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3.魔術具の改修①
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「あなたが、リフィリーゼさんですか?」
筆頭宮廷魔法使いに早く戻るように注意を受け、薬草園で採れた薬草の入った籠を抱えて、がさごそと音を立てながらリフィリーゼが走っていると、突然後ろから声をかけられた。
「うぇ!?」
びっくりしたリフィリーゼが土埃を立てて立ち止まり、白みがかった金髪の、後ろに一つで編み込まれた長い髪をバサリと舞わせて振り返った。
「え、はい! なにかありましたか?」
リフィリーゼの所作にびくりと飛び上がった小さな女性が、手元に大事そうに抱えた書物を抱き直しながら一度視線を地面に向けた。そして、決意したように顔を上げて、口を開いた。
「……我が家に継がれる魔術具を、直していただけませんか?」
「魔術具の改修……?」
リフィリーゼが小首を傾げ、仕事途中だからと翌日お昼に昼食を共に摂る約束をして、二人は別れたのだった。
「……っ、すみません! お待たせいたしました!」
リフィリーゼが少し遅れて食堂に到着すると、その声を聞いて顔を上げた女性が小さく悲鳴を上げた。
「ひぃ、筆頭宮廷魔法使い!?」
「リフィリーゼに声をかけてくれたようだけど、宮廷魔法使いへの依頼は例外はなく、上司が判断しないといけなくてねぇ」
ごめんなさいねぇ、とリフィリーゼの横に腰掛けた筆頭魔法使いは、同席を決して譲ることなくどこからか取り出したハーブティーを一杯、口に含んだのだった。
「リフィリーゼはサンドウィッチだけかい? もう少し栄養を摂らないといけないよ……ほら、野菜のスープだ」
リフィリーゼが雑穀パンで作ったハムとレタスのサンドウィッチを取り出したのを見て、筆頭宮廷魔法使いがどこからかスープを取り出してリフィリーゼの前に置いた。
「あなたは……キチンとした料理を頼んであるようだね」
女性の前に置いてある食堂のランチセットを見て、筆頭宮廷魔法使いは笑みを深め、自分の料理を取り出した。
出来立てのグラタンに、リフィリーゼにあげたのと同様の黄金に輝く野菜スープ。どこからかとりだしたパンを、これもどこからか取り出したパン切り包丁で小さく切って、またどこかに仕舞う。お皿の上にサラダが並べられた。大きなこんがりと焼かれたチキンを取り出し、ナイフで食べやすく切ったものをサラダの上に載せ、カトラリーを綺麗に並べた。料理は全て焼きたて作りたてのようで、漂う香りは周囲の目を惹く。
「リフィリーゼ。たまには、きちんとしたマナーを使いな。たまに使わないと忘れてしまうからねぇ」
そう言って、チキンにすぅっとナイフを滑らせた筆頭宮廷魔法使いを見て、女性が遠慮がちに口を開いた。
「……食堂って、食事の持ち込み禁止では……?」
その言葉に吃驚した表情を浮かべるリフィリーゼに、筆頭宮廷魔法使いは小さく、くくくと笑って言った。
「そんなもの、魔法使いには関係ないよ。ダメなら入口にでも大きく書いておいてもらわないとねぇ」
女性が食堂の厨房に視線を向けると、小さく首を振られ、魔法使いは許されている事実を認識したところで、リフィリーゼが口を開いた。
「ふぇ、魔術具の改ふゅう……でひたっへ?」
「これ、リフィリーゼ。口に物を入れて話さない。何を言っているかわからないだろう?」
こくりと飲み込んだリフィリーゼがもう一度口を開いた。
「で、魔術具の改修、でしたっけ?」
「全く。薬草園から戻ってきたこの子はそのことで頭がいっぱいになってしまったようでねぇ。仕事に手がつかず何度叱ったかわからないよ。次から話しかけるときは、仕事に支障のない時にしてもらいたいねぇ」
