天の龍 地の女神

常盤 舞子

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第57話 親子の対話

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 緊迫した空気が流れる。
 カイルは何と言って良いかわからず、母リーザと兄ランティスを見つめていた。
 リーザに対するランティスの憎悪は正当ではないのか。誰だって赤子の時に殺されそうになれば、実の母であろうと恨みたくもなるだろう。

 「リーヴィシラン、お前は父上の魂を分けられて、ことのほか母上にご執心のようだね」
 ランティスがカイルに話を向ける。
 「・・・だったら、どうだというんだ」
 「お前を殺して僕にその魂を移植しようかな。そうすれば、母上への憎悪が止むかもしれない。
 この女の存在には虫酸がはしって仕方がない。
 お前にはこの女の腹黒さがわからないのか?お前やリーナを僕やリーデイル叔父上と闘わせようとしている。混血児を倒すのに混血児を充てようとしているわけだ」
 「だが、母上に手を出せば父上の逆鱗に触れるぞ」

 「その通りだ、ランティス。リーザを開放しろ」
 威圧的な介入者は魔王ラディリオンその人であった。
 圧倒的な美貌と存在感はその場にいた者たちを威圧した。
 
 「父上は本当に母上が大事なんですね」
 ランティスはため息とともにリーザを解放した。突然解放された勢いで床に投げ出される。
 自分の腕をさすりながらリーザはランティスを睨む。

 「大丈夫か?」
 ラディリオンはリーザが立ち上がるのに手を貸した。
 「・・・すまない」
 リーザが一瞬ためらい、憮然としながらもラディリオンの手をとり、彼の腕に寄りかかったのを見て3人の子たちは気恥ずかしさを感じた。ランティスは不機嫌そうにそっぽを向く。

 「ランティス、勝手な真似をするな。リーザを傷つければお前でもただでは済まない」
 ラディリオンが冷たく言い放つ。
 
 「そんなに大事なら母上を王宮に縛りつけといてくださいよ」
 ランティスが恨めしそうに答える。
 「僕は自分を殺そうとした母上を許せませんから、視界に入れば攻撃します。母上も僕を殺したいみたいだし」
 「ランティス、お前には魔界の内政を任している。なぜ地上に出てリーナを連れてきた。」
 「魔界で大人しくしているのは我慢の限界ですよ。僕だけじゃない。魔王が甦ったいま、魔界の住人は皆、地上の大日蝕を待ちわびている。なぜいまだに父上は大日蝕を起こさないのですか?」

 「・・・大日蝕だと!?冗談じゃない!」
 リーザが猛然と反発した。
 「地上から太陽を消してみろ。地上は大混乱だ。ランティス、お前はリーネ族がなぜ地上の人間たちを守るのかわかっているのか?」
 「ディーンから託されたからでしょう?」
 「ディーンはなぜリーネ族に人間たちを託したと思う?人間は・・・」
 
 「もうよい」
 ラディリオンはリーザを遮った。
 「ランティスは下がれ。リーザやリーナに手を出すのは許さん。
 リーヴィシラン、リーナ、お前たちは魔界を知らなかったな。リーザとともにしばらく魔界に逗留するがいい。「塔」はいるか?」

 「控えております」
 黒髪、碧眼の男がいつのまにか魔王ラディリオンの側に立っていた。
 容姿は美しいが、疲労感の濃い表情は老けた印象を与えた。
 アクアマリンを落としたような瞳を見れば一目でリーネ族の眷族とわかる。
 「塔」とは魔界の戦闘集団アルカナの一人である。

 「リーヴィシランとリーナを王宮に案内してくれ。リーザも・・・」
 「ごめんなさい!私はリーザさんではありません!」
 リーザは、いや妙土は青ざめて頭をふっている。

 このタイミングで妙土に戻るのか?
 カイルは母リーザに脱力した。武装解除をして妙土になったということは、ラディリオンに従えということだろうか。どうして前ぶれもなく変わるのか。
 どのみち、弱っているリーナと妙土の二人を抱えて魔界脱出は無理である。

 「案内してもらおうか」
 カイルは覚悟を決めた。
 リーナは、苦虫をかみつぶしたような顔をして、そっと目を閉じた。
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