細剣を避け、距離を取った。額には冷や汗がじわっと浮かんでいる。
「と、という事はっ…きっ、貴様っは…櫻木ジゼル…!?」
「あまり私の事を話さないで下さい」
スチャッ…といつの間に近づかれたのだろう?サクタロウの首元には鋭く光る細剣が添えられていた。
「…櫻木よ。主もまた宿命から逃れられぬ哀れな男よ」
「そんな事。重々承知してますよ」
「櫻木ジキルはお前を執拗に探しているぞ」
櫻木ジキル。その名を聞いたジゼルは瞳を大きく見開いた。…が、直ぐに平静を装い、
「知ってます」
サクタロウの腰から秘密袋をぶん取り、細剣を納め、サクヨと共に龍神との戦いに合流すべくその場を後にした。
サクタロウは最早追いかけない。
「本当に、残酷な運命よ」
ジゼルの背中にそう、呟いた。
第19話 奪還 ~end~
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