筆頭宮廷魔法使いがそう言ったため、女性は縮こまって謝罪を述べた。
「す、すみません。そんなつもりはなくて」
「この子はそういう気質だ。今回でそれがわかってもらえたら、それでいい」
そう言った筆頭宮廷魔法使いは、美しい所作で料理を楽しみ始めた。口を挟むつもりはないようで、素直に食事を楽しんでいる。
「あの、リフィリーゼさん」
「ふ?」
口いっぱいで話さない。それを気をつけながら、リフィリーゼが返答する。
「我が家に継がれる魔術具、過去見の鏡を直していただけませんか?」
「わ、わたし……魔術具なんて直したこと、ありませんよ!?」
慌てて口に詰まった食事を飲み込み、困った様子でそう返答するリフィリーゼに、女性は小さく頷いて口を開いた。
「知っています。ただ、リフィリーゼさんは宮廷魔法使いの中でも、魔法の適性が高いと聞きました。我が家……エストランケ家に伝わる過去見の鏡は、魔法適性の高い方しか直せないそうなんです」
エストランケ家のルミアと名乗った女性は、過去見の鏡について語り始めた。
「私のお祖父様が健在な頃は、過去見の鏡は普通に使えていました。ある時、ある過去見をしてから使えなくなったと聞いています。何件も魔術具の修理店を巡りましたが、どの魔術具店でも過去見の鏡を直すには、職人の魔法適性が足りないと返されました」
「まぁ、確かにリフィリーゼの魔法適性は恐ろしいほど高いからねぇ。初めて見たよ。このあたしよりも魔法適性の高い人間を」
口を開いた筆頭宮廷魔法使いにルミアは目を輝かせた。
「筆頭宮廷魔法使いよりも高いなんて、すごいです! 一応、私の方でもいくつか書物を漁って、魔術具の直し方について調べてみたのですが……」
「わたしの適性、そんな高いのものなのかな……?」
首を傾げたリフィリーゼはぱくりとサンドウィッチに齧りつき、ルミアが捲る書物を遠目から眺めるのだった。
筆頭宮廷魔法使いに早く戻るように注意を受け、薬草園で採れた薬草の入った籠を抱えて、がさごそと音を立てながらリフィリーゼが走っていると、突然後ろから声をかけられた。
「うぇ!?」
びっくりしたリフィリーゼが土埃を立てて立ち止まり、白みがかった金髪の、後ろに一つで編み込まれた長い髪をバサリと舞わせて振り返った。
「え、はい! なにかありましたか?」
リフィリーゼの所作にびくりと飛び上がった小さな女性が、手元に大事そうに抱えた書物を抱き直しながら一度視線を地面に向けた。そして、決意したように顔を上げて、口を開いた。
「……我が家に継がれる魔術具を、直していただけませんか?」
「魔術具の改修……?」
リフィリーゼが小首を傾げ、仕事途中だからと翌日お昼に昼食を共に摂る約束をして、二人は別れたのだった。
「……っ、すみません! お待たせいたしました!」
リフィリーゼが少し遅れて食堂に到着すると、その声を聞いて顔を上げた女性が小さく悲鳴を上げた。
「ひぃ、筆頭宮廷魔法使い!?」
「リフィリーゼに声をかけてくれたようだけど、宮廷魔法使いへの依頼は例外はなく、上司が判断しないといけなくてねぇ」
ごめんなさいねぇ、とリフィリーゼの横に腰掛けた筆頭魔法使いは、同席を決して譲ることなくどこからか取り出したハーブティーを一杯、口に含んだのだった。
「リフィリーゼはサンドウィッチだけかい? もう少し栄養を摂らないといけないよ……ほら、野菜のスープだ」
リフィリーゼが雑穀パンで作ったハムとレタスのサンドウィッチを取り出したのを見て、筆頭宮廷魔法使いがどこからかスープを取り出してリフィリーゼの前に置いた。
「あなたは……キチンとした料理を頼んであるようだね」
