天の龍 地の女神

第53話 宇宙龍の環にある双龍

　現リーネ族女王のリーザ。
　宇宙龍の環の正統な所有者である。
　3種の神器の内、バルムンクの剣とソロモンの指輪は、リーネ族であれば、誰でも使えるが、宇宙龍の環だけは、継承の儀を通った王族しか使えない。

　カイルとリーナは、リーザの後継として、宇宙龍の環継承の儀に挑んだことはあるが、通過することはできなかった。
　恐らく2人が混血児であることが原因であると思われる。

　宇宙龍の環は、2匹の龍が互いの尾を食む円形状の姿をしており、未来永劫、世界が続いていく無限性や完全性を象徴している。
　継承の儀を通った者の額に王冠のごとく収められ、ディーンの意志に沿った願いであれば、所有者の願いを何でも叶えるリーネ族の至宝である。

　女王リーザが魔界に捕らわれていた間、2匹の龍のエネルギーを抑制できる者がいなかったので、永らく、いくつかのピースに分けて保管されていた。

　リーネ族最後の女王リーザが亡くなれば、純血統の王族は途絶え、宇宙龍の環を扱える者はこの世からいなくなる。

　「母上が死ねば、宇宙龍の環を制御できる者がいなくなる。それは魔族にとっても、都合の悪いことなんじゃないの」
　リーナは難しい顔をして問いかけた。

　宇宙龍の環が各ピースに分けられバラバラにされていた間、2匹の龍は互いを絶えず強い力で呼び合っていた。
　油断すると、他のピースの元に翔んでいこうとするので、リーナたち各自が地下に厳重に封印していたのである。

　妙土にリーザの意識が出現して以来、宇宙龍の環が哭くことはなくなったが、所有者がいなくなればどうなるのか見当もつかない。

　「魔族が制御できないものがこの世に存在していることが許せないね。母上がいる限り、魔族は宇宙龍の環で地上への進出を阻まれる。
　しかし、おかしな話じゃないか。神々の血統や力を薄めないよう魔族の王族は近親婚を繰り返してきた。
　バアル神の直系である父上はなぜ宇宙龍の環に対抗できないんだろうか。僕たち混血児ですら、もて余すくらいの高い能力があるというのに、まして純血だろ？
　･･･まあいい。父上ができないのなら、僕がこの手で母上を殺す」
　ランティスは邪悪な笑みを浮かべた。　

　「あなたは・・・、何を考えているの？何が望みなの？」
　「僕が望むのは君だよ。君は僕と対になるのにふさわしい。姿も能力も」
　リーナが反論しようとするのを押さえるかのように、ランティスは素早く口づけた。

　ランティスとリーナ。
　2人のアクアマリンの瞳が互いを捉え視線が交錯した。
　リーナはこれ以上のランティスの浸入を拒むように、歯をきつく噛みしめた。