女性の前に置いてある食堂のランチセットを見て、筆頭宮廷魔法使いは笑みを深め、自分の料理を取り出した。
出来立てのグラタンに、リフィリーゼにあげたのと同様の黄金に輝く野菜スープ。どこからかとりだしたパンを、これもどこからか取り出したパン切り包丁で小さく切って、またどこかに仕舞う。お皿の上にサラダが並べられた。大きなこんがりと焼かれたチキンを取り出し、ナイフで食べやすく切ったものをサラダの上に載せ、カトラリーを綺麗に並べた。料理は全て焼きたて作りたてのようで、漂う香りは周囲の目を惹く。
「リフィリーゼ。たまには、きちんとしたマナーを使いな。たまに使わないと忘れてしまうからねぇ」
そう言って、チキンにすぅっとナイフを滑らせた筆頭宮廷魔法使いを見て、女性が遠慮がちに口を開いた。
「……食堂って、食事の持ち込み禁止では……?」
その言葉に吃驚した表情を浮かべるリフィリーゼに、筆頭宮廷魔法使いは小さく、くくくと笑って言った。
「そんなもの、魔法使いには関係ないよ。ダメなら入口にでも大きく書いておいてもらわないとねぇ」
女性が食堂の厨房に視線を向けると、小さく首を振られ、魔法使いは許されている事実を認識したところで、リフィリーゼが口を開いた。
「ふぇ、魔術具の改ふゅう……でひたっへ?」
「これ、リフィリーゼ。口に物を入れて話さない。何を言っているかわからないだろう?」
こくりと飲み込んだリフィリーゼがもう一度口を開いた。
「で、魔術具の改修、でしたっけ?」
「全く。薬草園から戻ってきたこの子はそのことで頭がいっぱいになってしまったようでねぇ。仕事に手がつかず何度叱ったかわからないよ。次から話しかけるときは、仕事に支障のない時にしてもらいたいねぇ」
筆頭宮廷魔法使いがそう言ったため、女性は縮こまって謝罪を述べた。
「す、すみません。そんなつもりはなくて」
「この子はそういう気質だ。今回でそれがわかってもらえたら、それでいい」
そう言った筆頭宮廷魔法使いは、美しい所作で料理を楽しみ始めた。口を挟むつもりはないようで、素直に食事を楽しんでいる。
「あの、リフィリーゼさん」
「ふ?」
口いっぱいで話さない。それを気をつけながら、リフィリーゼが返答する。
「我が家に継がれる魔術具、過去見の鏡を直していただけませんか?」
「わ、わたし……魔術具なんて直したこと、ありませんよ!?」
慌てて口に詰まった食事を飲み込み、困った様子でそう返答するリフィリーゼに、女性は小さく頷いて口を開いた。
「知っています。ただ、リフィリーゼさんは宮廷魔法使いの中でも、魔法の適性が高いと聞きました。我が家……エストランケ家に伝わる過去見の鏡は、魔法適性の高い方しか直せないそうなんです」
エストランケ家のルミアと名乗った女性は、過去見の鏡について語り始めた。
「私のお祖父様が健在な頃は、過去見の鏡は普通に使えていました。ある時、ある過去見をしてから使えなくなったと聞いています。何件も魔術具の修理店を巡りましたが、どの魔術具店でも過去見の鏡を直すには、職人の魔法適性が足りないと返されました」
「まぁ、確かにリフィリーゼの魔法適性は恐ろしいほど高いからねぇ。初めて見たよ。このあたしよりも魔法適性の高い人間を」
口を開いた筆頭宮廷魔法使いにルミアは目を輝かせた。
「筆頭宮廷魔法使いよりも高いなんて、すごいです! 一応、私の方でもいくつか書物を漁って、魔術具の直し方について調べてみたのですが……」
「わたしの適性、そんな高いのものなのかな……?」
首を傾げたリフィリーゼはぱくりとサンドウィッチに齧りつき、ルミアが捲る書物を遠目から眺めるのだった。
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